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お金の稼ぎ方




フレデリックさんから借りたバウルという青い竜が出てくる本は、メイドさんの語りによって読まなくても内容がわかってしまっていた。それでも読む練習で一度だけ目を通す。が、それほど時間の経たないうちに読み終えてしまった。あれだけ語られたら雰囲気だけで読めてしまう。
もう一度読む気もせず気晴らしにと暗くなった外へ出ると、かめにんさんがかめ車に乗って帰ってきたところだった。
かめ車の乗り心地ってどんな感じなんだろうか。そして、かめが大き過ぎて気持ち悪いと思うのは私だけなのだろうか。



 お金の稼ぎ方



「かめにんになりたいんっすか?」

旅をするにはお金は必要だろう。しかし、今の私は無一文で、尚且つバイトを募集している場所もないため、お金を稼ぐ手段が見つからない。そのため、商売人であるかめにんさんにお金を稼ぐ方法を聞いたところ、何故がそのような答えが返ってきた。

「いや」
「かめにんになるには、まず、かめにん本部に行って申請書を書かないといけないっすよ〜」
「いや、だから」
「申請が受理されたら、地方に派遣されて修行するっす!」
「あの」
「そこで商品の内容や流通・商売のノウハウを1から叩き込まれるっす。いや〜実に厳しいっすよっ!」

かめにんさん、どうして人の話を聞いてくれないんだ。商売人はお喋りなくらいが丁度いいとは思うけれども、人の話を聞かないのはどうかと思う。
自分の駆け出しの頃の話を語り出したかめにんさんに、軽くため息を吐く。かめにんさんに聞いたのが間違いだったのだろうか。等と話を聞かず考えていると、急にかめにんさんの不満そうな声が飛んできた。

「聞いてるっすか!?」
「……いや、全く」

素直に答えると、かめにんさんは グレてやるっすーっ!と叫んでいた。この人いったい何歳なんだろう。見てて恥ずかしいな…

「落ち着いてください」

そう言って、かめにんさんのコップにお茶を入れて差し出す。かめにんさんは受け取って一気に飲み干したあと口を尖らせながら言った。

「ちょっとした冗談っすよ」

今のどこらへんが冗談だったのだろうか。私には、かめにんさんのキャラ設定の方が冗談めいているように思う。
笑うに笑えず黙っていると、かめにんさんはそのまま続けた。

「お金の稼ぎ方っすよね〜…依頼とかしてみたらどうすっか?」
「依頼?」
「そうっす!町の人からの依頼された内容を完了すれば報酬が貰えるっす。簡単な依頼もあると思うっすから、お手軽っすよ」

かめにんさんがいうには、世界にある各町の宿屋が依頼の窓口になっているようで、依頼を完了すれば、依頼主から報酬として物やお金が貰えるらしい。因みに、ラントには宿屋がないらしく、依頼の窓口は屋敷のメイドさんなんだそうな。
依頼内容には色々な物があるらしく、魔物退治・物資の輸送・特定された物の調達、その他諸々の依頼が存在するみたいだ。簡単な物では、ただのお使いや店番、お手伝い等があるようで、明日早速メイドさんに聞いてみようと思う。

依頼の話しを聞き終わった後こちらの用件だけ済ませ帰るのも悪いので、かめにんさんの駆け出しの頃の話を掘り返すと、かめにんさんは意気揚々と語り出し何時間か経ってから、語り終えすっきりした顔で軽快に手を振りながら帰る私を見送ってくれた。

かめにんさんって、みんなこんな感じなんだろうか。なんというか……元気過ぎる。
そんな事を思いながら手を振り返し、私は部屋へと戻った。


翌日、午前中に剣の稽古をつけてもらうと稽古が終わった後、バリーさんから次の稽古は裏山で実戦をする事を伝えられた。
私まだ、2日目なんですが…早すぎませんか?と思いつつ言葉にすると、バリーさんは笑いながら私の肩を叩き タイニーウルフやベア等が相手ですから、油断しなければ大丈夫ですよ。と言う。
笑顔には悪気は微塵も感じられないが、ウルフは狼でベアは熊ではないのだろうか?私は本当に大丈夫なのだろうか…
一抹の不安を残しながら、稽古は終わり3人は解散した。

屋敷に戻りメイドさんを探しながら休憩部屋へと歩いていると、前から眼鏡少佐がレイモンさんと話しながら歩いてきた。
難しい話をしているみたいで、話しかけにくい雰囲気を出している。私としては好都合で、通り過ぎる時に軽く会釈だけをすると、レイモンさんに呼び止められた。

「なんですか?」
「すまないが、執務室にお茶をお願いするよ」
「ぇ…」

レイモンさんは私を使用人と間違えているようで、私の返事に首を傾げている。
別にお茶を持って行くのは構わないのだが、食器の場所や入れ方を知らないのでたじろいでいると、眼鏡少佐は顔だけを少し振り向かせて素っ気なく言った。

「彼女は使用人ではありませんよ」
「ぇ!?そうでしたか。それは失礼な事をしました」
「ぃぇ、大丈夫です。お茶でしたら、私からメイドさんの方に伝えておきます」

それでは、と軽く頭を下げてそそくさとその場を後にする。レイモンさんの声が聞こえたが、無視して歩いた。
ごめん、レイモンさん。
心の中でそういいながら、休憩部屋へと向かった。


休憩部屋に入ると、昨日の熱烈に語っていたメイドさんがお茶を飲みながらゆっくりしていた。私に気づいて手を振ってくれる。

「やっほ〜」

やっほ〜!?昨日初めて話したメイドさんの気がするんですが、そんなに仲よかったでしたか?躊躇いながらも同じように挨拶を返して、メイドさんの向かいに腰を下ろす。

「聞きだい事とお願いしたい事があるんですが」
「何?バウルのこと?」
「違います…」

目を輝かせていたメイドさんに即答で返すとつまらなさそうに なんだ と呟き、お茶をズルズルとすすっていた。

「今きてる依頼の内容を教えてほしいのと、執務室にお茶を持って行ってほしいんです」

言い終わると、メイドさんはあからさまに嫌な顔をしたが、席を立って一冊のファイルを渡してくれた後、お茶の用意をし出した。

「それが依頼内容のかかれたファイル。終わってるのには済み印が押してるから」

奥の方からメイドさんが説明してくれる。話声は普通なのだが、先程の嫌な表情がなんなのかわからなかった。そんなにバウルの話がしたかったのだろうか?考えつつもファイルを開いて依頼内容を見ていると、またメイドさんが話しかけてきた。

「あたし、少佐とレイモンさんってなんか苦手なのよねぇ。あなたは?」
「あぁ…レイモンさんは兎も角、私も苦手ですね」

苦笑気味に返すとメイドさんはポットとカップをお盆に乗せてこちらへやってきた。

「知ってる?あの2人義兄弟なんだよ。しかもレイモンさんがお兄さん」

言いながらメイドさんは私の横に立つ。

「余所からやってきた義理の弟の部下なんて、レイモンさんも複雑だろうね。少佐の方は仕事の話以外、レイモンさんには素っ気ない感じだし…」

そこで言葉を区切るとメイドさんは私の顔を覗きこんで言った。

「というわけで、2人の態度が気まずいから一緒に執務室来て!」
「えっ!?」
「あたしとあなたの仲じゃない」
「そんな仲よくな」
「さっ!行くわよっ」

無理やり腕を引っ張られ、私はメイドさんと一緒に執務室に行く事になった。無理矢理連れてこられた執務室では、レイモンさんは無駄に話しかけてくるし眼鏡少佐には変な目で見られるし、散々な思いをした。
メイドさんにはとても感謝されたが、私としてはいらぬ気苦労をしただけなので感謝されても喜べない。メイドさんは再度、私に依頼内容のファイルを渡し仲睦まじく思えるような挨拶を残すと仕事へ戻っていった。
「メイド」という肩書きを持っている割にはかなり砕けているように感じるが、気のせいだろうか…?



台車に乗っているダンボールを指定された場所へ下ろす。中に何が入っているのかは知らないが、結構重い。

今日の依頼は道具屋さんが注文した品を指定の場所まで取りに行き倉庫に直す事。その依頼も今、ダンボールを下ろした事で終了した。
依頼主の道具屋のおじさんに知らせる為、店の方へと回り込む。

「終わりました」
「ぃゃ〜助かったよ、ありがとう。これ完了証明書、サインしといたからメイドさんに渡して」
「はい、わかりました」

証明書を受け取ると軽く会釈をして道具屋を出た。

私が依頼の仕事をし始めて3日が経つ。なんとなくだが、仕組みを理解して少しずつだがお金も貯まっている。
剣の稽古も順調で、一昨日と今日も裏山へ行き実戦をしていた。狼や熊と聞いていたので怖かったのだが、やってみると案外大丈夫だった自分が怖い。こんな事をもし日本でやってしまったら動物愛護団体が黙っちゃいないだろう。
私が倒れていたという花畑も見た。色とりどりに花が咲き乱れとても綺麗な場所だ。こんなにも綺麗な場所に血だらけで倒れていたなどと、環境汚染の何者でもないな…と謝りはしないが虚しくなった。
文字の練習は今、文を書く練習をしている。読む方は雰囲気で読んでいるのもあるが、10歳児向け辺りならある程度は読めるようになった。
文献などを読むにはまだまだ程遠いが少しずつ読めていっているのは素直に嬉しい。目指せ、文献読破っ!などとよくわからない事を思ってみたりもしている。

シェリアがラントを出てから5日が過ぎていた。
名前すら知らないが、気さくで良く話しかけてくれるバウル好きのメイドさんから、ウォールブリッジでセルディク大公の軍とリチャード陛下の軍との戦があったことを教えてもらった。ウォールブリッジがどこにあるのかは知らないが、シェリアが向かった方面にあるらしい。きっと救護使節だから駆り出されてはいるだろう。それが余計、シェリアの安否を気にさせた。

屋敷に戻り、廊下でバウル好きのメイドさんを見つけ話しかける。

「道具屋さんの依頼終わったよ」
「ぉ!サンキュー」

嫌な気持ちにはならないが、この3日間でメイドさんは以前にもまして砕けた口調になってきた。気に入られるのだろうか。
完了証明書を渡すとメイドさんはメモ帳を開いてペンを走らせたあと、証明書を挟んでメモ帳を閉じた。

「報酬渡すから、休憩室行こっか」

メイドさんの言葉に頷き、あとに続いて歩いているとメイドさんから話しかけられる。

「このあと、何か予定ある?」
「?ないけど」

もう1つ程依頼をしたら今日はお終いにしようと思っていたが、必ずやりたいわけではなく時間もしばらくすれば夕暮れ時になる、焦る事はないだろうと思いそう答えた。

「ちょっと、気になる依頼があって…頼まれてくれない?」





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