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04糸を絡ませて:斉藤


「何してるの?」

俺はジャンケンで負けて得た図書委員の称号により、当番の仕事をしていた。活字即睡魔症候群(今名付けた)を患っていた俺にはひどく不似合いな場所で、はやくもこの業務に嫌気がさしていた。そんな春の午後だった、彼女を見かけたのは。

ひとつに束ねた黒くて長い髪、雪のように白い肌、捕らえたものを逃がさない漆黒の瞳。まだ幼さが残る同級生とは違い、彼女はただただ綺麗だった。


多分俺も彼女の瞳に捕まっちゃったんだろうな。うん、そうだ。

だから俺は気付いたら彼女に話しかけていた。意識的ではなくて勝手に体が動いた結果だった。

その女の子は驚いた様子もなく、無垢な眼でこちらをじっと見た。

「…」


「あ、ごめん。つい見とれちゃって。あ…」

ついバカ正直に口を滑らせてしまった。初対面でこの言葉はただのナンパでしかないよね。俺はあれこれ頭を捻ったがうまい弁解が見つからなかったのでひとまず敵ではないことを示すため笑ってみせた。

だけどその行動は効果を発揮せず、彼女の顔はだんだんと影をみせた。そして

「私がここで何かをしていたとして、あなたには関係ないと思いますが」

と台詞を吐き、そのままその場から立ち去ろうとした。

俺が今何か行動を起こさなければおそらく今後彼女との糸は繋がらない。でも何か、彼女とはこれからも永く永く付き合っていくような予感がしたんだ。

だからとっさに彼女の手を掴んだ。

「待って。ねえ、嫌な気持ちにさせたならごめんね。でも俺さ友達欲しかったんだ。なんでも話せる友達、どうかな?」

どんな巧い言葉を発したとしても俺はかなり不審な人物だっただろう。
だったら不審人物でいい、ひとまず俺という存在を彼女の頭にインプットさせたかったのだ。

これが俺と兵助くんの出会いだった。




「あの時斎藤のこと本当にうざ…って思ったな」

「えへへ、泣こうかな」

「今もだけど」

「本当に泣くよ!?」



0317

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あきゅろす。
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