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5.



──天は高く、空は青い。
いつか読んだ、ボリーさんに借りた本の冒頭文を思い出した。
村から見える空と変わりは無い筈なのに、どこか新鮮に見える。
これも外に出たせいだろうか。
あの村に、別れを告げたせいだろうか。

「いい?ちゃんと着いて来なさいよ」
「分かってる」

昨日とはまた違う風に髪を結い上げたニッサが、子供に言い聞かせるように振り返る。
俺を何だと思っているのか。
そういえば、村の入り口から出た時、初めて村の名前を知った。
キハ村。
到底華やかとは言えない板に綴られた文字。
何故今まで知らなかったのかと思うくらい、陳腐でシンプルな名前だった。
あの村から、持ち出したものは必要最低限のものだけ。
ほんの数枚だけの服とか、それだけだ。

「チノ?聞いてるの?」
「…悪い、聞いてなかった」
「仕方ないわね…」

わざとらしい大きな溜め息をついて、ニッサはこう言った。
この先の小高い丘で、一月ほど前に見つけた仲間が待っていると。
詳しい説明はそこに着いてからだと。
ニッサは、同じモチーフの飾りを身に付けている奴のことを引っ括めて仲間と呼んでいるらしかった。

「ほんとは本業の説明役がいるんだけどね。そいつ呼び出し食っちゃって、代わりに私が駆り出されたってワケ」
「話は、ちゃんと聞けるんだよな?」
「じゃないとあんたを連れ出したりしないって」

大袈裟に肩を竦める。
銀白色の髪が揺れた。
……飾り。
ニッサはそう呼んだが、これは一体何なのか。
当たり前にそばにあったものへの疑問が、今更のようにわいてきた。
時折頬に当たる冷たさとはずっと付き合ってきた筈だのに、何故今まで疑うことをしなかったのか。
ただ忌み嫌うだけで、どうして俺の元にあるのか、考えたことなどなかった。

「ほら、急ぐわよ」

大小様々な石がごろついている地面を見ていると、別に待たせてもいいんだけど…と聞こえてきた呟きに顔を上げた。
少し首を傾げる。
あまり仲が良くないんだろうか?

「なあ、待たせてるのってどんな奴なんだ?」
「チンピラよ。腕はたつけどね」

声音が苦々しい。
やはり、あまりいい感情は抱いていないようだ。
それから押し黙ってしまったニッサの後ろについて、ただ黙々と歩き続けた。










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