05仮面を剥がす:利吉
私ね、嫉妬深いんですよ。そりゃあもうねちっこくて真っ黒腹黒なんです。だから先生が他の人のこと考えてるだけで嫌なんです。
「久々知」
ああ、間違えました。他の人の名前を呼ぶことだって嫌なんです。誰ですか、その女は。
「…土井先生?私服だと若くみえますね」
「久々知…それはいつも老けてるといいたいのか…?」
楽しそうに談笑する二人に苛立ちが隠せない私は心が狭いのかもしれない。おそらく私の顔つきから彼女もその苛立ちを察しているだろう。しかし社交辞令という上辺だけの会釈をかわしてまででこの女に良い印象を与える義務は私にはない。
「あ、利吉くん。すまないね。行こうか。久々知も…無理しなくていいからな、この人みたいに」
「…はい」
そう言ってまた二人でふふ、と笑う様が気に入らない。先生は高校1年の教科担当と言っていたから15やそこらなのだろう。それにしては大人びた印象をえた。大人びた…というか子供らしくないというか。
「今の子はね、ちょっと訳ありなんだよ。」
「そうですか」
得体のしれない女と別れ、先生は少し困った顔でこちらをみた。
訳ありって何ですか。綺麗な顔して少し俯けばみんな訳ありなんだと同情してくれるとでも思ってんじゃないですか、まあ、私には関係ないですけど。
「…本当正直者だね、君は」
「すみません。私自分の気持ちには素直でいたいので」
「利吉くんの性格だからね。気にはしてないよ」
気にはしてない。という言葉は無関心という言葉にひどく似ていると思った。
「先生は優しすぎるので他人が勘違いするのではないかと思います」
「うん」
「だからいつも胃が痛くなるんだと思います」
「うん」
「だから…」
ああ、私はなんて大人気ない。先生を一番困らせているのは私ではないか。
「本当に君という人は心が狭いね」
「はい」
「大人気ない。そして性格が悪い。」
「…はい」
「社交辞令と言葉知らない訳じゃないんだろ?」
「…はい」
先生。矢が鋭いです。私の心が保ちません。
「だからかな、君といるのは楽なのかな。何も無理しなくていいな、と思える」
楽。という言葉は楽しいという言葉にひどく似ていると思った。
先生は私だけにはとても正直なので、それだけで特別だと感じるんです。
「帰ろうか」
そういって悪戯っ子のように笑う先生の顔を誰が他に見ることができるだろう。
「優しすぎる先生」の仮面を剥がすのは私だけです。
しかし少しだけ引っかかった。こちらに一瞥する彼女の目。心を閉ざし、何にも頼らない。そんな目だった。おそらく先生にだって心を開いてやしない。わかるのだ。だって以前の私と同じ目をしていたから。
まあ、私の世界は先生を中心に回っているから関係のない話だ
彼女も先生のように何もかもさらけ出せる相手に巡り会えたらいいのに、そんな綺麗事は私の頭の隅にもよぎることはなかった
(あの子の目が以前の君に似ているから気になるんだ。って言ったら君は調子にのってしまうね。だから絶対言わないよ。)
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