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電話の向こう




どんなに願っても時間は過ぎていくもので、今、机を間に挟んだ目の前に眼鏡少佐が居たりする。眼鏡が逆光にさえなっていれば、感じなくてよかったかも知れない鋭く睨む視線がチクチク刺さっております。痛いよ。とっても痛い。



 電話の向こう



シェリアが切り出し要件を話してくれたが、眼鏡少佐の眉間の皺は一向に晴れず、異世界から来たという事を何か証明してください。と、まで言われる始末。証明するにしても、納得してもえそうなことなど見つからず困った顔でシェリアを見上げれば、彼女は そうだわ と声を出した。

「この間、わたしたちに見せてくれた手のひらサイズのコンパクトみたいな機械はどうかしら?」

せっかくの言葉だが、一瞬何の事を言ってるのかわからず私は間抜けな返事をした。すると、シェリアは耳にあてがうジェスチャーをし、携帯の事を言っているんだと理解する。

「ぃゃ、でも…これで証明といわれても……」

この携帯、ここに来てから、充電していないのにも関わらず電池切れした事はないが、常に圏外で家族に連絡を入れようにも入れれない状態だった。
まぁ、つまりは携帯の本来の機能が全く失われてるようなものだ。
携帯を取り出し開ける。やはり、アンテナの位置には圏外の文字が出ている。私は小さく唸った。

「疚しいことがあって見せれないんですか?」

眼鏡少佐が嫌みたらしく言う。年下のクセになんだか腹が立つなぁ…

「これは、携帯電話って言って遠く離れてる人に会いに行かなくても会話が出来たり、手紙のやりとりも携帯に打ち込めば、日にちをかけずすぐに相手に届いたりする機械です。」

そう言って眼鏡少佐に手渡すと、角度を変えながらじっくりと携帯を眺めている。

「これは、何を原動力として動作しているのですか?見た感じでは、輝石は見当たりませんが」
「電気…ですね。電池パックが入っててそれが充電式なんです」

電池パック?と口にしながら眼鏡少佐は私へと向き直った。

「これはアンマルチア族が作った物ですか?」
「あ、あんまるちあぞく?」

あんまるちあぞく?なにそれ、美味しいの?
そう言った私の言葉に、眼鏡少佐は眉を寄せる。知らない物は知らないのだから仕方ないだろう。と、その時、携帯から音楽が流れ出した。眼鏡少佐は握っていた携帯に視線を落とし驚いていた。私もシェリアも同じように携帯へ視線を移す。

「なんですかこれは?」

険しい表情でいう眼鏡少佐。私も違う意味で顔が険しくなる。どうして私の携帯にドラえもんのオープニングが入っているんだ!?ダウンロードした覚えがない。

 〜あんなこといいな♪
  出来たらいいな♪〜

物凄く場違いな曲が、執務室に流れている。曲を聞きながら、ある意味異世界トリップも"出来たらいいな"の部類に入るのではなかろうか?と、私の頭もまた場違いな事を思っていた。
眼鏡少佐から携帯を受け取り、音楽を止める為に画面を開けると、そこには"非通知着信"という文字があった。しかし、電波は着信しているにも関わらず圏外だ。どうなってるんだ、この携帯。しかもドラえもん…これは多分お兄ちゃんの仕業だろう。そう思いながら、私は電話に出るべく通話ボタンを押した。
プッという短い音と共に耳元に携帯をあてがうと、大音量のノイズ音が携帯から溢れ出した。大きすぎる雑音に驚き私は耳から携帯を遠ざける。
眼鏡少佐もシェリアもわけがわからない様子でこちらを見るが、私だってよくわからないのだ。説明する言葉が出てこなかった。

しばらくノイズ音が続き、もう切ってしまおうかと思った矢先、ノイズ音に聞き覚えのある女性の号泣する声が聞こえてきた。
非通知にノイズ音に女性の号泣、これはなんだ?ホラーか!?と言いたくなるが、聞き知った声に小さく口が動く。

「お母さん…」

小さ過ぎる為、他の音に消されその言葉は2人は届かない。どういう事だ?これはなんだ?疑問だけが頭を埋め尽くす中、今度は男性の声が聞こえた。


ザ───…ぃ────

─ザザ…──ろよっ!───おいっ!

起きろっ!目ぇ覚ませっ

理久っ!!


「お兄ちゃん!?」

名前を呼ばれて、男性の声が兄だと気づく。その声にも少し、すすり泣いている感じがあった。だが、起きろよとはどういう意味だ?私は現在進行形で、仁王立ちしながら携帯から流れる音に聞き入っている。この状況、シェリアと眼鏡少佐は元より私でさえも全く理解出来ない。そんな中、携帯からは次々に声が聞こえてくる。


2人とも……悲しいのはわかるけど、あんまり泣かないでよ……っ

じゃぁ姉ちゃんは悲しくないのかよ!

悲しいわよっ!
あんたみたいにがさつだったけど、妹が死んで悲しくない姉なんてどうかしてるわよ!


「……ぇ?」


理久はっ!?

父さん!

片瀬理久さんは先程…
8/15 午前0時12分にお亡くなりになられました。

先生!どうにかならないんですか!?

最善を尽くしたのですが…

父さ──────


会話は聞こえているが、あまり耳に入っていなかった。
家族4人と先生らしき人物が繰り広げる電話の向こうの会話。
──自分が死んだという、会話。

聞こえた内容を理解したのか、シェリアも眼鏡少佐も心配そうな顔をしたが、今の私にはそれを挽回するだけの元気はなかった。

私が…死んだ?

「私は………誰…っ?」

言った声は、自分でもはっきりわかる程に泣き出しそうだった。





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