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大蒼海石




街を出て暫くすると、パスカルがいきなり話さなくなるという事が起こったが、シェリアの代弁により暑さで喋るのがダルいからと言うことだった。
砂漠を進めば進む程、汗が出なくなる。体に異常をきたしているかのように思えるが、これは大輝石の影響により大気中の水の原素がなくなっているのが原因らしい、とパスカルを代弁したシェリアが教えてくれた。因みに代弁したシェリアの説明で、原素とは元素的な物らしく、大輝石とはそれを拡散させている物だと理解した。ストラタにある大輝石は大蒼海石といって水の原素を取り込んでいるんだとか。なんだかよくわからないが、兎に角大輝石とは凄い物みたいだ。



 大蒼海石



遺跡に着き、許可を得た旨と身分証を提示し奥へと進めば、空へとその身を向けてそびえ立つ、青い巨大バナナのような石があった。

「青いバナナ…」

初めてみる大輝石に驚き思った事をそのまま呟けば、ソフィがショックを受けた表情でこちらを見ていた。

「ぁ、違うよ!現物も、バナナみたいな形だなと思って…!」
「“も”?」
「ぁゎゎゎっ、ソフィの絵のことを言ってるんじゃなくて〜」

一人焦って弁解しようとしていると、パスカルが一人大輝石の前へと進んで行った。

「すごーい!これがストラタの大輝石・大蒼海石なんだね。初めて見たよ。でも、ちょっとくすんでるね」
「くすんだバナナ…傷んでるのか?」

パスカルの言葉に反応すればバナナでの解釈をしてしまい、ソフィに睨まれ慌てて謝った。
大輝石をよく見れば確かに透き通った青には程遠く、澱んだ色に見える。それにしても、凄い大きさだ。太陽の光が眩しすぎて先端まで視線を持って行くのが難しいかった。
話し声が聞こえたので視線を下へ戻せば、アスベルが研究員から説明を受けている。しかし、そこには本来説明を聞かなければならないパスカルの姿はない。大輝石の方に目を向ければ、彼女は大輝石の剥き出しになった根元の前にしゃがみ込んでいた。
私もパスカルに近づき後ろから覗き込む。電気回路を複雑化したような板がパネル状に何枚も並んでいる。パスカルはそれを眺めて“なるほど”と頷いた。

「直せる?」
「見るからに壊れてる所があるから、ここが変に干渉してるんじゃないかな〜」

そう言ってパスカルは服に付いているたくさんのポケットの内の一つから小型ドリルを取り出した。

「これを……グルグル〜…ってやって」

パスカルの言葉と一緒に回転したドリルがパネルに接触する。激しい金属音と火花で研究員さえも驚きの表情を浮かべた。
ドリルが離され、これで終わりかと思えたが、パスカルはドリルを直しハンマーを手に取った。研究員が、躊躇いからか遠慮気味に制止の手を差し出してくるが、パスカルに見えている筈もなくハンマーは思い切り振り下ろされた。その瞬間、辺りにいた研究員たちがざわめく。皆が一同に大輝石へと目を向ければ、それは透き通った青で光輝いていた。

「こ、これは…」
「適当にいじっただけなんだけど、結果オーライみたいだね」
「あ、あなたたちは一体…」

自分たちがいくら頑張っても原因さえ掴めなかった大輝石の不調を、一人の女性によっていとも簡単に解決されてしまい、驚きと感嘆から研究員がそう言葉にした直後、後方にある遺跡の入り口付近から爆発音が響いた。

「て、敵襲!」

爆発で発生した粉塵により何が起こったのか全くわからずたじろぐ中、遠くから必死に叫ぶ兵士の声に只ならぬ事態だと認識する。粉塵の中に影が見え身構えれば、鳥と言うよりも翼を持った竜のような黒い魔物が二体姿を現し、遅れてもう一体リチャード陛下を乗せて姿を現した。

「リチャード!?…何故ここに!?」

アスベルが驚きながらも訊ねるが、リチャード陛下は答える素振りを全く見せない。見かねたアスベルが走り寄ろうとすれば、彼は剣を抜き青い閃光をアスベルへ向けて放った。それを間一髪のところでアスベルは飛び退け、地面に穴が開く。少しでも遅ければ、アスベルの体に同様の穴が開いていただろう。私たちを見据える視線や行動からもわかるように、リチャード陛下には攻撃に対する躊躇いが微塵もなく、殺してしまおうという気さえ感じて身震いした。リチャード陛下とはこのような人物だったのだろか?

「リ、リチャード!?」

突然の攻撃を受け困惑するアスベルにリチャード陛下は尚も攻撃を企てようと剣先を向けるが、その間にソフィが割って入った。途端にリチャード陛下の表情が一気に険しくなる。対するソフィも苦しそうな表情でリチャード陛下を睨みつけていた。今にも飛び出しそうな体を抑えつけているのか、ソフィの体は震えている。リチャード陛下はソフィをこれでもかという程睨みつけ、憎しみを吐き出すように声を上げた。

「邪魔をする気か…!」

途端に二体の魔物が襲いかかってくる。咄嗟に剣を構えたものの、接近戦で尚且つ輝術もろくに使えない私に空を飛ぶ魔物を捉える術はない。完全に足手まといだ。それでも魔物は容赦なく迫ってくる。高速で横を通り過ぎようとする魔物にダメ元で刃を向ければ、硬い感触と共に弾き飛ばされた。

「撃ち落とすから、その隙をついて!」

前衛メンバーが、動きの素早い敵に翻弄されているのを見てパスカルが叫んだ。
杖を銃器のように構え先端を飛んでいる魔物へと向けているが、魔物を捉えているようには見えない。何をする気かと見ていれば、彼女は笑った。

「全弾発射っ」

杖の先端から幾つもの閃光が放たれる。アバウトに狙っただけだが、広範囲に広がる閃光は確実に魔物二体を捉えていた。攻撃によりよろめきながら飛行高度を落とした一体に、遺跡内にある柱の瓦礫を足場にして飛び移る。先程の攻撃で、魔物の皮が硬いのは十分理解した。皮が駄目ならば、目を狙うしかないと判断したのだ。安定感のない足場で目の位置を捉え、思い切り刀を突き立てた。中は柔らかく、滑るように突き刺さる。柄を強く握りしめ、深く突き刺したまま刀を回した。途端に魔物は雄叫びを上げながら暴れ出し、口からレーザーのようなものも吐き出し始める。レーザーの威力は凄まじく、着弾した至る所に穴を開けていく。飛行に加えレーザーだなんて卑怯過ぎると思いながら、私は魔物から刀を抜くのに悪戦苦闘していた。刀をねじ回した事により骨か何かに引っ掛かったのか抜けづらくなっているのだ。そんな事はお構いなしに魔物は暴れまわりついには一回転し、私は刀から手を滑らせ落下した。背中に強い衝撃を受け、一瞬息が出来なくなる。よろめきながら立ち上がれば、後ろから右肩に衝撃が走り、肉の焼ける音と臭いが鼻をつく。だが、不思議と痛みを感じる事はなかった。肩に目を向ければ、レーザーを掠めただけのようだが確かにそこには焼けただれた皮膚がある。わけがわからない。

「リク!」

肩に意識を持っていかれていると、急に名を呼ばれ咄嗟に顔を上げれば、すぐ近くまで魔物が迫っていた。開いた口の奥にはレーザーの光が溜まっていくのが伺える。この距離では、避けきれない。恐怖から強く目を瞑れば壁に大きな何かがぶつかる音と近くに人の気配がした。

「リク、大丈夫?」

声に目を開ければソフィが立っていた。魔物はどこかと見回せば壁の横で動かなくなっており、ソフィに助けられたのだと理解する。

「ありがとう、大丈夫」
「怪我してる、痛そう」
「あぁ、うん。でも痛くないんだ」

ソフィの言葉にそう答えれば、彼女は首を傾げていた。不意に周囲のざわめきが聞こえ、大輝石へ目を向ければ、魔物に乗ったリチャード陛下が大輝石に手を翳し、大輝石から出る光を吸い込んでいるように見える。何をしているのか不信に思えば、研究員の声が耳に届いた。

「こんな馬鹿な…!大輝石が、か か 空っぽに……!」
「駄目です!全ての計器が残量無しと出ています!」

大輝石が見る間に青の輝きを失い灰色に変色していく。リチャード陛下は翳していた手を下ろし此方を見据えていた。不意にリチャード陛下の表情に驚きの色が見えた瞬間、目が合い恐怖から後退りすれば、驚いた面持ちでシェリアの声が聞こえた。

「リク…その体、どうしたの?」
「ぇ?」

何故かみんなが驚いた様子で私を見ている。確かに傷は負ったが驚かれるような傷ではない為、質問の意図がわからず自分の体を見下ろせば、映像に砂嵐やノイズが混じった時のように私の体は歪んでいた。

「ぇっ!?」

自分でもわけがわからず答えに困っていると、リチャード陛下が“貴様が?”と小さく呟いたのが聞こえた。見上げれば考えるように顎に手を添えている。何か知ってるのなら教えて欲しい気持ちにかられるが、とてもそんな事を言える状況ではなかった。
視線を此方へ戻したリチャード陛下は、ソフィを憎悪感情で睨みつける。

「貴様たちとは、いずれ決着をつけてやる。覚悟しておけ」

ゆっくりと憎しみたっぷりに言い放つとリチャード陛下はそのまま去って行った。それを呼び止めたソフィは苦しそうに膝を付き体を抱きしめ“リチャードはともだち…”と自分を言い聞かすように呟いていた。

気づけば体の歪みは治まっていた。何だったのだろうと考えるが、答えが出るはずもない。私を見てリチャード陛下が呟いた言葉から、何か知っているのではないかとも思えたが、相手が居ないためその確認も出来ない。体の異変としては痛みがしない事と、弾き飛ばされたり振り落とされた時に出来た、薄らと血の滲んだ切り傷や擦り傷たちから血の後が無くなっていた事だ。これだけの異変に正直気持ち悪くもなるが、私にはそれとは別に同じ位気になる事があった。それば、ソフィとリチャード陛下の関係だ。ソフィやアスベルはリチャード陛下を友達だと言っているが、リチャード陛下の態度は友達に向けるものでない。特にソフィに対しては殺意まである。ソフィ自身もリチャード陛下に攻撃しようとしたと明かした事もあり、益々、二人の関係が気になった。

「カバーを外せば、触った者の記憶を見ることになる…か」

ユ・リベルテへ返る道中、後ろからみんなに付いて行きながら、私はそっと左腕に触れた。






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