[通常モード] [URL送信]
(風円)



例えば、どうしようもなく叫び出したくなるような日が何日かごとにあるとする。
俺の今日は、その例えばが当てはまる日らしかった。日が昇る前に目が覚めてしまったのは良いけれど、何の気の迷いか、今俺はジャージに着替えて土手沿いを一人で走っている。叫ぶ代わり、というわけだ。朝の空気は冷たいと言うよりも痛くて、太陽が恋しくなった。
走り出してからずいぶん経つのに、朝陽はぐずった赤ん坊みたいに顔を出してくれない。


(まるでチビの頃の俺みたいだ、)


小さな頃は、それこそ今の俺からは想像もできないくらいにワガママ坊主、だったらしい。よくは覚えていないのだけど、母さんや親戚にさんざんからかわれるのだからよっぽどだったんだろう。
あまつさえ円堂にまでからかわれる始末だ。……どれだけ酷かったんだ、数年前の俺は。
自分で自分に苦笑して、ゆっくりと足を止めた。吐く息は白く、改めて寒さを実感する。部屋ですら肌寒さを感じたのだから、外がそれ以上なのは想像できた。のに。なぜ俺はジャージ一枚で飛び出てしまったのだろうかと。


「さむ…」


申し訳程度に手に息を吹き掛けても、芯まで冷えた指先はなかなか暖まらない。コンビニなら暖まれるだろうけど、財布も何もないのに長い間居るのは気が引ける。かといって、今から家に戻るのにも時間がかかる。


「…どうしようか…」


こんな時ばかり無計画な俺はただのばかだ。後輩に見せられない姿ってやつだろう。
またひとつ、大きく溜め息を吐いた。ああまた体温が逃げた。


「風丸?」


とうとう寒さで頭がわいたか。円堂の声が聞こえた気がする。虚しく見上げる空は、腹が立つほどきれいな色だ。


「なあ、風丸だろ?朝から何してるんだ?」


……ジャージを引っ張るこの手は、本物だ。声は確かに円堂だ。さっきまで人っ子一人出会わなかったのに、なんで今ここで会うのかな。


「……お前こそ…よく早起きできたな」
「あっひでえ!オレだってなー!」
「はいはい。ちょっと静かにしような」


唇に指を当てて、近所迷惑、と呟けば円堂は途端に静かになった。うん、こいつのこういうとこ好きだな、俺。
ふと、立っているところ、ここの近くに公園があるのを思い出して、どうせならそこへ行こうと円堂の手を引いた。手袋もしていないのにすごく暖かくて、数時間振りの人肌は俺を安心させてくれる。俺の手は氷みたいに冷たかったのに、円堂は何も文句を言ってこなかった事が、余計に安心を与えてくれたんだと思う。


「で?なんでこんな時間に外にいるんだ?」


こんなに寒いのに。内心でそう続かせれば、円堂は苦笑いを見せてきた。珍しくてしげしげと見てしまう。驚きだかで引かれてしまったけど、ちょっと良いものを見れたな。
朝早くに座ったベンチは、覚悟してた以上に冷たくて涙が出そうになったけど。


「なんか、目、覚めてさ。窓の外見たら風丸が走ってたから、出てきちゃったんだよ」


な。


「あー、迷惑だったよな?ごめんな、邪魔したりして」
「いや邪魔とかじゃない…けど。むしろ嬉しかったっていうか」
「ホントかっ?」


さっきの引き腰はどこへやら、目を輝かせて身を乗り出してきた円堂に、今度は俺が圧されてしまった。ちょっと情けなくなって目線をさ迷わせると、それを見越したみたいに立ち上がった円堂が視界に入ってくる。
目を退かしては円堂が動き、また別の場所を見てはちょこまかと俺の視界に入ってくる。しばらくそれが続いて、先に折れたのはこちらの方だった。


「ほんとにお前、朝から元気だな?」
「だって、風丸に会えたから!」
「……〜っ、だから、お前はもう…!」


一生こいつに勝てないんじゃないか。だけど負け続けは悔しい。だから、寒い中、まだ元気に駆けずり回っている円堂を、立ち上がって捕まえた。


「円堂、こっち向け。で目ぇ閉じろ」
「え」
「いいから」


ふにふにの冷気に晒されていた頬は、それでも俺の手より暖かい。ずっと触ってたくなるけど、今はそのために捕まえたんじゃない。
何もかも俺に預けたみたいに緩みきった円堂を驚かせたくて。ついでにそれよりもでかい私欲の為に。徐々に距離を埋めていって、最後に引っ付いた時に、ちょうど朝陽が顔を出した。


「か、かぜま、」
「あー寒いなー、さっさと帰ろうぜ、風邪引きそうだ」
「じゃなくて、お前!」


夕陽よりも真っ赤になって、涙目で俺を睨む円堂に、してやったりと笑ってやった。






然らば彼等が離れる日は、未来永劫訪れまいと。















間に合わなかったぁぁぁ…………!orz
久し振りにまともに日付に従おうとしたくせにこのザマだよ
だがしかし!書き上げただけよしとしよう!
来年は絶対間に合わせてやるーーー!!!

裏タイトル:寒習(かんならい)

2011/2/2



あきゅろす。
無料HPエムペ!