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花摘みの依頼




メイドさんが頼んできた気になる依頼とは、裏山の花畑で花を摘んでくる依頼だった。内容的にはとても簡単な依頼で問題などないのだが、メイドさんが気にしていたのは、依頼主と依頼期限。依頼主は7.8歳くらいの2人の子供で、今日依頼を届けて今日中の期限だそうだ。
メイドさんが、今日中は無理だと思うと伝えたところ、誰もやってくれなければ自分達で行くと言っていたらしい。
子供たちの目は真剣で、本当に行きかねないと思ったメイドさんは、最近いろいろな依頼をし、裏山にも行っている私に依頼を頼んできたのだ。
幼い子供に裏山へ行かせるわけにもいかず、私は裏山へと向かった。



 花摘みの依頼



空が夕焼け色に染まっている。
魔物をやり過ごしながら花畑に着くと、2人の子供が花を楽しそうに摘み合っていた。7.8歳くらいの男女の子供だ。
メイドさんから聞かされていた外見に似ているので、たぶん今回の依頼の依頼主なのだろう。
裏山と言っても危険な場所である事には違いないのに、よくここまでこれたなぁ

「何してるの?」

そう声をかけ近づくと、2人は摘む手を止めこちらを向いた。

「お花摘んでるの」

女の子は楽しそうに摘んでいる花を掲げて見せてくれる。

「お姉ちゃん、誰?」
「お姉ちゃんはリク。2人の依頼をやりにきたんだ」

男の子の問いにそう答えると、男の子は 遅いから自分たちで来ちゃったよ!と少し怒り気味だ。
無理のある依頼を出したのは、そっちだろうに…
苦笑しながら謝ると、別にいいけどね とため息混じりに返された。
座っている女の子の横には籠があり、摘まれた花がいっぱいになるまで入っている。かなりの量を摘んでいるのに、それでもまだ足りないのか女の子は花を摘んでいた。
そういえば、どうしてこの子達はこんなにも早くこれだけの花が欲しかったのだろう…

「…そんなにたくさんの花、摘んでどうするの?」

2人のそばまで行き腰を下ろす。
男の子の方はそっぽをむいてしまった。言いたくないらしい。が、女の子の方はふんわり笑いながら口を開いた。
「お花の首飾り作って、ママにあげるのぉ」
「!ばかっ!何話してんだよ。秘密だって言っただろぉ」
「あ…ごめん、おにぃちゃん」

男の子が焦って落胆してと忙しく表情を変える。そんな男の子に謝りながらも女の子は笑っていた。
仲の良い兄妹らしい。私と兄ちゃんじゃこうはならないだろうな。だいいち、兄ちゃんの方が話したがりでろくに秘密なんて作れない。幼く可愛らしい事も含めて、この兄妹が少し羨ましかった。

「お母さんにあげるんだ。でもそれなら、こんなにたくさん摘まなくても──」
「ダメだ!……いっぱいないとダメなんだ…」

急に声を上げた男の子に驚いて視線を向けると、悔しそうな悲しそうな顔をして拳を膝に押し付けて俯いていた。
何かあったんだろうと一目でわかる態度に、聞いてもいいのか、聞くべきなのか迷う。黙っていると女の子がゆっくりと口を開いた。

「パパがいなくなってから、ママ元気ないの」
「いなくなった?」
「……この間の、フェンデル軍に…殺されたんだ」

声が出なかった。奇襲を受けたときの戦場の惨劇が頭に映り、気持ち悪さが蘇る。町の人たちの様子や、私自身の日常会話からすっかり忘れかけていた現実。戦争をしているのだから、死人がいて当たり前だ。

「今日、ママの誕生日なんだ。いっぱいの花みたら笑ってくれるかな?」

説明の言葉はあまりなかったが子供独特の素直な表情から、男の子の心から母親を思う気持ちが伝わったくる。男の子だから、余計悔しいのだろう。
女の子も状況を理解しているのか、俯きぎみで表情に影を落としていた。

「大丈夫!笑ってくれる。二人が一生懸命作った、たくさんの花飾りみたら絶対笑顔になるよ」

そう言って私は二人の頭をワシャワシャと撫でる。

「でも、遅くなって心配させるのはいけないなぁ」

キョトンとしながら私を見る二人に、空を指さして見上げるように促すと、短い声を上げて驚いていた。
空はもう薄紫色に変わっている。山で灯りがない事もあり辺りもだいぶ薄暗くなっていた。

「そろそろ、帰ろっか」

そう声をかけて、私と2人は裏山を降り始めた。


山の中腹にある湧き水で少しの休憩と水分補給をする。2人は楽しそうにはしゃいでいるが、私は魔物が襲ってこないように警戒していた。
“夜の魔物は昼間に比べて凶暴”
かめにんさんが出逢ったばかりだった頃に言っていた言葉が不意に頭をよぎる。
お願いだから、何も出てこないでくれと祈りながらも鞘に納まったままの剣の柄へと手を伸ばした。
飲み終えた女の子が私の横に立って遠くをジッと見つめている。どうしたのかと声をかけようとした瞬間、急に走りだした。

「ピヨピヨだぁ!可愛い〜」
「!ちょっ待った!」

ピヨピヨに向かって走って行く女の子の服を掴み引き戻す。異変に気づき近づいてきた男の子に女の子をお願いすると、離れるように指示する。
ピヨピヨがいる方向を目を凝らして良く見ると数え切れない程のピヨピヨがいるのが伺えた。姿は見えないが草むらや木々の中なからもカサカサと物音がし、見えている以上の数の魔物に囲まれていることがわかる。
鞘から剣を抜き構えると、一匹のピヨピヨの鳴き声と共に一斉に襲いかかってきた。
これは、ヤバいかもしれない…


斬っても斬っても一向に数が減らないピヨピヨにうんざりするが、襲いかかってくるのだから仕方なく斬っていく。2人は岩の陰に隠れて戦場を見守っていた。その方が構わなくていいぶん動きやすい。

向かってくるピヨピヨに対処しながら、なんとか間合いをとろうと試みるが、なかなかそれは叶わない。
間合いさえとれれば、いざという時にとバリーさんから教わった技で大半のピヨピヨを蹴散らす事が出来るのに。苛立ちが募り、つい舌打ちをしてしまう。
その時、直ぐそばの草むらからウルフが飛び出してきた。ピヨピヨに気を取られ反応が遅れてしまう。頭を狙って飛び込んでくるウルフに、咄嗟に左腕で頭を遮ればウルフはその腕にかぶりついた。ウルフの牙が肉を突き破り骨を砕く。鋭い痛みが全身を駆け巡り、声無き声の呻きが漏れた。頭が真っ白になる。

「ぅ゛………っ」

腕を引きちぎる勢いで容赦なくウルフは力を入れる。痛みで気を失ってしまいそうだが、何とか踏ん張り足に力を入れ左腕を横に振ると、近くにいたピヨピヨが腕にかぶりについているウルフによっ遠くへと弾き飛ばされていった。
動物だから“気にする”ということがないのだろう。ウルフは自分の足で弾き飛ばしたピヨピヨの事など知らぬ顔だ。その顔に思い切り剣を突き刺すと、呆気なくウルフの力は抜けていった。剣を置き空いた右手でウルフの口を無理矢理開いて離す。牙が腕から抜けると同時、腕からは血が大量に流れ落ちそして感覚まで消えていった。神経がやられたのか左腕自体が全く動かない。血を流しているからか、クラクラして視界が霞み息も荒くなった。

───ぉ……ちゃ……
───たす……き…よ

遠くのほうで2人の声がしたが、何を言っているのかよくわからなかった。霞んだ視界にピヨピヨたちが近づいてきているのを捉え、剣を拾い一度鞘に納める。この距離なら、いける。
動かない左腕はだらしなく下げたまま体勢を低くし剣の柄を握った。

「…決める………葬刃……っ!!」

勢いよく鞘から剣を抜き横に薙ぐ。剣から生まれた衝撃波はピヨピヨたちを捉え横一線に斬り込んだ。斬られたピヨピヨたちは倒れて動かない。よかった、そう思った瞬間、殺り損ねた一匹がこちらに向かって飛んで来たが、体が動かずに倒れ込み意識を失った。
遠くの方で微かに銃声音を聞きながら………






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