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ラントという町



庭での素振りにも疲れてきた頃、空は茜色を通り越し紫がかっていた。
1ヶ月ぶりの素振りは、剣がいつもより重い事もありあまり捗らなかったが、体の方は十分というほど汗をかき疲れていた。
お風呂、入りたい……



 ラントという町



メイドさんにお風呂のある場所を聞きタオルと着替えを借りて汗を流した後、脱衣所で髪の毛を拭いていると借りた着替えが視界に入った。
私が借りたのは男性物のシャツと半ズボン。男性物しか無かったわけではなく、女性物には何かとフリルが付いていて尚且つスカートだった為、頼んで男性物をだしてもらったのだ。
スカートなんてスースーする物制服でしか着た事がない。しかもスパッツ着用は当たり前。
どうして女性物と言えばスカートになってしまうのか…
そんな事を思いながら髪を乾かし着替え終えると脱衣所をあとにする。

借りている客室へ向かう廊下を歩いていると、窓の外にモソモソと動く山が見えた。
暗くて良く見えないのだが、屋敷を囲む塀の向こう側を何かがゆっくり動いている。
なんだあれ…デカいよ。ねぇ、デカいよあれ。
気になったので、急いで部屋へ戻り荷物を置くと私は屋敷を出て動く山が進んでいた方へと歩いて行った。

屋敷に沿って歩くと、探していた物は直ぐにみつかった。
なんと言えばいいのか、かなりデカい乗り物みたいなものがそこにあった。
その乗り物内で何かしていたのか、中から人が降りてくる。重いだろう布の量を服にして身に纏った、女性なのか男性なのか検討がつかない顔立ちをした人だった。
私が呆然と見上げていると、その人は私に気がついたようで手を振ってきた。

「お客さんっすかぁ!」

しゃ、喋り方…!!
見た目も特徴的だけど、喋り方も特徴的過ぎるだろ。なんだ、ワザとなのか?

「ぃぇ、違います」
「冷やかしっすかぁ〜?怒るっすよぉ」
「ぃゃ、そういうわけでもないですが…」

かめにんと名乗った彼は世界各地に散らばっているかめにんというなの行商人グループの1人らしい。なんとも個性的な人だとは思っていたが、話し方も服装もかめにんさんたちで統一している事も教えてくれた。
因みに私が動く山だと思ったものはかめ車と呼ばれ、巨大かめに座る場所設けた乗り物で町と町を行き来している。
説明されて初めて、かめとして認識しデカ過ぎるかめにびっくりした。よく見ると呼吸のためか微妙に動いている。正直怖い。

かめにんさんには初めてこの町に来たよそ者、と話しこの町の事を訪ねてみた。

「そうっすねぇ。この町の名物といえば風車と輝石っすね!」
「風車と…くりあす?」

なんだそれは、と思いつつも当たり前的な顔をして話すかめにんを見ると、輝石というのは一般的に使われる単語らしく、表情には出さないよう努める。

「はいっす!風車は暗いとよく見えないから明日にでも見てみるといいっすよ。上に登れて景色も風も気持ちいいっす。輝石は町の外に続く川沿いで見られるっす。輝石と言ってもかけらっすが、たくさんあるからキラキラしててとっても綺麗っすよ。魔物がうろついてて危ないっすけどね」

かめにんさんは心底楽しいそうに話をする。説明中、手の動きが激しいのもかめにんさんたちで統一されているのだろうか。

「どっちにしろ、今直ぐには見れないんですねぇ」
「そうっすねぇ。夜の魔物は昼より狂暴っすから、明日の楽しみにするといいっす!」
「そうします。色々教えてくださって、ありがとうございました」

そう言って手を振ると、かめにんさんは“かめにんもどうぞよろしくっす!”とよくわからない事を言いながら振り返してくれた。相変わらず腕の振りは激しい。風車や輝石を別段見たいわけではなかったが、暇があったら見てみようと思った。

せっかく出て屋敷の敷地内から出て来たのだから、とゆっくり歩きながら町を見渡す。それ程夜遅くではないと思うのだが、思った以上に町全体は暗く静かだった。疑問に思ったが、すぐに奇襲作戦が今夜だった事を思い出す。町全体が緊張しているための静けさなのか、戦争のための静けさなのか、どっちにしろ寂しそうに感じた。ただそれは、私自身もラントに身を寄せている事を忘れたような他人事の感情だった。それに気づいて苦笑する。
戦争を経験したことのない私には、当人たちの本当の気持ちなんてわからない。だけど、今日接してくれた町の人たちは戦争なんて感じさせない程の笑顔だった。この町の人たちは、心が強いのかもしれない。

「見習わないとな…」

ポツリと呟いた言葉と一緒に、自然と笑顔も零れた。






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