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これから



あの後、私は動揺から携帯を落としてしまった。その衝撃で通話は切れてしまったが、余裕がない程取り乱していたため、切れた事にさえ気がつかなった。
私の様子から話し合いは一旦お開きになり、私は部屋に戻ったあとひとしきり泣いて、現在進行形で目が腫れている状況にある。
ヤバい…こんなんで外出れない。



 これから



ベッドに突っ伏しながら、私は電話の内容を思い出した。
私が死んだという内容だったが、だとすると、今ここにいる自分が誰なのか。
そんな事を考えたって答えなんて出ないし、鬱になるだけだってわかってるんで、ここはひとまず考えないようにしよう!

次は、どうして圏外なのに通話出来たのか。
いや、それもわからないな。携帯開発した人じゃないし。うん。
みんなの会話からも、電話はかけてきたのではなく勝手にかかってきたように感じたし。そもそもどこからかかってきたんだよ…。

次は、医者っぽい人が言った私が死亡した日付。
たしか8月15日と言ってたが、その2日前の13日が、私が崖から落ちた日。しかし、私はこの世界にきてから1ヶ月以上経っているわけで……
どうなってるんだ、時間軸。

そこまで考え、わからない事だらけだという事に気づき、突っ伏状態から更に脱力した。
わからない事だらけで、私にどうしろというんだ!いや、誰がどうしろと言っているわけではないんですけどね。
私は果たして帰れるのだろうか……

………?

「……いや、帰れないだろう!火葬されちゃうよ、私!」

私?私はここにいるけども!
あっちに死んでる私がいるんだとしたら、火葬されてほしくないし。見えないけれど、自分が焼かれるのとか気持ち悪い…。

脱力感満載でベッドに突っ伏していると、扉をノックする音が聞こえてきた。
とりあえず、面倒だし腫れた目も気になるので無視を決め込むことにする。出てこないとわかったら相手も出直すだろう。
そう思ってジッとしていたが、3回目のノックの後少し時間を置いてから扉の開く音がした。
一瞬驚くがベッドに突っ伏している状態という事を利用し、寝たふりをする。

ベッドを沿うように、私の頭の方へ足音と微かな食器音が近づいてくる。
足音が真横で止まると、前の棚にお皿を置く音が聞こえた。
シェリアだろうか?そう思った時、声が聞こえた。

「寝ているのですね……。何も被らずに仕方のない人だ」

眼鏡少佐!?なんでーっ!!
一番聞こえてほしくない人の声がして急に全身に力が入る。寝たふりだと気づけは、銃ぶっ放されるんだろうか…

足音が少し遠のいた後、引き出しを開閉する音が聞こえ、また近づいてくる。
いったい何なんだろう。早く出て行ってほしいですけど。
その時、体に毛布がかけられた。知らぬ間に冷えていたのか、かけられた事により温かさを感じる。
眼鏡少佐、意外といいところあるんだな。……よく知らないのに意外とか失礼かな?

そしてまた、扉をノックする音がした。眼鏡少佐がそれに答え、扉が開く。

「あら、ヒューバート。どうしてここに?」

シェリアの声だ。足音が部屋に入ってきて、扉が閉まる音がする。

「食事に来なかったからと、フレデリックに頼まれて夕食を持ってきたんです。この時間からすると夜食ですがね」
「引き受けたの?意外だわ…」

私も、そう思います。が、どうしてあなた方はここで話していらっしゃるのでしょう?早く出て行ってほしいんですが。

「リクのこと、信用してないんでしょ?」
「…信用はしていません。頼まれたから来ただけです」
「毒とか盛ってないでしょうね?」
「信用してないだけで、殺すような事はしませんっ」

笑いを含むシェリアの声。反対に眼鏡少佐の声は怒っているようにもとれる。
と、いうか、本当に盛られてたら笑い事じゃないのでやめてください。
シェリアの足音が私を挟んで、眼鏡少佐の前へと移動する。

「わたし、思うんだけど。記憶喪失のソフィと、この世界のことを何も知らないリク……あまり変わらないんじゃないかしら」
「それでも僕は、あなたのように簡単に信じる事は出来ません」

それだけいうと眼鏡少佐は部屋を出ていった。

「素直じゃないんだから…」

シェリアは呟くように言う。
私は、突っ伏状態に疲れてきて、起き上がるタイミングがほしいと切に願った。
眼鏡少佐が出て行ってしばらく、シェリアは何をするでもなくベッドの横にいた。そのせいで余計にタイミングが掴めず、私は奇声を上げながら体を起こすと、シェリアは驚いたのか目を丸くして固まっていた。


「それにしても、酷い目ね」
「ショックが大きすぎて、思いっきり泣いたから」
「今のリクを見てると、とてもショックを受けたようには見えないんだけど」

勢いよくオムライスをかき込む私を見てシェリアは呆れたように言った。

「だってお腹空いたら、何も出来ないでしょ。食べるって凄く大事っ」
「はいはい。わかったから、喉詰めないでよ」

そう言ってシェリアはお水を渡してくれた。お礼を言い、受け取って口に運ぶ。

「ねぇ、シェリア。私、どうしたらいいと思う?」
「……帰りたいんじゃないの?」
「帰りたい……だけど、帰れるのかな?」

コップのお水を眺めてシェリアに訊ねる。彼女に聞いたって答えがわからない事はわかっていた。ただ、どういう方向にしろ、この状況から動けるように背中を押して欲しかったのだ。シェリアはそれを感じとったのか、優しい口調で元気付けるように言った。

「帰る方法、探してみましょう?たとえ、もとの世界にリクと同じ人が居たとしても、何か理由があるはずよ。こういう言い方はあれだけど、向こうのリクは死んでいて、こっちのリクは生きているわ。それも、きっと何か関係があるのよ。諦めないで、進んでみましょう」

にっこりと笑うシェリア。
私もつられて笑顔になる。

「とは言っても、このままラントに居たんじゃ帰る方法は見つからないと思うの。だから他の町や国を回ってみるのはどうかしら?」

シェリアの言葉に一瞬、目が点になった。

「町や国を回るっていうのは……」
「簡単にいうと旅をしてみるってことかしら」

フレデリックさんから聞いた話によると、町の外には魔物がいて不用意に近づくと怪我だけじゃ済まなくなるとか言っていた気がする。
私は恐る恐るシェリアに訪ねた。

「それは、一人旅ですか?」
「問題はそこなのよね。ついて行ってあげたいんだけど…わたし、救護使節として王都の方へ行くことになったから……」

シェリアはそう言って言葉を濁す。私はというと、救護使節?と小さく呟きながら内心首を傾げた。

「そう。この国の王が亡くなって、王様のご兄弟・セルディク大公が王位につかれたんだけど、基もと王位継承をするはずだったリチャード陛下が行方不明になられたのよ」

話についていけているのか、自分でもわからないが相槌は打っておく事にする。

「それでヒューバートが、リチャード陛下はこのまま内乱を起こすだろうと予想して、救護使節を立ち上げる事を進めてきたの」

そこまでいうと、シェリアは思いついたように声を出した。

「一緒に王都へ行かない?私は救護使節があるから、そんなに手伝えないかも知れないけど、王都へ行けば何か手がかりがあるかも知れないわ」

シェリアはそう提案してくれたが、私は内乱という言葉がひっかかり素直に頷く事が出来なかった。この世界は、人の戦いが多すぎる。それとも、戦争はしないと宣言した国にいた私が平和ボケし過ぎているのだろうか。どっちにしろ、この世界では魔物にしろ人にしろ、戦うことになれなければいけないんだな。
そんな事を考えていたからか、気づけばシェリアの誘いを断っていた。

「内乱ってことは、人を殺すかも知れないんだよね…だったら今の私は足手まといだから」

そこで言葉を区切ると、シェリアが心配そうな表情でこちらを見ていた。

「人を殺すことに慣れちゃ駄目だけど、足手まといになるのは嫌だから、今回の救護使節の用事が終わるまでバリーさんに鍛えてもらうよ!あと、字も勉強しないとシェリアにばかり頼っていられないし。だから、救護使節の用事が終わったら私と一緒に町を回ってほしいな」

笑いかけてシェリアに頼むと、彼女も笑顔を向けて もちろんよ! と答えてくれた。

その後、いろいろ他愛もない話をし、救護使節としてラントを出るのが明日のお昼だと知り驚かされた。夜も遅いので、明日の為にもしっかり寝るようにと、何時までも居座りそうなシェリアを家に帰し、私はベッドへ横になる。

今まであまり考えなかったけれど、私はシェリアに支えられているんだなと、この日実感した。見ず知らずの私のことを、少しでも思ってくれている彼女に本当に感謝して、眠りについた。






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