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ロックガガン




私が寝ている間にロックガガンに食べられてしまい、出る方法を探す一行。この中にあった小屋で、ロックガガンが寄生虫に憑かれている事はわかったみたいだが、出る方法は未だにわかっていないようだった。
シェリアは汚いのが嫌らしく早く出たくて仕方ない様子で、アスベルもどことなく焦っている気がするが、対照的にパスカルは小屋で拾ったらしい笛を吹いてシェリアをからかっている。マリク教官は大人の貫禄か落ち着いていて、さすがという感じだ。ソフィは歩きながら周りをボーッと眺めていた。



 ロックガガン



行き止まりに差し掛かり、シェリアが肩を落とす。

「一生ここで暮らすことになっちゃったりして〜」

落ち込んでるシェリアに話しかけているとは思えない程、軽い口調でパスカルが言った。その言葉にさらに肩を落とすシェリアを知ってか知らずか、パスカルは“仮にそうなったとして〜”と呟き個々の家族としての配役を述べていく。
シェリアが母親、アスベルが父親、ソフィとパスカルは仲良し姉妹、私はアスベルの隠し子らしい。何故、隠し子なのかと訊ねてみればパスカルは笑いながら“そういう設定、あった方が面白いじゃん”と言った。どんな状況でもきっとパスカルはマイペースなんだろうな。
そんな会話の後、ソフィが首を傾げながら口を開く。

「教官は?」
「教官はねぇ………」

パスカルは呟きながらマジマジとマリク教官の顔を覗き込み、やかで思いついたように手を打った。

「……おじいちゃんかな?」

その言葉の後、パスカルの名を呼びながらすぐさま背中にかけた剣の柄を握るマリク教官。その行動にパスカルは驚いて飛び退いた。

「ぃ、いやだなぁ〜冗談だってば、そんなに怒らないでよ〜」
「違うっ、後ろ!」

その言葉に一同の視線がパスカルの背後へと向けられる。そこには紫色の大きな魔物がいた。

「うわぁぁぁ!出たぁっ」
「紫色の寄生虫!こいつか…!?」

アスベルの言葉にこれが寄生虫の親玉だと認識する。標的を改めると、それぞれに構えた。

「その名を持ちて戒めを刻め、リリジャスッ!」

シェリアが唱えると寄生虫に光の雷のようなものが落ちた。それを合図にアスベルとソフィが寄生虫へと間合いを詰め、シェリアとマリク教官が輝術を詠唱、パスカルは援護射撃、と見事な連携プレーが目の前で行われている。私はと言えば、剣を抜いたはいいが突っ立っていた。心臓がやけに早く鼓動をうち、鳥肌が立つ。
寄生虫とは何故こうも気持ち悪い生き物なのか。いや、そもそも世の中に虫が居ること自体駄目な事なんだ。そんな事を頭の中でグルグル考えてしまう程に、私は虫が嫌いだった。
そうこうしていると、寄生虫の親玉が破裂した。死んだように思えたが、寄生虫の腹部に蠢く影が見え始め、目を凝らせばそれは小型の寄生虫だということが伺えた。鳥肌がより一層酷くなる。
大量に出てきたことから、私の方にも小型の寄生虫が近づいてきていた。

「ひっ…!」
「アル・フィーネッ」

パスカルの声が聞こえた瞬間、目の前に迫っていた小型寄生虫の足元が爆発したように舞い上がった。

「いまだよリク!切り刻んじゃって」
「ぇっ!?」

爆発の勢いで小型寄生虫たちも空中へ舞い上がっている。パスカルの声にたじろぎながらも、一歩踏み出す。今やらないと、きっと小型寄生虫はまたぞろぞろと迫ってくるのだろう。それは駄目だ。気持ち悪過ぎる。考えると寒気がした。こうなったら…

「ヤケクソだぁーっ!」

一気に走り込んで行き、小型寄生虫たちを文字通り切り刻む。気持ち悪さから力んでしまい力の加減が出来ない。加減する気もないのかも知れない程、気持ち悪いという憎らしさを思い切り小型寄生虫に叩き込んだ感じだ。

「はぁ…はぁ…」
「おぉ〜凄い勢いだったね〜」

力んだせいで、大して動いてもいないのに息が切れる。膝に手を突き呼吸を整えていると、パスカルがゆっくり近づいてきた。辺りを見ると、寄生虫は全滅していた。死骸と共に血とは思えない緑色の液体が溢れている。

「エイリアンみたい……」

呟いたあと、私は深いため息をついた。息を整えた後、アスベルたちに近づけば、眼鏡少佐から渡されたお守りを取り出していた。破れたようで中から粉が出てきている。

「なんだ、この粉は…」
「どれどれ、見せて?」

パスカルはそう言って、アスベルの手に乗っているお守りへと顔を近づけ、そして、盛大なくしゃみをした。

「こしょうだ!」

どうしてお守りの中にこしょうが入っているのかと疑問に思い、この世界の常識なのかとみんなの顔色を確かめてみれば、どうやら非常識の事らしく、訝しんだ表情を浮かべていた。
と、不意に空間全体が揺れ始めた。嫌な予感がする。と、思うと同時に突風が吹き荒れ、こしょうによってもたらされたロックガガンのくしゃみと共に私たちは、炎天下で焼けるような砂漠の砂上へと放り出された。

「熱っ…!」

顔面から突っ込んでしまい、あまりの熱さに飛び起きる。薄暗かった場所から急に明るい太陽の下へと放り出された為、眩しさから満足に目が開けられない。細目で辺りを見回すと、赤毛が紫毛がチラリと映る。近づいて行けば立ち上がろうとしていたパスカルに気づかず、そのまま彼女に躓き、私はまた盛大に熱い砂上へと顔から突っ込む羽目になった。

「ちょっと、大丈夫!?」
「ごめん、パスカル」

シェリアに手を貸してもらいながら立ち上がりパスカルに謝れば、彼女は笑って“ちょっとばかし痛かったけど、大丈夫だよっ”と綺麗にウィンクをした。これほどまでに綺麗に片目だけ閉じれる人を始めて目の前にし、少し見とれてしまったのは秘密だ。
服の砂を払い辺りを見回せば、砂漠や砂丘が広がるだけでロックガガンの姿は見えない。

「どうやら、街道のそばからは退いてくれたみたいだな」
「おかげで街道が復旧した」

マリク教官が言えば、それに続けるように声が聞こえ一同が振り向く。そこにはセイブル・イゾレでロックガガンの事を教えてくれたおじさんが立っていた。

「ストラタを代表して礼を言うぜ、ありがとよ。しかし、きみたちはあいつに一体何をしたんだ?」

おじさんがお礼と共に疑問を口にすればアスベルがそれに対応する。私はそれを聞きながら、視線をおじさんの足元に持っていった。
セイブル・イゾレで見かけた時も凄いと思ったが、やはりこのおじさんは焼けるような砂の上でも履き物はサンダルらしい。スニーカーの私でさえ、止まっていればじんわり熱くなってくるというのに、このおじさんの皮膚はどれだけ頑丈なんだろうか。敬意に値しそうな勢いだ。そのおじさんが“ストラタを代表して”というのは、ストラタ一足裏が強いという意味の代表だろうか。と、有り得ない事もつい考えてしまった。

「思い出したぞ!」

その声に意識をアスベルに戻せば、彼の手にお守りが握られていた。そのことから、思い出したのはお守りに関することなのだろうと推測する。

「これは昔、俺がヒューバートにあげたものだ……本当は砂状の輝石を詰めるんだが、砂の輝石が見あたらなくて、こしょうを詰めたんだっけ……」

砂の輝石がないからってこしょうを詰めるなんて、なんて兄ちゃんだ。心の中で呆れ半分で突っ込んでみるが、当然アスベルには聞こえるわけもなく、アスベルは眼鏡少佐が、自分があげたお守りを持ってくれていたという事に少し嬉しそうだった。

それからしばらく、会話を交わした後おじさんと別れ、私たちは首都であるユ・リベルテへと向かった。





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