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輝術の使い方




ユ・リベルテは深き蒼生首都と呼ばれているらしく、とても綺麗なところだった。乾いた砂漠にある街とは思えない程、涼しく潤いがある。街は首都と言うだけあってとても広くラントとは大違いだ。街の奥にある大総統府内は、涼しげを醸し出す青を基調にデザインされていて、色合い的にも精神を落ち着かせてくれる。
ラントを出てから聞かされたのだが、アスベルたちがユ・リベルテに来たのは眼鏡少佐の召還命令を取り消し、又は、時間稼ぎのためらしい。眼鏡少佐もストラタ行きを誘った時に説明してくれればいいのたが、あの性格じゃ必要最低限しか話さないのだろうな。と自己完結する。
今は大統領へ謁見しに行ったアスベル待ちだ。アスベルが入った後、暫くしてから眼鏡をかけた気の強そうな中年男性が大統領執務室に入って行ったが、まだどちらも出てきていない。
私たちは執務室前で、それぞれアスベルが戻ってくるのを待っていた。



 輝術の使い方



シェリアと話ながら玄関広間にある植物や池などを眺めていると、パスカルが声をかけてきた。

「ねぇリク、リクの戦い方を今まで見てきて思ったんだけどさ、どうして輝術使わないの?」

頭の後ろで手を組みながら、素朴な疑問と言うように訊ねてくるパスカル。その質問に答えるのは差ほど時間はかからなかったが、私が返答する前に彼女は呟くように私が答えようとした事を口にした。

「この世界の人じゃないから、使えない…とか?」
「たぶん、そう」

相槌を返せば、パスカルは唸った。

「でもさ、あたしたちが輝術に使う原素は、武器に付属されてる輝石に留まった原素を活性化させて取り出しているだけだから、やり方のコツを掴めばリクも使えると思うんだけど〜」

話を一緒に聞いていたシェリアも“そうねぇ”と呟くが、私にはその説明自体よくわからない。パスカルは言い終わると腰に差している刀をまじまじと見ていた。

「その刀は、この世界で買ったものよね?」
「だったらリクにも使えるって!」
 
シェリアの問に頷けは、パスカルはパチンと指を鳴らす。
別に使えないのなら使えないで構わないのだが“使えた方がいい”という雰囲気に押され苦笑しながら“頑張ってみるよ”と答えた。
その後すぐ、パスカルがやり方を教えてくれるが、彼女の説明はとてもアバウトで擬音のみの為、全く解らない。見かねたシェリアが口を開いた。

「パスカル、それじゃぁ説明になってないわ…」
「そっかなぁ〜、グィーンポンッってするだけなのに」
「ごめん…解らない」

解る人がいるのかさえわからない説明にそう答えれば、パスカルは頭を掻いた。その後ろに黒い影が映る。私とシェリアがその影の正体に気づいた時には、もう既にパスカルの頭に拳が飛んでいた。鈍い音がして、パスカルの声が漏れる。

「いったぁ〜い!」

涙目で振り返るパスカルに、拳を握ったまま教官は“痛くしたのだから当たり前だ”と返した。

「こんな場所で、何を騒いでいるんだ」
「だからって、殴ることないじゃん」
「まぁまぁ」

教官へ抗議の視線を送るパスカルへ宥めるように言えば、教官の隣に立っていたソフィが執務室の方を向きながら“ぁ”っと声を出した。釣られて執務室へと視線を向ければ、アスベルの後に入って行った男性が出てくるところだった。
とても機嫌が悪いらしく、離れていても眉間のシワがはっきりと見てとれる。会ったばかりの誰かさんにそっくりだ。
男性はこちらの視線に気づいたのか、睨み返すように視線を返し、外へと出て行った。

「違った…」

ソフィが残念そうに言う。アスベルはまだ大統領と話をしているのか、出てくる様子はない。

「上手くいってないのかな?」
「相手は大統領だ。そう簡単にはいかんだろ」

パスカルの言葉に教官はそう答えた後、話を変え“さっきは何をしていたんだ?”と聞き返した。

「リクに輝術の使い方を教えてたんです」
「ぁ!そうだよ、教官に教えてもらったらいいじゃん!元教官だったんだし」
「ん?リク、お前さん輝術を使えないのか?」

教官の質問に頷き返せば“何故だ?”と返される。答えようとすれば、すかさずパスカルが口を開いた。

「そんなの、異世界から来た人間だからに決まってるじゃん」

さも、当然のようにパスカルは言うが教官は怪訝そうな表情で私に視線を向ける。

「地球っていう星の日本って場所に居たんですが、気づけばラントの裏山で倒れていたらしい、片瀬理久です」

乾いた笑い声と共にそう言えば、教官はまじまじと私を見ながら“そうか”と返した。

「しかし、どうしてそれをパスカルが知っているんだ?」

教官の問に、そう言えばパスカルにも話していない事を思い出し、私も彼女に視線を向ける。

「ウォールブリッジでシェリアと会った時に、シェリアとアスベルが話してたんだよ。教官は収容されてた時だから〜」

パスカルの言葉にシェリアが思い出したように声を上げた。

「パスカルが知ってたから、てっきり教官にも説明してると思い込んでました」

“すいません”とシェリアが謝るが、教官は“気にするな”と言って話を戻した。

「つまり、リクはこの世界の人間ではないから、輝術の使い方がわからない、ということだな?」

確認するように言う教官の言葉に頷けば“剣技は一切使えないのか?”とも問われた。始めは“剣技?”と首を傾げたが、よくよく考えて見れば、バリーさんに一つだけ技を教わっていた事を思い出す。居合い斬りの葬刃という技だ。その事を伝えれば、教官は“それが使えるなら、原素を取り出す基礎は出来てる筈だ、技は同じ片手剣のアスベルにでも教えてもらうといい”と教えてくれた。
アスベルの戦闘は何度も見ているが、動きが早くて目で追いきれないところもある。教えてもらったところで、私なんかに使いこなせるのだろうかと、不安にもなるが、あの爽快な剣技を使えるようになったらさぞかし気持ちがいいだろうな。


アスベルが戻ってきて最初に聞かされたのは、大統領がセイブル・イゾレやロックガガンの所で会った、あのおじさんだったという事だ。まさか大統領がラフな格好であんな所に居るなんて思いもしない。ストラタ一足裏が強いとか思ってしまってごめんなさい。と心の中でそっと謝罪した。
次に聞かされたのは、輝石不足の問題が解決されない限り眼鏡少佐の更送は免れないという事。この問題に関しては、大輝石があるのにどうして輝石が必要なのか?と疑問に思ったパスカルが、大輝石に何かあったんだと目星をつけ、街の人に話を聞くことになった。
その次は、ラント進攻は眼鏡少佐の養父がセルディク大公と企んで行われた事だということ。因みに眼鏡少佐の養父は、アスベルより先に執務室から出てきて不機嫌に睨みをきかせて行ったあの男性らしい。養父と言えど幼い時から一緒にいれば似るものなのだな。と一人納得した。
最後は、文献の閲覧許可が降りたという知らせだった。一旦別れて閲覧させてもらうか?と聞かれたが、一人で見てもたぶん読めないだろうし、パスカルが“あたしも読みた〜い”と言い出したので、輝石の問題が解決してからみんなで閲覧させてもらう事にした。


街の人に話を聞いていると、西門の方で研究員と盗賊がもめている事を聞き、私達が西門へ向かうと、門付近で研究員と思われる男性が、盗賊風の男性に脅されている現場に直面した。近づくと盗賊が“大輝石”という言葉を口にしたのが聞こえて、教官とアスベルがすぐさま反応し盗賊を取り押さえた。

「た、助かった…ありがとうございました」

盗賊の脅しから解放された研究員は立ち上がって頭を下げる。アスベルはそれに笑顔を返した。

「でも、どうしてこんな事に?」
「あの、それは……」
「大輝石と関係あるんでしょ?」
「気温が上がってる事も関係あるの?」

もごもごと口ごもるように小さくなっていく研究員の声。パスカルやシェリアが追い討ちをかけるように研究員に聞けば、彼は“仕事があるので!”と逃げるように走り去って行った。

「大輝石の調子がおもわしくなかったから、輝石を求めていたとはな……」
「しかし、原因がわかった所で一体どうしたらいいのだ…」

宿屋のロビーで椅子に腰を掛けながら、アスベルは肩を下ろし教官は唸った。
研究員が逃げてしまった後、仕方なしに無理やり盗賊に口を割らさせ、大輝石の不調を知ったのだ。
私には大輝石自体、何なのか解らないが生活する上で掻かせない物の一つなんだということは、今までのみんなの言動で理解している。その必需品が不調というのは、今のアスベルたちを見ているととても大変な事なのだろう。
そんなみんなを余所に、パスカルは紙とペンを取り出し、角のような絵と構造の説明をスラスラと書いていた。

「これ持ってって、大統領に見せてごらんよ」

言いながら書き終わった紙をアスベルに渡せば、彼はまじまじとそれを見ていた。

「これは……大輝石の絵か?」

アスベルの言葉にパスカルは頷く。

「大輝石の事で悩んでるなら、詳しい仲間がいるから見てあげますよって」
「詳しい仲間って?」

後方からのシェリアの問いに振り向き気味に挙手を返すパスカルに、アスベルは驚いたように口を開いた。

「パスカル、大輝石の事がわかるのか?」
「少しだけどね、前に文献でちらっと見た事があってさ」
「…パスカルって、何でも知ってるのね」

シェリアの感嘆する呟きに照れるように鼻の下を掻きながらパスカルは笑った。

「へへ…何でも知りたくなっちゃう性分なんだよね〜。因みにリクみたいな異世界の人間の事が書かれた文献も、読んだことあるよ」
「……ぇ?」

場の空気が一瞬止まるが、パスカルは気にする事なくアスベルに向き直ると“まぁ、だめもとで見せておいでよ”と言って、アスベルを送り出した。


アスベルが大総統府へ向かった後、宿屋で待っていても仕方がないので執務室前で待っていようと、みんなで歩いて大総統府へ向かっていた。
ソフィがパスカルに自分が描いた絵を見せて“美味しそうなバナナ〜”と言われてショックを受けている。アスベルにも同じこと言われて落ち込んでいた事を思い出し、軽く吹き出して笑ってしまった。
不意にシェリアから声をかけられ、返事をして振り向けばシェリアは真剣な面持ちをしていた。

「さっきのあれ、聞き間違いじゃないわよね」
「さっきの?」

確認するように言われた言葉にそう返せば“異世界の人間の事が書かれた文献を読んだって話よ”と返ってきた。
パスカルの言葉と状況に流されたせいもあるが、あまりにもみんなの反応が薄かった為、私自身も聞き間違いか、都合のいい空耳を聞いたのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

「あれってやっぱり、そう言ってたんだ…!」

驚いて返せば、シェリアはため息をついた。

「まぁいいわ、大輝石の事が終わったらパスカルに聞いてみましょう」
「うん」

頷けば、シェリアに背中を叩かれ“頑張りましょうね”と笑顔で言い残し走って先に行ってしまった。

大総統府内に入ると、暫くしてアスベルが執務室から出てきた。
大統領はパスカルの絵に関心したらしく、これからすぐに大輝石の調査に行くことになったと告げられ、一行は大輝石のある、西の砂漠の遺跡へと向かう為、ユ・リベルテをあとにした。





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