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襲撃の後




王都軍の襲撃から2日が過ぎた。怪我人を多く出したウィンドル王都軍との戦は、未だに街の彼方此方に大きな爪跡を残している。王都軍は撤退したものの、ラントの外に陣どっている為、油断は出来ない状態だ。そんな中でも動ける人たちは力を合わして復興作業に当たっている最中だった。
現領主・アスベルも帰って来た。どういった事情があるのかは知らないが、眼鏡少佐と和解したのか今回は追い出されずに街に留まっている。
記憶喪失だった事も知らなかったが7年前の記憶を取り戻したソフィや、今回アスベルが帰省するまでに仲間になった白髪から赤毛へのグラデーションという珍しい髪色をしたパスカルさん、大通りでブーメランのように剣を投げ回していたおじ様のマリク教官さんもアスベルと行動を共にしているようで、隣の客間に寝泊まりしていた。シェリアも一緒に帰ってきたみたいだが、アスベルたちといるよりも一人で怪我人の治療に回っている姿をよく見かける。忙しいようでろくに話も出来ていない。
私はといえば、復興作業やメイドさんの手伝いをして過ごしていた。



 襲撃の後



メイドさんの手伝いが一段落し休憩室でお茶をすすっていると扉が開いた。自然と扉に視線を向けると、バウル好きのメイドさんが心底疲れた様子で部屋に入ってきていた。

「どうしたの?」

いつもはテンション高めなメイドさんが静過ぎる為、本気で心配になる。椅子をひいてあげると、メイドさんは力なくそこへ座り込んだ。

「…し過ぎではありませんか?」
「へ?…何が?」

沈んだ様子に使われた事もない敬語口調が加わり、異様な雰囲気が怖い。言葉の意図がわからず恐る恐る聞き返せば、メイドさんは急に顔を上げ私の肩を強く掴んだ。

「ピリピリし過ぎではありませんかっ!?」
「何の話!?」

とりあえず落ちてと宥めれば、自分用にと置いていたお茶を一気に飲み干された。自分で煎れたお茶は不味かったため、たまたま居たメイドさんに煎れ直してもらったのに…と少し肩を落とせば、バウル好きのメイドさんは机の中央に置かれていたお菓子の入った籠を、自分の元へと寄せ食べ始めた。

「私の掃除担当、執務室なんだけどさ」

口にお菓子を放り込みながら話始めたメイドさんに軽い相槌を打つ。

「あの義兄弟、掃除してる私の存在に気づいてないのか、最近口論ばっかりすんだ…そして空気が張り詰めてピリリと私の肌を刺すのっ」

途中“陰湿眼鏡義兄弟がっ”というメイドさんの毒吐きに、苦笑しながらレイモンさんの方かと確認する。2人が仲良くしている所は私も見たことがないが、そもそも仕事以外で連んでいるの事態見たことがなかった。
メイドさんの言い方に“オーバーだな”と呟けば、私を見て膨れた後、うなだれたように机に突っ伏して口を尖らせていた。

「まだ銃ぶっ放さないだけましだけどさ」
「銃…を?」
「知らないの?」

意外そうな表情でこちらを向くメイドさんに頷けば、フェンデルから奇襲があった後アスベルが眼鏡少佐に銃を発砲されたという事を話してくれた。
そういえば銃声が聞こえた気がする、とぼんやり思い出す。

「そういえば、今回はアスベル様追い出されなかったね」

思い出したようにメイドさんが呟いた。

「ヒューバート少佐に召還命令が出てるからかな?」
「ぇ!?少佐帰っちゃうの?」

誰でも知っている事のようにサラッと言われた言葉に驚きの声を上げれば“なんで知らないの?”と言いたげな視線が返ってくる。

「なんか、“少佐と本国とではラントに対する措置に相違があります。失礼ながら、少佐に召還命令が出されている事は存じております。このまま本国に沿わないやり方を続けていれば”〜なんとかかんとか、で、そっから口論よ…」

レイモンさんの真似して話していたのか、時折かけてもいない眼鏡を上げる動作を入れながら説明してくれたが、面倒になったのか最後の方は適当だった。

「あの義兄弟、どうにかならないかねぇ〜」

おばさん臭い様子で呟いたメイドさんを見てハッとする。
この人、何だかんだ言ってサボリに来たんじゃないだろうか?そもそも、掃除担当が執務室だけというのはおかしい。
そう思うとすぐさま立ち上がり、隣に座るメイドさんの手を取った。咄嗟の事にメイドさんは驚きの声を上げたがそのまま引っ張って休憩室を後にする。
廊下を歩きながら問い詰めると、客間の掃除が終わっていない事を白状した。


「今は復旧作業とか怪我人の治療とかで忙しいんだから、いつもの調子でサボらないの」

用具入れから取り出した箒をメイドさんに押し付ける。メイドさんは頬を膨らまして抗議しながらも、渋々受け取った。

「膨れないの!これが君の仕事でしょ」

引っ張りながら客間が並ぶ廊下へと連れていけば、私が借りている客室から眼鏡少佐が出てくるのが見えた。一体どういう事か、と目を疑うが何度見てもそれは眼鏡少佐だ。メイドさんも気づいたのか“ぉ?”と軽く声を上げた。
2人分の視線に気づいたのか眼鏡少佐がこちらへと振り向く。別に緊張する必要はないのだが、そのまま近づいてくる眼鏡少佐に自然と身体が強張った。

「リクさんに、少しお話があります」
「ゎ、私に?」

なんだろうかと首を傾げれば、横からメイドさんが“ご一緒してもいいですか?”と顔を出した。それに仕事をしろと反論しようとすれば、その前に眼鏡少佐の声が飛んでくる。

「貴女には、次サボったら貴女のコレクションを灰にする。という伝言をメイド長から預かっています」

淡々と発する眼鏡少佐の言葉にメイドさんの顔色は一気に真っ青になり“今日も1日頑張らせていただきます!”と言い残すとすぐさま仕事に戻っていった。朝の挨拶的な言葉に“もう昼過ぎだよ”と心の中で突っ込む。
眼鏡少佐に向き直れば、私が借りている客間に入るよう促された。


中へ入れば、レイモンさんがベッドに横になっていた。

「先ずは、勝手にリクさんの部屋を使ってしまった事をお詫びします」

レイモンさんが寝ているのはわかったが、その他の事が全くわからず首を傾げれば、眼鏡少佐は簡単にだが説明してくれた。
上官である自分に対し造反行為に及んだ結果、自害しようとしたのか自らの手で腹部を差し、屋敷内で一番近かったこの客間に担ぎ込み手当てをしたらしい。どういう経緯でそうなったのかは説明してくれなかったが、そこは眼鏡少佐らしいと言えばらしいのだろうなと一人納得する。しかし、話があると言った割りには内容がそれ程ないなと思っていれば、眼鏡少佐が口を開いた。

「兄さんにストラタへ親書を持って行ってもらう事になりました。リクさんも一緒に行かれてはどうですか?」
「…ストラタへ?」

疑問詞で応えれば眼鏡少佐は頷いた。

「異世界等は専門外なので僕にはわかりませんが、ストラタにある文献を見れば何かわかる事があるかも知れません。リクさんさえその気なら文献を閲覧させてもらえるよう、親書に一文を添えておきますが」
「行きます」

帰る方法でなくても、何かわかるかも知れない。何か進展出来るかも知れない。そう思った瞬間、私は返事をしていた。
返事の早さに眼鏡少佐が軽く笑ったのが窺える。

「そう言うと思って、既に兄さんたちには話を通しています」
「ありがとうございます」

お礼を言えば、眼鏡少佐は畳まれた服を差し出した。私の服だ。反射的に受け取れば眼鏡少佐が口を開いた。

「渡すのが遅れました。いつまでも貸し出しの服は嫌でしょう」

そう言った眼鏡少佐は私が今着ている服を見て驚いたような顔をした。

「それは…男性者ではありませんか?」

声の感じから引いているのがわかる。今まで気づかなかったのかと思いながら、苦笑いで“スカートやフリルが苦手で…”と答えれば、やはり引き気味に“そうですか…”と返された。眼鏡少佐には警戒されなくなって以来引かれてばかりだな、と私は小さく肩を落とした。






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