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07相互関係:尾浜


「事実は否定する必要ないですよね」
「勘ちゃん…」
「それとも適当な愛想笑いでもしたらいいですか」
「ごめん…って…」
「兵助さあ〜!!??」
「だからあ、悪いとは思ってるよ!」

高校の頃から一緒にいることが多かった俺達。たぶん親よりも共有している時間は長いんじゃないかと思うほどだ。いや、本当にね。
大学に入ったらこの状況に変化が来ると懸念していたけれど、結果まったく変わることがなかった。ただ集まる場所が放課後の教室から斎藤さんの家へと変わっただけだ。兵助の家は一応女の子の家という事でほとんど俺達の溜まり場になることはない。かといって俺んちは…うん、なんかあんまり人を呼べる感じじゃないからね。
その点斎藤さんちは綺麗だし、広いし、何よりご飯が美味しいし。言うことないじゃない。
そんなことで今日はいつものように斎藤さんちでご飯のお礼にテスト勉強をみているって訳なのだけど…


「悪気はないのによくもまあそんなに悪態つけるよね。さすが兵助」

俺は心ない拍手をした。だってバイトで指導係をしてくれることになったほぼ初対面の人に対してそんな対応したなんて…これから兵助はどうバイト先で過ごしていくんだと想像しただけで頭が痛くなりそうだ。兵助の人付き合いの下手さには本当困りもんだ。ま、悪い虫がつかなくていいんだけど。


「だって…あっちも悪い…少し」
「ほうほう」
「男なんてゴミみたいなもんか、とか言った」
「そして兵助は否定をしなかった」
「だって…」
「だって…じゃあないで「はーい。ご飯出来たよお」

斎藤さんの気の抜けた声に俺のお説教は遮られた。

「まあまあ、尾浜くん。兵助くんも悪いと思ってるみたいだし、謝れるよね?その人に」

謝る、という言葉を予想もしていなかったのだろう。兵助はなんとも間抜けな顔で斎藤さんを見上げた。

「売り言葉に買い言葉とはいえ、兵助くん。言いすぎちゃったんだよね」
「え…う、うん」
「それなら言いすぎてしまってごめんなさい、位言ってもいいんじゃないかな。バイト始めたのもさ、人づきあい頑張ろうって思ったからでしょ?それなら、これが最初の一歩だと思うよ」

頑張って、といいながら兵助の大好物の豆腐(今日は揚げ出し豆腐か…)を差し出す斎藤さんはやっぱり大人だな、と思い知らされる。いつもは俺達に振り回されているのに、ここぞという時に良い道へ導いてくれるのが彼の良い所だ。それはもちろん兵助も分かっている。

「あ、明日…バイト」
「うん」
「そいつと一緒だから」
「うん」
「謝り…ます」
「良い子」

そう言って俺の分の揚げ出し豆腐もあげるね、と兵助の皿にいれる斎藤さんはやっぱり兵助の扱い方を誰よりも分かっている。俺なんか小学校の時から兵助と一緒にいるのに何でこう頭ごなしでしか言えないんだろう。俺も変わりたいなあ、なんて思っていたら兵助がこちらをじっと見つめていた。ああ、睫毛が長くてやっぱり可愛いな。

「勘ちゃんありがとう」
え、何が?俺じゃなくて斎藤さんじゃない?この場合。
「ううん、別に」

そう言って楽しそうにくすりと笑う横顔の意図がまったく読めない。何なんだ。






よく分からない

けど





なんだか心が少しあったかくなった。



だから、まっいっか!





その日の帰り際、兵助がトイレに言ってる間に斎藤さんが俺にこっそり耳打ちした。

「さっきのね、多分。尾浜くんが心配してくれたことが嬉しかったんだと思うよ。」
「…斎藤さん」
「何?」
「何でも分かってますね」
さすがです。と真顔で言うと、何その顔!とひと笑いした後
「俺はさ、兵助くんも好きだけど尾浜くんも好きだから。よく観察してるんだよ」
「なんか言われてあんまり嬉しい言葉じゃないね」
「ひど!…だからさ、こんなのも知ってるよ」
「はい?」
「尾浜くんが俺のこと大人だな〜と尊敬のまなざしで見てるってこと」


当たり?とにやりと口角をあげる顔は心底憎たらしくて、憎たらしくて、でも何でも分かっている斎藤さんだから多分何を言っても無駄なんだ。だから観念して大きくため息をひとつ吐いた。





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