01変化は訪れる:尾浜
しんと静まり返った校内、生徒は殆ど見当たらない。それはその筈今日は休日であるし、昨夜降った雪のせいで電車は動かず俺達のように徒歩で高校に辿り着ける者を除いてはこの校内にいないだろう。
寒い思いをして辿り着いたそこには補充されていないと予想されるしけた自販機。そこから飲み物を選ぶのは至難の技だ。迷った挙げ句腹いせにひとつ冷たい牛乳を購入することにした。ガコンと出てきたホットコーヒーでかじかむ手を温める。冷たい牛乳はポケットに収めた。
ふと後ろを振り返えると慣れ親しんだはずの校舎が急に見知らぬものに見えた。
あの壁は穴が空いていただろうか
こんな所に扉はあったか
いつも何を思いながら此処に立っていたのだろうか
途方もない感情にバカらしくなりあいつらが待つ教室へ足を速めた。
「あ、勘ちゃんおかえり」
「おかえりい」
「…どう?兵助。いけそ?」
「無理。斎藤落ちるよ」
「ひ、ひどい…私の力で合格させてあげるとかそういうこと言うもんじゃない?普通」
「私別に斎藤が大学落ちても関係ないし。勘ちゃんいるし」
「兵助くん…もう嫌い…」
斎藤さんは机に突っ伏して慰めて欲しいオーラをだすが俺と兵助は無視をする。こんな時間が一番心地よい。信頼している奴達との馬鹿な会話。
「大学…楽しいかな」
顔をあげずに斎藤さんが呟いた
「楽しいんじゃない。斎藤もいなくなるし」
「尾浜くん…フォローよろしく…」
「兵助のセーラー服も見納めだね」
「勘ちゃん変態くさい」
「ねえ、俺へのフォローは?」
ああ、そういえば買ってきた飲み物をまだ渡していなかった。俺はコーヒー、兵助には紅茶、斎藤さんには冷たい牛乳。尾浜くんひどい!なんて言いつつも優しい彼はきっと飲むだろう。しかし斎藤さんはお腹が弱いからこれを飲んだら十中八九お腹を壊す。
そしてあと1週間となったセンター試験に少なからず影響を与える。斎藤さんは世界史が苦手だからそこで何時もより10点悪い点をとる。しかしもっと苦手な古文が以前読んだことのある文章の為回避される。
結果―
俺達3人は同じ大学に通うことになる。
これは思い出話ではない。ただの俺のくだらない予想だ。斎藤さんが腹をこわそうが何でもいいが、試験に合格だけはしてもらわないと困る。
だって俺と兵助と斎藤さん
誰一人として欠けたら駄目なんだ。
これからも
きっとずっと
「3人で、こんなこと出来るのもあと少しかもね」
「斎藤さんは別の大学ですもんね」
いつもと何の違いもない会話
でもその時だけは、これから起こる何かを暗示するように聴こえた。それは悲観的なものではなく、どこか希望の言葉に思えた。
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