[携帯モード] [URL送信]
時空世界




ユ・リベルテへ着く前に体の異常の事をみんなに伝え何か知っていないか聞きたかったが、アスベルやソフィの沈んだ表情を見るととてもそんな言葉を紡げるような状態ではなかった。
リチャード陛下に光を吸われた大輝石は全ての原素を失い、回復の見込みすらない。不調の改善をしに調査に訪れたというのに最終的に機能停止といった結果になり、気まずいながらもありのままを報告する為、私たちは大統領執務室の扉を叩いた。



 時空世界



「ここが一般には閲覧禁止となっている蔵書を置いた図書室になります」

大統領に報告を終えた私は、パスカルと一緒に研究員の案内でユ・リベルテ内に建てられたら図書館の一室にいた。

「港へ行く時間も考えると一時間程しか時間は有りません。貸出は一切禁止になっていますので、こちらで閲覧していただくしかないのですが、大丈夫でしょうか?」

船の出航時間を気にしてかそう発せられた研究員の言葉に、書物の一冊をパラパラと捲りながらパスカルは“大丈夫〜”と軽く返す。

「数は結構あるけど、分野毎に分けられてるでしょ?」

パスカルは本から視線を上げ研究員へと向く、彼女に訊ねられた研究員は返事をして頷いた。そのまま隅へ歩き、壁に付けられたらパネルへと触れれば、それは起動したように明かりをつける。パネルを操作しながら説明し出した研究員に、やはりパスカルは“大体はわかるからいいよ”と軽く言い、研究員は“そうですか。お帰りの際は館の受付へ一言お願いします”と言い残し退室して行った。

「さてと、時間もあんまりない事だし、早速検索かけますか!」

そう言うとパスカルは、先ほどまで研究員が触っていたパネルを触り始めた。


大輝石に起こった事の次第を伝えるため大統領もとへ向かうと、執務室には眼鏡少佐の姿があった。眼鏡少佐がストラタへ戻らなくてすむようにと動いていた為、その姿に驚きもしたが理由を聞けば納得した。
ウィンドルに存在する大輝石の原素をリチャード陛下が吸収し、王都では大きな混乱が起こっている。その為、ウィンドル軍はラント領域から撤退していったらしい。
王都が混乱しているのに戦などしている場合ではなくなったのだろう。それに、大輝石とは生活の要の用なもの。それが一国の王に吸収されてしまったとあれば、さすがに軍内部でも動揺は有るはずだ。指揮に影響を及ぼしてまでラントを攻めるなど兵力の無駄使いも極まりない。
眼鏡少佐はその状況を見て、今ラントが襲われる危険はないと考え“大輝石の原素を吸収した”という事の重大さと、その他の報告を伝えるため帰ってきたのだ。
ストラタの大輝石の原素も、リチャード陛下に吸収されてしまった知ると、それまでも険しかった大統領の表情が更に険しくなり、リチャード陛下の行方と目的を判明させるため次にリチャード陛下が狙う可能性が高いフェンデルの大輝石へと向かってほしいと頼まれたのだった。
因みにこれからは眼鏡少佐も同行するらしい。ラントの後任は眼鏡少佐が選んだ人という条件付きでアスベルは了承していたが、眼鏡少佐も一緒に行く事が決まると彼はとても嬉しそうな顔をしていた。シェリアの表情も一瞬にして明るくなった気がする。
フェンデルへはすぐ向かって欲しいという事だったが、船の便を調べると少しばかり時間に余裕があるということで、アスベル達5人は眼鏡少佐との久々過ぎる水入らずに行き、私とパスカルは許可を貰っていた文献の閲覧に来たのだった。


パスカルが検索を始めて数分後。それまで“異世界”やそれに関する検索ワードを入力しても該当する本が見つからず唸ってばかりだった彼女が“あったぁ!”と言って指を鳴らした。

「“時空世界”っていうので1つあったよ!場所は…E-15-7…ぅげ…なにそれ。こんな時、アンマルチア族の蔵の機能が普及してればなぁって心底思うよ」

本の場所を指す記号に嫌そうにいうパスカル。彼女が言ったアンマルチア族という言葉をどこかで聞いた気もするが、本を探すため本棚へと振り返る。
本棚の記号を眺める内に、Eが本の分野で15がそれに該当する本棚の番号だと理解する。と言うことは、7というのは恐らく段数だろう。本の管理的には日本と変わらないんだなぁとぼんやり思っていると、二階の本棚の隙間から“あったよ〜”という声と本を手に持つパスカルの姿があった。探し初めてまだ5分も経っていないのに早い…


本棚の前に座り込んでペラペラと本を捲るパスカルに近づけば、彼女は視線を向けずに口を開いた。

「“時空世界”でヒットした割りには、めぼしい事はあんまり書いてないなぁ…」
「そっか…」

せっかく見つけた本に手がかりがなさそうだとわかり、小さく肩を落としてうなだれればパスカルは“あれ?”と呟いた。

「羅針帯の機能活性化…」
「…何かわかった?」

ぶつぶつと呟くパスカルに遠慮がちに訊ねれば、唸り声が返ってきた。頭を掻きながら顔をあげる。

「この本によると、原始生命体の生命維持活動の活性化に伴って、羅針帯の機能も活性化して原始生命体の活動を抑制するみたい。羅針帯が活性化することによって空間に小さな重力磁場が発生したことがあるんだって」
「ぁ〜…羅針帯…と、重力磁場…あと原始生命体って何?」

説明してくれるパスカルにおずおずと手を上げて質問すれば“あ〜、ごめんごめん”と笑い羅針帯と重力磁場、原始生命体の説明をしてくれた。

「羅針帯っていうのは、この星を取り囲んでる装置の事。方角を確認するものとして使われてるけど、これを読むに原始生命体とも何らかの関係がありそうだね〜。その原始生命体っていうのも具体的に何を指しているのかわからないけど、人や魔物が生まれるよりももっと遠い昔、最初に生まれた生命の事を原始生命体っていうの。原始生命体が幾つもの進化を遂げて、今のこの世界があるってわけ」

聞いたのはいいが、説明されてもしっかり理解出来ないことに、なんだか申し訳なく思ってしまう。が、パスカルは気にせずに説明を続けた。

「で、重力磁場っていうのは、強い重力が磁気的現象を起こすことによって形成されるんだけど〜…わかり易く近いもので言えば、ブラックホールみたいなものかな」

ブラックホールという言葉に少し引いてしまう。それはもしかしなくても、全ての物質・光さえも吸い込んでしまうというあれですよね。でも、その重力磁場と時空世界というのは何の関係があるのだろうか?引きながらも視線を送り続きを促す。

「ここからは仮説らしいけど、重力磁場が起こると時空間に歪みが出来て他の空間、つまり他の時空世界との道を作るみたい。でも、とても小さな歪みだから人は通れないって書いてる」
「それはつまり…」
「この現象が仮に起こったとしても、リクがそれを通り抜けてきたっていうのは有り得ない、ってことだね」

その言葉に大きく肩を落とし“そっか…”と声を洩らせば、パスカルから“でも”という声が聞こえた。

「重力磁場の質量をもっと重くすればこの仮説が起こり得る場合、人が通る事も不可能じゃないよ」

そこまで言うとパスカルは腰を上げ、私の肩を軽く叩いた。

「それにね、実際に起こった重力磁場の発生時期は、今から約千年前」

本を捲り、目的の頁を見つけると“ここ”と言って渡してきた。が、今まで読み書きを練習してきた物とは打って変わり、単語の列が並ぶそれを私には読む事が出来ず、曖昧な返事を返す。

「前にもチラっと話したけど、あたしが読んだ異世界の事が書かれた文献には、今から約千年前に“異世界から一人の人間が来た”ってかかれてたし。これは、もしかしたら、もしかすかもでしょ」

楽しそうに言うパスカルは最後にウィンクをした。もしかしなくても、元気付けてくれてる気がして、私は大きく頷いた。

「そうだね!」

笑顔で返せばパスカルも笑顔で返してくれる。その笑顔はとても幼く見え、彼女の年齢さえも忘れてしまいそうになる。知識は豊富で、その博識っぷりにはシェリアではないが本当に驚かされる。が、年齢は私と差ほど変わらないという事を思い出すと、パスカルに尊敬の念を無意識に向けてしまっていた。


図書館から出てみんながいる宿屋へと歩く。パスカルが“お腹すいた〜”とぼやく中、ふとある事を思い出し私は口を開いた。

「そういえば、パスカルが読んだ異世界の文献に、異世界から来た人は他の人の記憶が見える…なんていう事は書かれてなかった…かな?」

自分でも何を言ってるんだという思いからかたどたどしい口調で言えば、パスカルは不思議そうに“なにそれ?”と返してきた。

「リクは、記憶が見えるの?」
「…うん。カバー外して左手や左腕で触れると記憶が見えるって」
「ん?何か言い方、変じゃない?誰かにそう言われたの?」

肯定の返事で頷けば、パスカルは間髪入れずに“誰に?”と返してきて言葉に詰まる。誰に?誰だろう…私自身にもよくわからない。

「…光?みたいな、もの…?」
「ん〜なんだか、よくわらないみたいだね。とりあえず、始めの質問の答えとしては、そういうのは書いてなかったかなぁ」

パスカルの答えに“そっか…”と呟けば、彼女が私の前に立ち歩みが止まる。私を見る彼女の目が輝いている事に気づいて、後退りした。

「触ってみて」
「へ?」
「本当に見えるのか気になるじゃん!左手であたしに触ってみてよ」

記憶を見られることに抵抗はないのか、パスカルはワクワクといった様子でこちらに視線を向けてきた。

「ぇ、でも」
「いいから、いいから。見られて困る記憶なんてないし」

そういって両手を広げるパスカル。何か間違ってる気もするが、仕方なしにカバーを外し左手を差し出せば、パスカルは両手でその手を掴んだ。途端に声が響いて頭がくらくらする。脳内に声と映像が一気に流れ込み、私は目を強く閉じた。

「……ぅ゛」

頭が痛くなってきて小さく呻けば、パスカルが両手を離してくれた。

「ごめんごめん。そんな苦しそうになるなんて思わなかったんだ」

心配そうにいうパスカルに“大丈夫”と笑顔で返す。軽く頭を振って彼女へと向き直ると、私は見えたものを話した。

「幼い頃のパスカルとパスカルと同じ髪色の女の子が、機械いじりしてたよ。お姉さん…かな?」
「お〜絶対そうだよ!あたし小さい時よくお姉ちゃんの真似して研究とかしてたから」

私の言葉に嬉しそうに言うパスカル。“他には”と聞かれ、やたらとお姉さんに追いかけまわされている事やおでこが出てる髪の長い子と機械いじりしている事を話せば“凄い凄ーい”と騒いでいた。パスカルは気にしていないのかも知れないが、お墓のような物の前でお姉さんが泣いていてそれにしがみ付いている幼い彼女の光景は言わないでおいた。
そうこうしていると遠くからソフィの声が聞こえ、パスカルと二人して振り向けば、迎えにきてくれたみんなが歩いて来るのが見えた。

「パスカルー、リクー」

名前を呼びながら手を振り、一人駆け寄ってくるソフィ。その表情はとても和らぎ、少し前のものとは変わっていた。

「ソフィー」

パスカルが返事をするように手を振り答える中、私はソフィへとかけより彼女を抱きしめていた。

「ゎっ、リク?」

ソフィや他のみんなが驚く中、私とパスカルだけが左腕のカバーが外れている事に気づいていた。





*前次#

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!