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リチャード陛下




ラントの中に入れば、喧騒は更に増し血の臭いが充満していた。思わず手で鼻を覆う。大通りの方へ行けば行くほど倒れている人たちは多くなり、剣が交わる音も激しくなる。不意にある事に気づき足を止めた。辺りを見回して確認する。
やっぱりそうだ…
倒れている人たちの大半は一般の人たちだった。中には小さな子供もいる。
王都の兵士は無差別なのか?
そう思うと身震いした。



 リチャード陛下



商店街に差し掛かると一際大きな物音がして足を止める。屋敷の方向から砂埃が高く舞い上がっていた。屋敷の周辺でも戦いが激しくなっているのだろうか。現状を知るためには走る以外ない。
大通りに出れば彼方此方から火があがり煙が立ち上る中、王都兵とストラタ軍・ラント軍が入り乱れて剣を交えていた。その中を的にならないよう出来るだけ早く走るが、横から来た突きに咄嗟に刀を抜き軌道を逸らす。両手で柄を握り横薙すれば相手は飛び退いた。そのまま無視して走り去りたかったが、行くてを塞がれ足が止まる。
大丈夫…殺さなくても戦える。
王都兵と対峙し、一気に間合いを詰める。逆手に持った刀の柄で相手の顎を突き上げた。後ろに仰け反る王都兵に追い討ちをかけるように回し蹴りで蹴り飛ばす。一息も吐かない内に次の王都兵が剣を振り下ろすが、その兵士の剣先が届くまでに兵士はその場に倒れこんだ。兵士の背を見れば大きな剣が刺さっている。

「戦場では常に背後に気を配れ。基本だぞ」

倒れた兵士に近づき剣を抜きながら、厳ついおじ様風の男性が静かに口を開いていた。目は複雑そうに兵士を見ている。悔しいようなそんな目だった。
男性はこちらには目を向けずに“早く行け”とだけこぼし、去っていった。
私もまた走り出す。が、倒れてくる兵士・攻撃してくる兵士でなかなか前に進まない。苛立ちを現にするように舌打ちをした瞬間、足元に魔法陣が広がり暖かい光に包まれた。腕を治してもらった時と同じような暖かさだった。と、同時に周りにいた王都兵が膝をついて呻いている。異様な光景だったが、これもたぶん輝術とやらの一種なのだろう。なんでもいい、敵の足が止まっている今がチャンスだ、と足を踏み出した時、後ろから紫のツインテールが私を抜かして走って行った。

「ソフィ…?」

あんなツインテール見間違えるはずがない。ソフィと確証した私は彼女を追いかけて大通りを抜けた。追いかけたくせにソフィの姿はもうない。彼女の足の速さに驚きながら、たぶんソフィも屋敷に向かったんだろうと走り続けた。
屋敷の塀越しに川沿いを走る、初めは大きな屋敷に感激していたが、今だけはデカすぎると悪態を吐く。門までくると急に庭から光が溢れ出し強風が吹き荒れた。眩しさと風で目を満足に開けることが出来ず、何が起こっているのか全くわからない。門の柱に捕まり目を凝らしていたが、強くなるばかりの風に手が耐えられず離れた拍子に吹き飛ばされた。

岩垣に頭を強く打ちつけ地面に倒れ込む。涙目になりながら頭を抑えてのた打ちまわっていると、ドサッという音がして視線を向けた。
黒服に金髪の青年が、岩垣にぶつかった衝撃で咽せたのか、咳き込みながら座り込んでいた。

「っ…おのれぇ…!」

苦しそうに憎しみたっぷりの言葉を吐く青年へ、痛む頭をさすりながら起き上がり近づく。似ている。髪色、瞳の色、顔の感じといい夢の少年にそっくりだ。だが、年齢が違う。夢の少年はもっと幼い。

「リチャード…陛下…ですか?」

苦しそうに肩を上下させながら動こうとしない青年にそう声をかければ、鋭い眼光が私を射抜き身動き出来なくなった。少しでも動けば殺されてしまうような、そんな感じの恐怖。

「リチャード陛下、そのお怪我では無理です!」

声ととも老人と兵士が数人走ってくる。兵士は青年の前で固まっている私に剣を突きつけた。

「全軍に告ぐ、撤退だ!」

老人が、そう言って青年に腕を貸し立ち上がらせ歩き始めると、私を警戒しながらも兵士たちは引いていった。

「今、リチャードって…言ったよね……」

立ち去った方向を見ながら呆けていると、大きく呼ぶ声が聞こえて我に帰る。声がした方を見れば、バウル好きのメイドさんが大きく手を振っていた。





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