男の口説き方なんて、知らない
坂田金時、このホストクラブで一番人気のある奴。そして俺、坂田銀時はこのホストクラブで一番人気のない奴。
顔立ちはほとんど似てる俺達は、仕事場ではこうも違いが出る。俺を指名してくれる女すらも、やっぱり一番は金時目当てだ。
「銀時、指名だぞ」
「…はいよ」
どうせ金時を指名出来なかったから、代わりに俺を指名したんだろう。大体がそのパターン。
「指名さんきゅ。
…今日はたくさん楽しもうね」
「えと…はい…」
女の隣に座って、とりあえず酒を注文する。どうやらこの子はホストクラブに来るのは初めてらしく、さっきから遠慮してるのか俺に近づこうとしない。
「…ねぇ、もっとくっついて来いよ。君、ホストクラブ来るのは初めてみたいだし…俺がエスコートしてやるよ?」
「えっ…あ…はい」
まずは距離を縮めて酒を飲みながら他愛ない話をする。隣のテーブルでは、さすがNo.1と言われるだけあってか…手慣れた様子で金時が二人同時に相手をしてる。
金時は確かに格好いい。だから女には不自由しないはずだ。
なのに……
一週間前俺は金時に告白された。
からかわれてると判断した俺は適当にあしらった。でもその日から仕事が終わると毎日金時に話しかけられるようになった。
一体何が目的なのか分からない。
ただの嫌がらせだろうか…
「…さん……銀時さんっ」
「あ…悪い…で、何…?」
「………あの…無理して相手してもらわなくてもいいです」
「え…別に無理してなんか…」
「…だって、銀時さんさっきから下向いてばっかで私の顔見ようとしないんだもの」
しまった…仕事中だってのに別の事考えてた…しかも金時の事…
「あ、いや、誤解だよ。
…君の顔を見てなかったのは…君があまりにも綺麗な顔してたからで」
とりあえず誤魔化すため頭をフル回転させて言葉を考える。そして相手を褒めまくった。
「…だから、君をずっと見てると抱き締めたくなっちまう」
「…銀…時さん……」
そのまま女の肩に手を置いて抱き寄せる。そして顔を近づけてじっと見つめた。
……金時ならこうするかなと思ったから。
「…君は自信を持っていいと思うよ。こんなに綺麗なんだから」
ここまで来たはいいけどこれからどうすればいいのか分からない。
そのまま見つめていると、女は俺に抱きついてきた。そして小さな声で「ありがとうございます」と呟いた。
「礼なんていらないよ。
俺は本当の事を言っただけだ」
にこっと笑いかけてやったら顔を赤くしたまま俺を見つめてきた。
俺はなんとなく女の頬を撫でる。
「お楽しみの所申し訳ないけど…当店はそろそろ閉店なんだよね。だからお帰りください」
少ししていきなり金時がやってきたかと思ったら、女の腕を掴んで店の外へと連れていってしまった。
少ししたら金時が戻ってきて…不機嫌な様子で俺の隣に座った。
「………あんな顔も出来るんだね銀時って」
「え…?」
金時はずいっと身を乗り出して俺を見つめてきて、俺はそれから逃げる様に後退りする。けどその距離はどんどん縮まって…気づけばすぐ目の前には金時の顔。
「な、なんだよ」
「…もう仕事中にはあんな笑った顔しないでよ」
「は…?
なんでお前にそんなこと言われなきゃ…んッ…」
俺の言葉を遮るように、金時はキスしてきやがった。状況が理解出来ない俺は目を見開いて固まったまま。
「…これ以上銀時に惚れる奴が増えたら困る」
“ライバルが増えちゃうだろ?”
耳元でそう囁かれた。
この時、コイツは本気で俺に告白してたんだとやっと理解した。
今までに、女に告白された事はある。…男からされた事もある。
けど今のこの告白は、なんだか今までとは違う感じがした。
なんだか体がむず痒いというか…
「…なんで銀時に惚れちゃったのか、最初は自分でも全然分からなかった。でもね、何にでも一生懸命で優しいお前を見てたら…たまに寂しそうな顔をするお前を見てたら……傍に居たいって思ったんだ」
「っ…そうやって…甘い言葉を次々と言ってNo.1まで上り詰めたのか」
「……女に囁く甘い言葉なんて、すぐに思いつくさ。でも本気で惚れた男に囁くのは初めて。こんな気持ちも初めて」
「信用…出来るわけねぇだろ…」
「…信用してくれるまで諦めないから大丈夫」
にかっと笑って抱き締めてきた金時を、何故か拒絶出来なかった。
心の奥底に押し込めた気持ちを、金時なら分かってくれる気がしたから…ありのままの俺を全部受けとめてくれる気がしたから…。
「後悔しても知らねぇかんな…」
「するわけないじゃん」
「……そうかよ…
じゃあ精々頑張って俺を惚れさせてみろ」
俺の本性、…本当は寂しがりやで甘えたがりだとか知ったら驚くだろうな金時の奴。
つかNo.1ホストに惚れられた俺って……ある意味No.1かも。
END
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