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おれとおっさん

※また人死にだよ!描写は生ぬるいよ!
※嫌なお方はバックプリーズ



ああ不快だ、堪らなく不快だ、紛れもなく不快だ。僅かでも苛立ちを抑えようと噛み砕いた爪は何れも此れも痛々しく汚ならしく剥がれていて、実際少し痛い。また母さんに喚かれるかと溜め息を吐いた。

「なあなァ、おれぁ暇じゃねんだ、さっさと殺られてくんねぇかな?」

がじがじと、口の中に残ってる爪の残骸を歯で磨り潰して飲み下す。うまくはない。いつもなら唾ごと吹っ掛けるんだが、気味が悪くてそれはやめた。だってこいつ変態だし。喜ばれるし。あ、いや悦ぶか。

「いやあ…忙しさにかまけてぞんざいに殺されるのはごめんかなあ…」
「だったら、出血多量なりなんなりで、とっとと倒れろっつってんだよ」
「いやあ…それも嫌だなあ…」

ぐだぐだ喋んな鬱陶しい。そいつはそいつが流した血の中で大の字になっているけれど、とうに事切れていい筈なのに未だに死なない。いっそ心臓を一突きしようかと、開いていた鉄扇を片手で閉じた。

「あ…待った、それじゃ私は死ねないよ」

血みどろで手ぇあげんな、こっちにかかるだろうが。声を出すのも面倒になってきて、頃合いを見計らったように話し掛けてきたこいつの相手も面倒臭くて、それでも仕事の放棄はやらねえから、ぎりぎりのところで振り下ろした鉄扇を止めた。あと少しでも力を込めればこいつの息の根を止められるように。馬鹿なことを言う意味に興味がわいたから、まだやらなかったとも言えるけど。

「は?なんでだよ」
「私が特別頑丈だから…かな」
「…意味わかんねえ」

これ以上振り回されるのはごめんだから、鉄扇を振り下ろした。肉を断つ感触、骨に掠れる感覚が親骨越しに感じられた。あとほんの少しで、やわらかいところ、心臓に先が届く。血がもっと吹き出る。楽しみだ、こいつの味はどんなだろうか。

「……あーあ、だからやめろと言ったじゃないですか」
「……もう驚く気にもなれねぇけどよ、なんで生きてんだ」
「だから、私は頑丈なんですよ。本当に死なせたいならほら、机の上に瓶があるでしょう。あれを持って来て下さい」

ここで見逃す理由もない。本人から言ってくれているのだから、止める理由も無いだろう。念の為動けないのを確認して鉄扇を抜いた。奴はまだ生きている。どんな体してんだよ。吹き出る血を避けて、示された瓶を手に取る。青っぽい液体が中を泳いでいた。

「これか、」
「ええ…それを傷口から流し込んでください、そうしたら私は死ねます」
「…へんなやつ」
「何とでも仰有って下さい。よくあるでしょう…私は生きるのに疲れたんですよ」

心底可笑しなおっさんだ。瓶に引っ付いていた蓋を引き抜く。深爪が痛んだけど、今はその痛みを別に追いやる。なんの効果があるのだか、覗くとより真っ青に見えるジェル状のそれを、ゆっくりとそいつの傷にかけていった。変な臭いがする。そいつの呼吸が、少しずつ乱れていく。

「ああそれと…君のような人には、もっと早く出会っておくべきでした、と伝えておきます」
「理由は?」
「簡単ですよ…世界に絶望する前に、私は世界にさよならを告げたかったんです」
「ふぅん。まあ、じゃあな、おっさん」
「まだ、…若いんですけどねえ…」

まぶたの閉じ開きも遅くなる。異臭と、まだ流れ続ける血流を見守って、そいつの息が完全に止まるのを確認した。死人を看取るのは、せめてもの餞だ。

「ま、殺してんのはおれだけどな」

さて今日はどこから帰ろうか。血のこびりついた鉄扇を折り畳んで服の中へ入れて、開いていた窓枠へ手をかけた。プリン買って帰ろう。はちみつの甘いやつ。あいつにも分けてやろうと無表情なキス魔を思い浮かべて、暗い空へ跳躍した。










やっちまったよー…
楽しかったですともー…

2011/2/5



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