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満員電車
 

「はぁー…なんで俺が付き添いなんざしなきゃなんねーの」

「俺が知るか。大体、俺は付き添いなどいらんと言ったはずだ」

「銀八に言われちゃあ断れねぇだろーが」


地下鉄の駅で、白と俺は並んで立っていた。仲の悪い二人が一緒にお出かけだ。だからストレスが溜まるのは当たり前で、俺も白もさっきから苛々していた。

大体俺は昨日仕事あったってのに朝っぱらから銀八に起こされて白の付き添いに行けだの言われた。
眠いし断ろうとしたら銀八に襲われそうになるし、疲労が溜まってんのに朝からヤられたくない俺は仕方なく、白の付き添いをすることになった。

白の奴が何処に行くのかさえ分からないまま、ただ白の後をついていく。全くもって意味のない様に思える事をしてる自分がバカらしく思えてくる。


「…お前、何処行くの」

「何処って、会社に決まってるだろう」

「…会社…?」

「…貴様、俺がフリーターだとでも思っていたのか?」

「いや、思ってないけど…そしたら俺がついていく理由って何?」

「だから俺が知るわけないだろうが」



…帰りたい、切実に思った。
だって白の奴は仕事に行くんだろ?なら俺がついていっても何の意味もねぇじゃん!!


「…帰って寝たい、けど今帰ったら銀八にバレるし…あーくそっ」

「銀八の奴は何を考えているんだまったく…悪戯のつもりか」

「珍しいな、俺も今同じ事思ったわ」


「「…はぁ…」」


二人で同時にため息を吐いて電車が来るのを待つ。会話をしようにも話題がないし、白の奴は俺と話したいとか思ってないだろーな。


無言のまま電車を待って、電車が来たら乗り込む。電車の中でも会話はない。もう他人から見れば知らない人同士のように見えるだろう。


「…人が増えてきたな」

「そりゃあ朝だからね、通勤ラッシュってやつだろ」


俺達が乗ったばっかの時は、それほど人は乗ってなかった。けど駅に止まるにつれて人は減るどころかどんどん増えてきた。

今の電車内はぎゅうぎゅう詰めで身動きすら取りにくい状態。周りはオッサンだらけでむさ苦しい。
俺達は始めの方に乗ったから開くドアとは反対のドアの前に立っていた。

ふと視線を横に向ければ、女子大生らしき女の子がいた。ぱっと目が合ったから軽く会釈して視線を逸らす。その間にも人は増えてきてさらにぎゅうぎゅうになる。
気付けばさっきの女の子が俺の目の前に居て密着していた。


「せっま…何コレ、いつもこんな感じなのかよ」

「…大丈夫ですか?」

「ん…あぁ、へーきへーき。
君の方こそ大丈夫?こんなに密着しちゃって嫌でしょ?」

「…いえ、おじさんと密着するより何十倍もマシです」

「クス…そっか。ならよかった」


密着している女の子と話しているとまた駅に止まって、その女の子は降りていった。

女の子が降りると周りには男しか居なくなって、またむさ苦しくなる。なんだか妙に臭いし、暑い。
居心地が悪すぎて気分悪くなりそうになりながら、ふと忘れていた白の存在を思い出した。


「…白…大丈…夫…」


白の方に視線をやれば、白の奴は意識が朦朧としていた。潔癖症のコイツにはどうやら堪えられなかったらしい。白の周りには特に異様な臭いを放つオッサンや汚らしいオッサンが居て、さすがの俺でも我慢出来そうにない最悪のポジションに白は居た。


「おい白っ」

「も…ダメ…だ……」


気を失いそうになっている白の腕を引っ張って、なんとか俺の方へ引き寄せる。そして俺は白を抱き締めた。俺は香水を付けてるから少しはマシだろうと判断しての事だ。


「白、しっかりしろ白」

「う…う〜ん……」

「ったく…」


銀八が俺を付き添いに駆り出した理由が、やっと分かった。銀八の奴…こうなる事を想定していたんだ。
だから一人で行かせないよう、香水を付けてる俺を付き添いにしたのか。


「ん〜……いい…匂い…」

「……」


…意識が朦朧としているからだろうか、白の奴が俺に抱きついてきた。そして首筋に顔を埋めてクンクンと匂いを嗅ぎ始める。

…息がかかってくすぐったい。
そんな事を思ってたらペロッと舐められた。


「ひっ…!!」

「……」

「ちょ、てめっ…何してんだっ」

「…ん…なんだ、どうした?」

「とぼけんなクソ野郎!!」


意識がハッキリと戻ったらしい白は首を傾げて俺を見た。とぼけてんのかさっきのは無意識なのか定かじゃないが、とりあえず白の頬を軽く摘んだ。


「いっ…何をふるきはま」

「…お前が悪い」

「?…意味がわはらん、早くはなへ」

「……」


手を離してから、コイツを苛々させてやろうと思って軽く口付けてやった。もちろん周りの奴には見えない様に。唇を離してざまーみろと思いながら白を見れば、じっとこっちを見つめてきた。


「…なんだ貴様、欲求不満か?」

「…は?」

「こんなとこで接吻するなんてな…貴様はそういうプレイが好きなのか」

「…や、待て待て。意味が分からない、…怒んねぇの?」

「もう慣れた、貴様とのキスは」


……そーいや何だかんだで結構キスしてきた気がする。
じゃなくて、なんかムカつく。けろっとしてるコイツが。


やっぱ助けるんじゃなかったとか思いながらため息を吐く。すると白の奴が俺を抱き締めてきた。


「…何してんの」

「……電車の中に居る間、貴様の匂いを嗅がせろ」

「…嫌だって言ったら?」

「抵抗出来ない様にするまでだ」


そう言うと、白が俺にキスをしてきた。コノヤロー、このぐらいで俺がおとなしくするとでも思ってんのか?

なめられたままじゃ気に入らない俺は、負けじとキスをし返す。そうやって俺達が降りる駅に着くまで互いに競い合った。途中から、俺も白もムキになって周りの事なんて気にせずにディープキスまでもやり始めた。

駅に着き電車から降りて冷静になってみると、俺達はなんて事をしていたんだと後悔に襲われる。

んでもって…恥ずかしい。

顔がほのかに熱くなるのを感じながら白を見れば、これまたけろっとしてやがった。


「顔が赤いぞ」

「…うっせ、気のせいだバカ。
さっさと仕事行きやがれっ」

「……帰りもまた満員にはならないよな」

「知るか、俺は迎えに行かねぇからな」



恥ずかしさから早く帰ってしまいたい俺は、何か言いたそうな白を無視して電車に乗り込んだ。

家に帰ると銀八の奴が居て、ご苦労さんなんて言いながら抱き締めてきた。
学校はどうしたって聞けば今日は休みだと返されて、一緒に寝るかなんてふざけた事を言ってきた。

銀八の奴を引き剥がして俺は自分の部屋へと戻る。ベットに横たわれば電車内での事を思い出してまた顔が熱くなった。
それと同時にとてつもない疲労感に襲われて、俺はそのまま眠りについた。

…もし白の奴から電話が来たら仕方ねぇから迎えに行ってやろう、なんて事を考えながら。



END




あきゅろす。
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