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回想




山の中腹にポツンとある平屋の一軒家。木々で太陽の強い光を遮り影になっている縁側で、寝そべっていた私は薄く目を開けた。

(寝てしまったのか…)

耳を澄まして物音がしないことを知ると、まだ家族は買い出しから帰ってきていないのだと気づく。

明後日は法事で親戚が揃うので、父さんを除く私の家族がその準備に駆り出されたのだ。父さんだけは仕事のため到着は今日の夜。その他の親戚は明日のお昼頃に到着するらしい。

山だからかそれとも田舎だからか、自宅で過ごすよりも涼しく感じる。緩やかな風が吹き、吊るされている風鈴が涼やかな音を響かせた。
眠気に誘われまたゆっくりと目を閉じれば、風鈴が激しく音をたて驚いて目を開ける。風が吹いた感じはなかったが……眩しさからぼんやりした視界でそんな事を思えば目の前に誰かが立っている事に気づく。

「帰ってきたんだ、おかえ───」

買い出しから戻ってきたのだと思い体を起こして視線を向ければ、知らない女の子が立っていた。今が真夏だと言うことを忘れそうなくらい白い。肌がというよりも、全体的に色素が薄すぎるような白さだ。

「ど…ちら様?」

聞こえいるのかいないのか、女の子は私を一瞥すると背をむけて裏山へと歩いて行く。

「ちょっと待って、そっちは危ないよ」

裏山にはどうやって出来たのか知らないし見たこともないが、高い崖が在るのだ。小さい頃から脅し文句のように聞かされていたが、実際に落ちた婆ちゃんは即死だった。きっと例外なく落ちれば終わりだろう。
声をかけても聞こえていないのか反応を全く見せずに歩いていく女の子に、仕方なく腰を上げて置いていた靴を履き振り向けば、女の子はもう木々の間から時折小さく見える程遠くに居た。

「早…」

走って追いかけるがなかなか追いつけない。声をかけるが全く振り向かない。徐々に腹立たしくもなってくるが放って置くわけにも行かず追いかけていると、女の子はふいに立ち止まりこちらを向いた。

「……………」

私に向かって何か言っているみたいだが、全く聞こえず首を傾げる。
手入れのされていない裏山は草も生えほうだいで腰辺りまで伸びた草をかき分けながら進むのは容易ではない。
息を切らしながら漸く追いつき手を伸ばして一歩踏み出せば、女の子の姿は消え踏み出した先に在ると思っていた地面は無く、私はそのまま落ちていった。



気がつけば辺りは薄暗くオレンジ色の夕焼け空が遠くの空に微かに見えた。
身体が動かない。今は真夏の筈なのに妙に寒く、その寒さも時間が経つに連れてツンとした痛さに変わっていった。

そうか、崖から落ちたんだ。
どれ位の時間が経ったのかはわからないが、ふいにそう思った。
死ぬんだろうな。とも思った。
だが、不思議と悲しみや恐怖などは湧いてこなかった。

草の青々とした匂いが嫌なほどに鼻にくる。
ゆっくり目を閉じれば、その匂いには徐々に花の匂いが混ぜっていった。



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あきゅろす。
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