[携帯モード] [URL送信]
もしかして



シェリアとアスベルに名乗られたあと、私も名前をいうと片言で復唱されてしまった。2人は横文字の名前なので日本人名に馴染みがないのかも知れないと思い下の名前だけ改めて口にした。馴染みが無いにしては日本語がかなり上手なのだが、この際気にしないでおこう。きっと両親は外国人だが育ちは日本です、という類だろう。それなら、どうして名前は片言なのか疑問が生じるが敢えて考えない事にする。紫髪の少女は名乗る気配もなかったが、容姿からして少女も似たような感じなのだろうなとぼんやり思った。



 もしかして



シェリアの話によると、私はこの町の裏山にある花畑で1ヶ月前に血だらけで発見され、発見者シェリアの対応で前領主アストンさんに保護されたらしい。怪我は自然と治ったようだが、ずっと眠り続けていたんだそうな。そして今、シェリアに発見される前に何があったのか?を聞かれ、返答にというより反応に困っていたりする。その理由は、シェリアの話の中に出てきた“回復輝術が〜”という言葉とアスベルが相づちで言った“隣国のフェンデル”という言葉だ。回復は兎も角、輝術という言葉に聞き覚えはない。新しい医療技術だろうか。それに、フェンデルという国名にも聞き覚えがなかった。からかわれているのだろうか、と思うが至って真面目な2人と2人の会話を黙って聞いている少女の態度から、それは除外していいような気がした。そのせいで、1つだけもしかしてと頭をよぎるが、有り得ない事柄に軽く頭を横に振る。黙っているわけにもいかず、嘘をついても仕方ない成り行きを私は正直に言うため口を開いた。

「私は…その…、崖を踏み外してしまって、谷底に落ちたんです」

私がいうと2人は無言で首を傾げ訝しんだ。少女も遅れて首を傾げたが、理解してやっているというより2人の真似をしているように感じる。やっぱり天然なのだろうかと思いながら意識を2人に戻した。言いたい事は大体解る。谷底へ落ちた時、私は落ちてすぐ意識を無くしたのではなく、大量出血による貧血で意識を失っているのだ、だから谷底の風景はかすかだが覚えていた。谷底は深すぎて、とても暗かった。花なんて一輪も見た覚えがなく、ましてや人が易々と来れるような場所ではない。

「私が言ってる事を信じ難いのはわかるんですが、本当なんですよ…ね…」

言葉を濁しながらも、私は2人に言った。

「それと、あの…着用されてる服や髪色、この洋風な建物は……お芝居…とかではないですですよね?」

いきなりの言葉に3人の頭の上に“?”が飛び交っているのが容易に想像出来る。シェリアが戸惑いながらも“えぇ”と肯定の返事をしてくれた。肯定されると、私の思っている有り得ない事柄の仮説が近づいてきて、なんだか胸がもやもやする。

「…やっぱり…。失礼な事を聞いてしまって、すみません。でも、ここは、私の住んでいた日本とは全く違うっていうか…!」

失礼過ぎるのともやもやして胸が苦しいのとで、3人をまともに見れず俯きながらいうと、アスベルの疑問の声が降ってきた。

「ニホンってどの辺りにあるんですか?」
「聞いたことない地名ね…」
「ニホン…?」

シェリアと少女もそれに疑問の呟きを足した。日本を知らないという発言にそんなバカなと心中で叫ぶ。結構有名な国だと思っていたのは私の気のせいなのか?心中で叫んだところで、有り得ない事柄の仮説はどんどん近づいてくる。これはもう、一気に真意を訊ねるべきなのだろう。鼓動が早くなる心臓を鎮めるように深く息をした。

「ここは……どこですか?」

言った声は、恥ずかしい事に泣きそうな声になっていた。






*前次#

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!