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狭間の光




真っ白な所だった。
立っているのかどうか解らない。どちらが上か下かも解らない。そんな真っ白な場所。
気づけば私は、そんな場所にいた。
他のみんなはどこだろうか?と辺りを見回してみても、誰も見当たらない。ただ、どこまでも真っ白な空間が続いているだけだった。

「ここ、どこだろう…」

影すら見えない程に真っ白で、感覚がおかしくなりそうだ。

「ここは、君と僕の精神の狭間だよ」

静寂に堪えかねて呟けば、不意に言葉が返ってくる。驚いて声がした方を見れば1つの光が有った。小さいがとても力強い光だ。

「精神の…狭間?なにそれ?」
「わかりやすく言えば、直接会わなくても、僕と君がお話出来るところ…かな」

光が説明する声を聞きながら、ふと何処かで聞いた声だということに気づいた。

「きみ…どこかで…」
「あれ?忘れちゃったの?この間、眼鏡くんの記憶で会ったじゃないか」

心外だなと言わんばかりの口調で光は言った。その言葉で、眼鏡少佐の夢を見た時に会話した声だと確信する。だが、あれは夢だったはず。だとすると、これも夢なのか?

「色々気になる事はあると思うけど、それはまた今度。今日は、今君に伝えないといけないことだけを話すね」

確かに気になることはたくさんあるが、目の前の声やこの空間、他にも色々とわからないことだらけで何から聞くべきなのか全くわからない。また今度という事は、いずれ話してくれるのだろう。信頼出来る程、相手のことを知っているわけではないが、光の言葉は自然と信じようという気にさせた。

「この間、君は眼鏡くんの記憶を見たよね。その原因は、魔物に咬まれた左腕。深く抉られたことによって、左腕の原素のバランスが崩れたんだ」

解らなさすぎて言葉が出ない。原素とは一体なんのことだ?
私の疑問を余所に、光は言葉を続けた。

「今の君は僕みたいなものだから、バランスが崩れた影響で、左腕や左手で触れた他人の記憶を覗いてしまうようになった。それが例え自分の意志でなくとも、勝手に見えてしまうんだ。それは君にも見られる側にも望ましいことじゃない。だから、僕がそれにプロテクトをかけて君が他人の記憶に入り込まないようにしていたんだ」

光は一旦言葉を切った。
その説明から、眼鏡少佐にご飯を運んだ時の事を思い出し、あれがそうなのかと一人納得する。

「で、ここからが本題だ。僕がかけているそのプロテクトが、もうすぐ外れてしまう」
「ん?ということは…?」
「君はまた、左手で触れた人全ての記憶を見ることになる」

ですよね。と心の中で呟けば、光は“そこでだ”と切り出した。

「君の腕につけているカバーに簡易のプロテクトを張る。そのプロテクトは簡単に言えば僕の輝術みたいなものだ。僕自身が消滅しない限り消えないから安心して」

カバーと言われ、日焼け防止に付けていたアームウォーマーを見れば、それは淡い光に包まれていた。

「でも、気をつけて。プロテクトは腕ではなくカバーにかけているから、カバーを外せば触った者の記憶を見ることになる。」
「なにそれ…不便だな」

悪態をつけば光が苦笑する。

「腕にプロテクトをかけるとなれば、完全に遮断する代わりに相当量の原素が必要になるからね。今のうちに慣らしておかないと」

光の言葉の意味がよくわからず首を傾げる。というか、全体的に今の会話はあまり理解していない。そもそも何故そのプロテクトが外れるのか?ふと、その説明がない事に気づいた。

「そういえば、なんでプロテクトは外れるの?」
「それは言えない」

即答で素っ気なく返され、何だか落ち込む。

「時期がきたら教えてあげる」

そう声がした後、光の強さが増した。飲み込まれるように大きくなり、光の奥にぼんやりと人型が見えた。

「そろそろ戻らないと、お連れさんが大変そう」

言いながら人型は笑う。その姿を見て、どこかで見覚えがあるような気がした。

 またね────



 狭間の光



規則的に上下するリズムに目を上げれば、視界の下の方にアスベルが見える。アスベルの見える位置を不振に思い、顔だけ動かして反対を見ればマリク教官の顔が目の前にあった。

「マッ!」

驚いて体を起こそうと反射的に腕を突っ張れば、勢いが有りすぎそのままのけぞる。

「ゎゎゎっ」
「お前…!」

おんぶをしてくれていたマリク教官が態勢を立て直そうとしてくれたが、それも虚しく終わり、私は硬い岩肌に落ちた。打った背中が痛い。背中をさすりながら上体を起こす。地面に滑り気があり酸の臭いが空気に混じっている事に気づいた。辺りを見回せば薄暗い。

「大丈夫?」

そう言って差し出されたシェリアの手を取り立ち上がる。

「ここは…?」
「ロックガガンの中よ」
「ロックガガンって街道を塞いでる?」
「そうだよ〜。リクは寝てたからわかんないと思うけど、街道で出くわした時はもうびっくりしたんだから〜」

パスカルが差ほど驚いていないような口調で言う。セイブル・イゾレでロックガガンの話を聞いたのは覚えているが、街道を出た後の記憶はなかった。という事は、街道を出た辺りから私はマリク教官におぶられていたのだろうか。この年にもなっておんぶなんて恥ずかしい。
深いため息をつけば、ソフィに声をかけられた。

「ロックで、ガガーンなんだよ」
「ん?」

何の話しだろうかと首を傾げれば、ソフィはまた“ロックで、ガガーン!”と言っていた。






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