たまには素直に
「……遅ぇな…」
いい年した大人が、ガキみてぇに人の帰りを待つなんて世間の大人にゃ笑われんだろうな。ま、んな事ァどうでもいいわけで…本当に帰りが遅ぇ。
いつもなら日付が変わる前には帰ってくるのに今日はまだ帰ってこない。きっと仕事が長引いてんだろうが…もうすぐ１時になるってのにまだ戻らねぇのはおかしい。
「なんかあったか………なわけねぇか」
アイツなら大丈夫、そうは思うのに帰りを待つ俺が居て……我ながら吐き気がするくれぇ気持ち悪ィと思う。どんだけ乙女思考？的なね。
―ガチャ
静かに扉が開く音がして、ようやくアイツが帰ってきやがった。
「…銀八…まだ起きていたんですか」
「今何時だと思ってんだおめー」
「何時って…夜中の…」
一目見ただけで分かる、相当疲れてるって事が。今すぐにでも寝かしてやりてぇとは思うのに、頭で思ってる事とは違う事を言っちまう。
「銀八…まさかお前…私の帰りを待って…」
「んなわけねーだろ。
ただなんとなく…眠れなかっただけだ」
「…そうですか……遅くなってすみません、銀八」
やっぱりコイツには、嘘をついても簡単にバレちまう。寄りかかるように俺を抱き締めてきた銀時は、それから動こうとしないで睡魔に襲われてそのまま寝そうになってやがる。
「おい、せめて着替えてから寝ろっつーの」
「…そう…ですね……」
俺から離れてフラフラしながら部屋に向かう銀時。危なっかしい足取りで歩く背中を見てため息をつくと、俺は銀時の部屋へと直行した。
「ん…どうしたんですか…？」
「いいから早く脱げ」
寝ぼけてぼーっとしているコイツを無視してスーツを脱がして服を着せる。そしてベットに寝かしてやった。
「ん…すみません…銀八…」
「謝らなくていいから早く寝ろ」
「…一緒に」
「………わーったよ」
甘えるような目で見られちゃあ俺は断れない。コイツ限定だけど。
隣に横になって毛布を被れば、ぎゅっと抱き締められてすぐに銀時の奴は眠っちまった。
なんとなく眠れなかった、銀時にはそう言った。別にこれは嘘じゃねーんだよ。
お前が帰ってくんの遅ぇから心配で、寝る前にお前の顔が見たくて、こうして…抱き締めてほしかった。
銀時…お前のせいで俺ァこんな乙女思考になっちまったんだから、ちゃんと責任取れよな。なんて言ったら、きっとコイツは笑みを浮かべながら私に任せなさいとか言ってくんだろうな。
そしたら俺も、たまには素直になって、俺も離れる気ねぇからとか言ってやろう。
END
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