9 「ねぇ先輩……」 「…なんだよ」 「…俺と先輩はね、俺がこの高校に入る前にも会ったことあるけど…覚えてる?」 まさかの発言に俺は一瞬だけ戸惑った。 会ったことある…? いつ、どこで? 思い出そうと記憶を巡らせていると、銀時はクスクス笑った。 「やっぱ覚えてないよね。 あの時…俺すぐ逃げたからなぁ」 銀時の話によると、銀時がまだ中2だった頃…つまり俺が中3だった頃に会ったことがあるとか…。 その頃の銀時は学校で苛めにあっていて、不登校気味になっていたらしい。 ある日、勇気を振り絞って久々に学校へ登校している途中…苛めをしてくる奴らに会って、道端にも関わらずその場で苛められた。 髪の毛の事を茶化されて引っ張られたりしていた。 銀時は泣きながら「やめて」と抵抗したが勿論やめるはずがなく、服を脱がされたりと段々苛めは酷くなった。 自分ではどうする事も出来ずにその場にうずくまっていた時、 「その時……誰かが助けてくれたんだ。 俺はただ、泣きながら震えててしっかりとは見えなかったけど…その人はいじめっ子達を追い払ってくれて、そして俺に近づいて優しく声をかけてくれた。 初めてだった…俺を助けてくれてすごく嬉しかった。 なのに、その時の俺は礼も言わずに逃げ出した。 でもね、助けてくれた人の顔はちゃんと見たんだ」 …あぁ…思い出した…… あの時のいじめられっ子か… 「…思い出した? 助けてくれたのは、土方先輩だったんだよ」 そう言ってにっこり笑うと、体ごと俺の方を向いて礼を言った。 「あの時は本当にありがとうございました。 先輩が助けてくれたおかげで…俺はこうして生きてる。こんなに変われた」 銀時はにっこり笑っていた。 が、段々目に涙が溜まり…ポロポロと泣き出した。 「あ…れ…おかしいな……やっと…やっと言えたのに…悲しくなんかないのに……涙が止まんない」 何度も何度も涙を拭って、 それでも止まらない涙に困って、俯いてしまった。 そして俺は、無意識に銀時を抱き締めていた。 [*前][次#] |