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闘技島




“君が知りたい事は理解しているから”と特別に話してくれた内容は。ソフィとラムダが敵対していて、互いに殺し合うような関係だという事だった。私が夢でみたリチャード陛下とラムダの関係も本当らしい。なんだか複雑な心境になる。
そして、ラムダのこと自体ソフィは忘れてしまっているらしく、他言無用でお願いしたいということだった。光が何故そんな事を知っているのか、そんな頼みをしてくるのかわからないが、私は素直にそれに従うことにした。みんなに伝えたところで、光の存在をどう説明すればいいのかわからなかったのだ。特に眼鏡少佐は、物的証拠を提示しないと絶対に信じないだろう。
お陰様で、泣いてしまった理由に困り果てた私は、縁起は悪いが“みんなが死んでしまう夢を見て”と曖昧に嘘をついた。
簡単に朝食を済ませて船を降りると、そこは壁に囲まれ薄暗くなった船着場で、中央に長く広い登り階段が設けられている。その階段の上を仰げば、とても高い円筒形の塔が伺えた。眼鏡少佐曰わく、そこがライオットピークと言われる闘いの聖地らしい。アスベルが、興味深そうに“ライオットピークか…”と呟いていた。



 闘技島



「ようやくお出ましのようですね」
「下で野垂れ死ぬかと思ったが、それなりに実力はあるようだな」

眼鏡少佐が相変わらずの嫌みったらしい口調で目の前に佇む赤色の軍服を身に纏った数人のフェンデル兵に言えば、負けず劣らずの嫌みな口調でその中のリーダーであろう一人が返した。

フェンデルへは、闘技島を経由しフェンデルへ送り込ませている密偵の手引きで渡るはずだった。だが、待てども密偵の姿は見えず、挙げ句の果てにパスカルがフェンデル兵と騒動を起こしてしまい、私たちはフェンデル兵とライオットピークで勝負をする事になったのだ。
先に挑発してきたのはフェンデル兵たちで勝負自体は無いに越したことはなかったが、そのフェンデル兵の手に密偵が囚われてしまっている事がわかり、敢えてその挑発に乗って現在に至る。

「さて、始めるか。精々楽しませてくれよ」

ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべると、フェンデル兵たちはそれぞれに武器を構える。私たちもフェンデル兵に習い、それぞれの得物を構え対峙した。

「俺の銃の威力は半端じゃないぜ」
「御託は結構、あなたはこの双剣の前に散る運命なのですから」

自分の得物を自慢するフェンデル兵に、眼鏡少佐は興味なさ気に返す。いつもそんな事を言いながら敵と対峙しているのだろうかと考えると、その気障ったらしい口調に私は苦笑した。それも束の間、フェンデル兵たちは攻撃を始め、相手の武器が銃器だということから私たちは一気に散開する。銃器といっても大きさがあるからか動きが遅くフェンデル兵との間合いを詰めることは容易で、銃口を向けられても少し横にそれてしまえば撃ち抜かれる事もない。私が戦い慣れしてきたのもあるとは思うが、ラントでフェンデル兵と交えた時に比べると、今対峙しているフェンデル兵たちは劣っているように感じた。
フェンデル兵の一人に背後から詰め寄って刀を振るえば、気配に気づいたフェンデル兵は身を反転させて銃身で刀を受け止める。刀を反転させて銃を弾き、少しよろめいたフェンデル兵へしゃがみ込んで足払いをすれば、容易に態勢を崩して相手は尻餅を付いた。それに追い討ちをかけようと刀を握り直せば、視界に此方を狙う銃口を捉え敢え無く後退する。避ければ弾丸は当たらないが、銃器2人を相手にするのは少々面倒だ。策を巡らせるも良い案は浮かばず、そうこうしている内に尻餅を付いていたフェンデル兵が立ち上がる。構えようとしていた銃に気づきすぐさま間合いを詰めて、銃を掴んだ。合気道の要領で相手の力を利用し手首を抑えると銃を奪い、遠くへと放り投げる。銃を奪われたフェンデル兵はすぐさま腰に下げた剣を抜き応戦してきた。横薙された剣を刀で受け止め流せば、また前方から此方を狙う銃口が見え冷や汗を浮かべる。が、その銃口から弾丸が飛ぶよりも前に眼鏡少佐の双剣が届くのが見え、安堵した。不意に、目の前のフェンデル兵から顔面目掛けて突きが繰り出され、咄嗟に刀で防ぐ。

「危っ…」
「よそ見とは良い度胸だな」

小さく呟けば、睨みつける視線と共にそんな怒気を含んだ言葉が返される。怒られてしまった事に苦笑すると、更に勘に触ったようで振るう剣に力が入ったのを感じた。交えたままギリギリと震える刃を相手は一向に引く素振りを見せない。だからと言って私自身に押し切れる力があるわけでもなく、私は力を抜いて相手の正面から身体を横へとずらした。すると支えがなくなった相手の力は均等のバランスを崩し、一気に前のめりする。そこへ背中目掛けて思い切り刀を振るえば、兵士は短い呻き声を洩らして倒れた。

「安心しろ、峰打ちだ」
「気障ったらしい台詞ですね」

血はもとより、服さえも斬れていない兵士の背中を見て、少しばかり言ってみたかった台詞を呟いてみる。すると、誰にも聞こえていないと思っていた呟きに対する答えが返ってきて、私は恥ずかしい思いがありながらも、声がした方へと視線を向けた。

「少佐に言われたくないです」
「僕の方こそ、お酒とお茶の区別もつかない人に言われたくないですね」
「ぅ…」

膨れ気味に反論すればそう返され恐縮する。今は関係ないのに卑怯だ。そこへ、兵士の声が聞こえそちらを向けば、眼鏡少佐も兵士を一瞥した後、口を開いた。

「さぁ、決着はつきました。我々は戻るとしましょう」

そう言って兵士から視線をそらせ身を翻そうとした眼鏡少佐だったが、思い出したかのように顔を上げ拘束されている密偵の兵士へと視線を移した。

「そう言えば、僕たちが勝った場合にどうするか決めてませんでしたね。折角ですから、そこの方の身柄を解放していただきましょうか」

初めからそれが目的で話しているのはわかっているが、芝居めいているのがわかりむず痒くなってくる。眼鏡少佐に演劇は向かないのかも知れない。

「そこの方、あなたはもう自由の身になったようですよ。僕たちと一緒に来ませんか?」

眼鏡少佐の言葉が終わると同時に、ヤケになった兵士の一人が密偵に銃を向ける。このまま密偵は殺されてしまうのだろうか、と心に焦りを浮かべたがそれはすぐに消え、それとは別に緊張で身体が縛られた。

「今……何が?」

一瞬過ぎて、何が起こったのか全くわからない。ただ、銃を向けた兵士はその場に倒れ込み、兵士の前には黒いローブを纏た人間が佇んでいた。
ローブの人は兵士が動かないのを確認すると、何事もなかったように踵を返して歩いて行く。ローブのフードを深々と被っていたため、その顔や表情も捉えることは出来なかった。
眼鏡少佐と教官の説明によると、ローブの人はライオットピークの番人であり、この地を目指す人の目標でもあるらしい。番人は3人いて、その番人を倒す事によって新たな番人が決まる仕組みで、番人になった人は船着場の一角に建てられた戦士の記録というもの名前が刻まれるんだそうな。その中には女性の名前も幾つか見られ、私はシェリア共々驚いた。
先ほどの番人の行動は“決着がついた後、再び武器を構えてはいけない”という掟に背いた兵士へ制裁を与えにきたらしい。生きているのか死んでるのか定かではなかったが、一瞬にして現れ瞬時に事を終わらせたあの速さはとても人技とは思えない。世の中には凄い人がたくさんいるんだな、神業だよ。


密偵と連絡が取れた私たちは、フェンデルへ向かう船内にいた。丁度昼時と被ってしまい、女性メンバーで食事をとる。
シェリアは相変わらず焼き鳥丼で、パスカルはお昼だと言うのにバナナパイとバナナを大量に注文に美味しそうに頬張っている。パイにもバナナ入ってるだろ、どれだけバナナ好きなんだよ。とは突っ込めず、そんな私は焼きそばをつつきながら、カニタマを崇めるように褒め称えるソフィの語りを聞いていた。止まる事を知らないソフィの言葉を聞きながら、別に好物でもない焼きそばを食べていることが、妙に申し訳なくなってくる。カニタマを注文するべきだったのか本気で悩み始めた頃、バナナを貪っていたパスカルから呻き声が聞こえた。チラリと視線を向ければ表情が青ざめている。

「ちょっと、パスカル!?どうしたの?」
「き、気持ち悪い……」

口を押さえて今にも吐きそうに言うパスカルに、瞬時にバナナの食べ過ぎだと悟りシェリアもそれに気づいたようだったが、ソフィだけは“船酔い?”と訊ねていた。
それからすぐシェリアに介抱されながら甲板へ出たパスカルは海に食べたバナナをもどし“もったいないよぅ”と嘆きながらも吐いて元気になると、黄昏ていた教官にちょっかいを出し、あえなく撃沈していた。
いくら好き過ぎでもって、食べ過ぎてはいけないんだな、と改めて実感した今回の船旅だった。






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