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おれとニーサン

※例によってぬるっちい殺人描写あり



相手によって武器を変えるという話は、あまり聞くことがない。それぞれの扱いに長けなければならないし、何より面倒だ。手入れとか手入れとか手入れとだかが。何かの拘りがある奴でもなけば、大抵の奴らは避けているだろう。
まあおれの場合、変えるといっても大きさが違うってだけなんだが。大きなものは身の丈以上、小さなものは手のひらサイズの、おれ専用に改造した鉄扇。

「つまり、今日はわざわざあんたの為に、一番でかいのを持ってきた訳なんだわ」
「そいつは光栄だな。自慢になるよ」

ちっともそう思っていないだろうに、でかい体を窮屈そうに縮めながらそいつは言った。尤も自分の意思で蹲っているわけじゃなく、仕込んだ刃で裂かれた腹を庇うように被うようにこれまた大きな掌で抑えているわけだ。そんな事したって、流れる血は止まらないんだがなあ。

「なあニーサン。つらくないか?いっそ一思いに死ねよ」
「断る。何故俺が死なねばならん」
「それを願う人がいるからー、と答えてみたりしたりして」

あけすけに言うとこのニーサンは同業者だ。それもかなり優秀な。でもだからこそ、厄介な連中にも目を付けられやすいし、敵も作りやすい。そのせいで命を狙われる危険も多い。今回おれがニーサンと対峙してるのもそういうわけだ。

「ところで、ひとつ訊きたい」
「ひとつと言わず、いくらでもどーぞ?」
「俺がいまこうされている、理由は?経緯は?誰からの依頼だ?」

鉄扇の飾りを指で遊ばせながら、体を起こすニーサンを見た。苦しそうだ。でもまだ致死量は流れ出しちゃいない。まだ生きてる。このニーサンは、まだまだ死にそうもない。

「経緯と相手は答えらんねぇ、が、理由はあれだ。ニーサンが気に食わねえってとあるヤクザの組長サンからの頼まれ事だ」
「……言っているも同然じゃないか」
「ぶっぶー!残念でしたァ、どうせ特定なんてできませんー!」

げらげら笑って答えてやると、さすがに癇にさわったようだ。のっそり立ち上がったニーサンが手に掴んだ凶器をおれに向けてきた。おーこわいこわい。

「それ、ニーサンの商売道具?」
「訊くまでもないだろう。分かっているのならば」
「…うは。手厳しいね、さっき質問したんだからおれも訊いたっていいじゃん?」
「俺には無効だ。約束もしていないだろう」
「んー、ニーサンってば無愛想ねー、学生の時モテなかったろ?」
「好かれていれば、こんな職業は選択しなかっただろうな」
「ナニソレ嫌味?ガッコも何も行ってないおれへの嫌味?あーやだやだ、これだから年上は嫌いなんだよねー、おれ結婚すんならぜったい年下がいいわ」
「そういう奴ほど、年上に弱いと聞くがな」
「へえ?ならその常識、おれが覆してやるよ」

一応言っておくが話すだけでなにもしてない訳じゃない。ただニーサンが宣言も無しに突っ込んできたからこっちからも仕掛けているだけで。怒濤の攻撃ってやつか、それなりに一撃一撃が重い。会話が途切れ出した頃、受け流すのがめんどくさくなって、ニーサンに向かって鉄扇を蹴り飛ばした。器用にも受け止められてしまったけれど。

「んん、まさかそれ、こっちに投げるつもりじゃあ」
「そのまさかだ。正答おめでとう」
「ちっともめでてくねえよ」

うわ、うぜえ、いい笑顔してやがるこいつ。でも残念でした。言う前にニーサンのからだが崩れ落ちた。ざまあみろ、あんだけ動き回るからだよばーか。

「聞こえてる?まあ答えらんないだろうけどさ、冥土の土産にもひとつ教えとくよ。ニーサンが持ってるそれさ、毒塗ってあったのね。一時間くれえ経つと効いてくるやつ。でもニーサン派手に動き回ったろ?だから今そんなふうに惨めに寝っ転がってるわけ」

ああだめだ。可笑しい。思わず声を上げてわらっちまうくらいには。ついさっきまで吠えてたニーサンが今、おれの足元で転がってる。込み上げてくる快感。だからこれはやめられない。
物言わぬ屍に成り果てたニーサンの骸を蹴っ飛ばして、今日は何を買って帰ろうかと頭を切り替えた。母さんもいるはずだから、和菓子にでもしようか。晩飯の材料も買って帰らなきゃな。











おれ→帰りの買い物係

2011/2/7



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