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異世界



私、片瀬 理久は只今、見知らぬ世界の見知らぬ土地でアスベルの家のベッドをお借りし、途方に暮れております。どうやらここは、ラントと言う場所でこの世界にはウィンドル・ストラタ・フェンデルの3ヵ国しかなく、私がいた地球とは全く違うようです。
一体、何がどうなってこうなったのか……私は帰れるのだろうか?来る時の事さえ意識なくて解らないのにどうやって帰るのか…



 異世界



今この部屋には私しかいない。
アスベルは亡くなった父・前領主アストンさんの後をついで領主になるらしく、今この町・ラントに攻めて来ているフェンデルという国を退ける為出ていってしまった。シェリアと少女もその手伝いだ。戦争自体、今の日本では無縁と言っていいくらい平和ボケしてる私としてはいまいち実感が湧かない。といっても、トリップしてるという事実すら受け入れ辛いのだが……
膝に置かれた皿からサンドイッチを一つとり頬張る。“久々に起きてお腹空いてるでしょ”とシェリアが作ってくれた物だ。空腹過ぎて死ぬかも、と思っていたところなので凄く嬉しい。
私がこの世界の人間じゃないとわかった時、少女は首を傾げるだけだったが、アスベルとシェリアは流石に怪しんだ。でも、日本の事を説明したり、棚の上に私の私服と共に置かれていた携帯電話を見せたりすると、この世界には存在しない物らしく少しだが納得してくれたみたいだった。
こちらに来た時の記憶が無いこともあり、今後の動きはフェンデルに対する作戦が終わってからという事になった。その間、平和ボケしてる私はお留守番だ。作戦は夜実行するみたいなので、みんなの帰りは朝方になるとか。
お茶を啜り、息を吐く。とりあえず、むず痒く感じていた敬語を止めてもらう事には成功したが、これからどうなるのかは全く検討がつかない。そして現実感が無さ過ぎて全く焦れない。ヤバいな……焦らない私自身が、とっても。
空になったコップとお皿をお盆に乗せると、私は自分の両頬を思いっきり叩いた。耳に余韻のようなキーンとした音が残るが気にはならない。
これは、試合前やテスト前、その他諸々のしっかりしないと駄目な時に毎回している私の気合い入れの一つだ。とりあえず、動こう。ここがどんな町なのかも気になる。そう思いながら私服に着替える。体を動かすと多少痛さはあるが、普通に動かす事が出来た。シェリアが固まらないよう、いつも動かしてくれていたのだろうか。死にかけだったところを助けてもらったり、目も覚まさない見知らぬ人間にここまでしてくれるなんて、感謝しなければならない。
自分でもゆっくりだが軽くストレッチをした後、お盆を持ち部屋の扉を開けた。

部屋の外へ出ると大きな階段が見えた、階段に沿い視線を上げると家族だと思われる4人の大きな肖像画がかけられていた。その中の1人の少年は幼い頃のアスベルにも見える。階段と空間の広さに感嘆の声が漏れた。なんてお金持ちなんだ。扉の前でボーっとしているとメイドさんの1人が私に気づいて声をかけてくれた。

「お目覚めになられたのですね。ご気分はいかがですか?」
「美味しいお茶とサンドイッチのおかげで良好です」

内心、メイドさんに話しかけられたっ本物だ!なんて思っているのは秘密です。

「ところで、これは何処に持って行けばいいですか?」

軽く盆を掲げていうと、メイドは私がやりますのでと受け取ってくれた。そのまま会釈をして立ち去ろうとしたので、引き留めて庭を見て回ってもいいかと訪ねると笑顔でどうぞと答えてくれた。


庭に出ると、空がほんのり赤く染まっていた。夕焼けのように見える。そういえば今は何時なんだろう?起きてから時計らしき物を一度も見ていない。寝過ぎたせいで狂ってしまっている体内時計や体調も直さないと行けない。体調を治すなら、やはり素振りだろうか、とぼんやり考えながら綺麗に整備された庭を見渡した。円を描くように設けられた4つの花壇には、色とりどりの花が咲いている。初めて見る花の中に、名前は知らないが見たことがある花も混じっていた。両サイドには噴水も取り付けられていて、風が吹くとひんやりとした空気が頬を撫でる。気持ちの良い風に目を細めれば、視界の端に花壇に水を撒いている黒いスーツ姿の老人が1人見えた。

「こんにちは」

近づいて声をかけると、老人は静かにこちらを向いた。

「おぉ、リクさんですね。シェリアから目を覚まされたと聞いております」
「シェリアから?」
「はい。私はシェリアの祖父でして」

老人は笑顔で言うとフレデリックと名乗った。フレデリックさんはアスベルの家に勤めている使用人らしい。領主なのだから当たり前だが、やはりアスベルの家は金持ちだ。フレデリックさんはアスベル達がまだ小さかった時の話をしてくれた。
どうして私にそんな話を?とも思ったが黙って聞いていた。
アスベルは正義感の強い男の子で、一度決めるとなかなか曲がらないところがあったみたいだ。アスベルには弟もいるらしいが、幼い頃に養子に出されそれ以来連絡はないらしい。シェリアは病弱だったがいつも家を抜け出してアスベル達と一緒に遊び、フレデリックさんを困らせていたようだ。私の家族も心配してるのだろうな…と思うと、家族や友達ともう会えないかも知れないと、一瞬頭をよぎった。
フレデリックさんが水撒きを終えたので、何か素振りに使える物はないか訪ねてみる。

「素振りですか。リクさんも剣術を嗜んでおられるのですね」

剣術なんて、そんな大層ことはやってないんです。なんかごめんなさい、フレデリックさん。フレデリックさんの言葉に私は生半可な言葉を返した。

「竹刀とか有れば嬉しいんですが、無かったら木刀とか……」
「シナイ?ボクトウ…」

無いんだろな。フレデリックさんの口調が片言になった時点で答えがわかってしまうなんて複雑だ。

「練習用の物であればいいのですね」

暫く考えたあと、フレデリックさんはそういうと屋敷の中の一室に案内してくれた。

案内してくれたのは、甲冑や鎧・盾・剣・銃・槍 等様々な武器や防具が置かれている武器・防具庫だ。どれも練習用とは思えない物ばかりだが、フレデリックさんは剣が置かれている辺りを「練習用…」と呟きながら見回していた。これは多分、もしかして…と思った瞬間フレデリックさんは「ありました」と言って一本手にとり振り返った。

「これが練習用でございます」

そう言って差し出されたのは鞘に収められてははいるものの、どう見ても真剣に思える。剣に触れ、確認する為に受け取るとズシリと重さが伝わってきた。鞘から少し出すと鈍く光る刃が見える。

「実戦にも使えますが、それがはラントで訓練をする時に使われる練習用の剣でございます」
「そうですか。ありがとうございます」

これが練習用と言われて差し出されれば、受け取るしかないのか?と疑問半分確信半分といった感じで私はフレデリックさんにお礼をいった。

「今から稽古なさるにしても、時期に暗くなりますので長くなりすぎませんように」

武器庫を出るとフレデリックさんはそう言って仕事に戻って行った。






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