大事な拠り所
人は、一人じゃ生きていけない。
少なくとも俺はそうだ。
だから拠り所とした場所や人を…護ろうと決めたんだ。なのに護ることが出来なくて全部失う。
俺が拠り所にするものはいつも…俺から遠退いてしまう、失ってしまう。
いっそのこと一人で生きていこうと考えても、いつの間にか…また拠り所を作ってる俺がいた。
今回の拠り所は万事屋と、神楽に新八…そして土方だった。
なんだかんだで優しい土方が、今は一番の拠り所。こんなにも傍にいて心が安らげる人は、松陽先生以来だった。
だからもう、絶対に失わないようにしたかった。
「……万事屋…お前を斬れと上からの命令がきた。今まで…なんやかんやで世話になったり助けてもらったりしてきた。だから本当はこんなことしたくねぇ」
「…うん」
あぁ、やっぱり俺には『幸せ』ってのは手に入らねぇんだな。
拠り所としていた土方に、命を狙われるなんて…夢だったらどんなにマシだっただろう。
「…お前が…あの“白夜叉”だったんだな…」
「…うん」
「……立ち向かって来ないのか」
「…だって、戦えねぇし」
「戦わねぇとお前死ぬんだぞ!!」
万事屋に土方が来て、淡い期待を持った。俺に会いに来てくれた事が嬉しくて仕方なかった。
でも、家の中に入れてソファーに座るように言って土方の方を見たら、土方は刀を抜いて俺に刃を向けていた。
そして今の会話に戻る。
「…なんで…なんで戦わねぇんだよ…ッ」
「………」
「なんか言えよ!!」
「…俺さ、今まで拠り所にしてきた人や場所、全部失ってきた」
だから…もう失いたくないんだ。
一人になりたくねぇんだよ。
「…失いたくねぇなら…生きて護れよ。こんなとこで死んでもいいのかよ」
「…俺の大事な拠り所は、この万事屋と神楽と新八と……土方なんだよ」
「!」
「今ここで死んじまったら、あの世で一人になっちまう。でも生き残るとしたら土方を殺して逃げなきゃならねぇ」
今死んであの世で一人になるか、大事な拠り所である土方を自分の手で殺して真撰組から逃げて一人になるか……どっちかしかない。
だったら俺は、今死ぬ方を選ぶ。
「俺は…土方を傷つけられない。
傷つけたくない」
「っ……万事屋……」
『幸せ』ってやつを味わいたかったな。土方となら『幸せ』になれると信じたかった。
「…最後に…一つだけ言わせてくれ」
土方の優しさに触れて、
いつの間にか惚れちまってた。
“俺、土方が大好きです”
「……万事……銀時、」
「…あれ…おかしいな…体が震えてきちまった…」
怖い、やっぱり一人は怖いよ…
「…っ……早く…早く殺して!!」
「…銀時…」
「早く殺せよ土方!!」
「…俺にも一つ言わせやがれ!!」
「ッ…なん…だよ……」
土方が、今まで見たこともない顔をして叫んだ。
怒ってるようで…どこか悲しそうで…
「……俺も、お前と同じような人生を送ってきた。けど今は、俺の拠り所である真撰組や近藤さん、仲間がいる」
「……」
「…俺にとっても、お前は拠り所の一つなんだよ」
「…!
うそ…だ…」
「嘘じゃねぇ。
だからお前を悲しませたくない」
「…はは、大丈夫、俺は土方が生きててくれりゃ嬉しいよ」
「泣いてるくせに嘘つくんじゃねぇよ」
目に涙が溜まって視界がぼやけてきた。もし俺がこれからも生きれたなら、土方と一緒に居られたのに…
そう思うと涙が溢れてきて、死にたくなくて、自分が壊れそうで…怖くなった。
「銀時…っ」
「…ひじ、かた…俺…死にたくねぇ…一人になりたくねぇ…っ」
土方の腕の中で俺は泣いた。
ぎゅっと抱き締めてくれる土方が暖かくて…離れたくなくて…。
「…お前を…一人にはさせねぇ」
「…無理だよ…俺今から土方に斬られるから」
「……お前を斬ったあと、俺も切腹して死ぬ。そしてお前とあの世に行く」
「出来るわけねぇよ…んなこと」
「……約束する。
すぐにお前を追いかけるから、だから待っててくれ」
「…じゃあ…誓いのキスをして」
「分かった」
土方に一回きりの深いキスをしてもらって、俺は目を瞑った。次の瞬間には腹に激痛を感じて、うっすらと目を開けた。
ぼやけた視界の中で、はっきりと土方だけが見える。刀の刃を自分の方に向けて、腹を切った土方。
そして俺の横に倒れて…微笑みながら俺を見た。
俺は最後の力を振り絞って土方の方へと手を伸ばす。土方も俺の方へ手を差し伸べる。
「ひじ…か……た………」
「ぎん…とき……」
あの世でも、
俺の拠り所になってください。
END
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後書き
飼唾様リクエストありがとうございました!!
というか遅くなってすみません!!
なんだかリクエストされたものとは違う作品が出来上がってしまった気が…orz←
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