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物語
第7話 弱い心と謎の訪問者



―ガシャァアアンッ!!!





天空世界編
第7話
弱い心と謎の訪問者




皿が床に落ちて割れている。
その原因は…ついさきほど目を覚ましたばかりのアルヴォンドであった。


アルヴォンド
「なんやねん…勝手に俺の身体を診よって…」
フレイ
「何言ってんだよ!俺はアルの事を心配して―」
アルヴォンド
「そんなウソは聞きたくあらへん!!―…それに…自分らもや!!」


アルヴォンドの身体の事を知ってから二日後…やっと彼は目を覚ました。
昨日アルヴォンドより先に目を覚ましたりんは、イルフォンスのアニマによる力で傷は完治していた。
りんは目を見開いて驚き、そして他の仲間も同様の反応を見せている。
アルヴォンドが声を上げて睨んだ先には…彼に仕える8大精霊の姿があった。


アニマ
「アルちゃん落ち着きなさい!!この子たちは…重い口を開いて告白してくれたのよ…周りの気持ちも考えて―」
アルヴォンド
「それは自分らの都合やろうがッ!!!」


従う精霊たちを睨みつけるその瞳は…怒りと焦りに満ち溢れた…獣の目にも似ていた。
そのアルヴォンドの瞳をみてルナは、他の精霊より先にはっきりとした口調で言い放つ。


ルナ
「アルヴォンド…あなたはずっと、この旅が終わっても…自分の命を終えるまで、この事をずっと隠していくつもりだった…違うかしら?」
アルヴォンド
「そうや!それのなにが―…」
イルフォンス
「ウソは必ずバレる…ずっと隠し通せるとでも思ってるのかい?いつか必ず言わなきゃいけない時が来る…それがただ、早まっただけだよ」
アルヴォンド
「な…ッ!?自分…俺の気持ちも知らないで何―」
イルフォンス
「そうやって一人で抱え込んで…僕は君を心配して言って―」
アルヴォンド
「ウソや…嘘やウソやうそやッ!!!そんなウソ聞きたくあらへ―…ッ!?ゲホッカハッ!!!」


言葉を続けようとしたが、喉と心臓を締め付けるような激痛が襲ってきたため喋れなくなり、酷く咳き込んでしまった。


フレイ
「!!アル―」
アルヴォンド
「来るなぁッ!!!!」


そう叫んでは心配してアルヴォンドに近付こうとする仲間たちを恫喝して制止させた。


アルヴォンド
「―ゲホッ!……自分らも、俺を…邪魔やと、負担やと…要らない奴やと思っとるんやろ。そうなんやろ!!」

口の端から流れている血を手で拭うと、彼を心配そうに見つめている仲間をアルヴォンドは睨みつけた。


メル
「そんなこと思ってないよ!メルは…アルお兄ちゃんの事が心配なんだ!」
ガザフ
「誰も邪魔とは言ってない…思ってたらとっくにお前にそう言っていたはずだ…違うか、皆?」
ウォード
「そうだな…もっとも、そう思う事は一生ないから…安心しろ」
ネリア
「…お前の辛いと思う、その苦しみ…痛みを、私が軽くしてやろう…アルヴォンド」
イルフォンス
「僕とアルは同じだ。だから…君の痛みは…僕の痛みとして、これからもずっと一緒に背負っていくつもりだよ…アル」
フィーネ
「アルちゃん…私、体が弱い事も…役に立てなくて辛いって事も…ずっと見えてたの。だから…貴方の生心力(ヴィオゼーラ)が悲鳴を上げている声を…これ以上聞いていられなかった」
りん
「フィーネさん…やっぱり見えてたんですね…」
フィーネ
「ごめんね…イルちゃん。貴方にはアルちゃんの気持ちが見えないって言ってたけど…嘘をついたの。本当は見えてた…でもこれは、私が言っても意味がない…誰かが気付いて私はヒントを出していくの。だから…私に誰も嘘付けない…実証済みでしょ…アルちゃん♪」
アルヴォンド
「―…ハッ、自分には見えないように制御しよったんやけど…無理やったか…ッ」
りん
「私…やっとわかりました。ガーディアンで咳き込んでいたのは…アルヴォンドさんだったんですね」
アルヴォンド
「せやで…ばれる前にシャドウの力を使こうて瞬間移動してりんちゃんの後ろからやってきたように…自分とちゃうよう演技してたんや。…今思えば笑えるやろ…りんちゃん」
りん
「いえ…笑いません。むしろ…アルヴォンドさんの気持ちを見て見ぬフリをし、身体が弱い事に気付けなかった…意姿種族として、医者としての自分を後悔しているんです」
アルヴォンド
「…それは、りんちゃんのせいじゃ―」
りん
「いえ、これは私の罰が当たったんです、償うために…私はアルヴォンドさんの身体を治そうと思っています…それじゃ、ダメですか?」


アルヴォンドは、みんなが自分を心配する様子を目の当たりにし、彼は顔に右手を当てて、肩を少し揺らしては笑い始める。


アルヴォンド
「ハハ…俺、情けないで…体力もないしすぐ倒れるし…精霊もまともにうまく使えてない…こんな俺なんか…役に立たへんで?それでも…」
フレイ
「何言ってんだよアルヴォンドッ!!!」
アルヴォンド
「フレイ…君……ッ」


自虐するアルヴォンドを見て、フレイはカッとなりみんなより先に前へ出てそう叫んだ。
そんなフレイを、アルヴォンドは切ない顔で見つめる。


フレイ
「確かにお前はすぐ倒れるし体力ねぇし持久力もねェ!!」
アルヴォンド
「そうやな…って、あ…あれ…?」
フレイ
「でもそれは…決してお前のせいじゃねぇだろ!それは仕方ないんだ…そういう身体なんだからよ!…でも…だからといって、誰もお前の事を邪魔とか、負担とか、役に立たないって思ってねェ!!勝手に勘違いすんじゃねェよ…バカッ!!!」
アルヴォンド
「……ッ!」


フレイはアルヴォンドの胸倉を掴みながらそう叫び散らした。
そんな彼の真摯な態度にアルヴォンドは心打たれる。
そして叫んだあと、ゆっくりと胸倉を掴む手を離して、フレイはじっと彼の目をみつめたまま話を続けた。


フレイ
「…お前は、今まで何度も俺たちを助けてくれたじゃねぇか。重傷を負ったオレを治癒心術で助けてくれたり…倒れたネリアをハイカラまで運んでくれたり…りんとネリアをソルティーから護ってくれた…」
ネリア
「お主がフレイの記憶を全部取り戻すため、そして私の本来の力を呼び起こすために…お主がワザと敵となってくれたこと…私は知っているぞ?」
りん
「ノエルで道具化にされたヒト達に襲われそうになった所を救ってくれましたよね…」
メル
「パパを死から救ってくれて…料理の時もたっくさん助けてくれたよ!」
ガザフ
「お前に命を救われた…おかげでメルと一緒に居る事が出来た。…ありがとうアルヴォンド」
ウォード
「いつもネリア様を…我々を影から守ってくれている。お前こそ、守護騎士の名にふさわしい男だ」
フィーネ
「アルちゃんは優しくて頑張り屋でいつも私たちを守ってくれたり…アリスタの涙としてきちんと役目を果たしたりしてるじゃない。役に立ってないことは無いわ……アルちゃん」
イルフォンス
「昔…僕がつまずいて崖から落ちて動けなくなった時…君は崖を必死に降りて助けてくれて…僕を背負って家まで運んでくれたよね?もう誰も助けに来ないかと思ってたんだ。…でもあの時、君が助けに来てくれた事がぼくはうれしかったのを今でも鮮明に覚えてるよ。まぁ…背負いながらも重たいって言って泣きながら運んでたけど…ね♪」
フレイ
「ほら…アル、こんなにもお前に沢山助けられてるじゃねぇか…」

アルヴォンド
「…くッ…ぅ…ッ!!」


アルヴォンドはフレイをはじめとする仲間たちの嘘偽りのない真実の言葉を聞き、大粒の涙を流して力なくそのまま膝から崩れ落ちた。 


アルヴォンド
「俺…おれ…ッ!…実は…ガーディアンの図書館で、自分らにばれずに命を断てる場所が無いか…地図を見て確認しとったんや…ッ」
フレイ
「―…ッ!!」
りん
「アルヴォンドさん…ッ!」


アルヴォンドが自殺しようとしていた…その告白を聞いて皆は背筋が凍った。


アルヴォンド
「隙を見て此処から抜けて…精霊契約の継承権をイルに移して死ねば…邪魔な自分がいなくなって楽に旅が出来るんやないかって…そう思ってたんやッ!」
イルフォンス
「アル…君は…そんなに自分を追い詰めてたのか…ッ」
アルヴォンド
「もう嫌なんや!!フレイ君やネリアちゃんが…イルが、自分の能力を生かして守っているのを見て…俺は、自分の能力を100%生かせることが出来ないこの身体が、…憎くて辛くて…ッ!」


泣き叫んで心の内を曝け出したアルヴォンドを見て、フレイはしゃがみ、やさしくアルヴォンドの肩を叩く。
そんなフレイを、大粒の涙を流しながらアルヴォンドはゆっくりと顔を上げて見つめた。


フレイ
「…お前はもう十分頑張ったじゃねェか…」
アルヴォンド
「フレイ…くん…ッ」
フレイ
「今度は俺たちが、お前の分まで頑張るからよ」
アルヴォンド
「…ぅう…ッ」
フレイ
「だからさ…お願いだ…死ぬなんて言わないでくれよ…辛いなら辛いって言っていいんだ。だって俺たちさ、アルヴォンドの事が必要で…大好きで、死んでほしくねェし…それに、いつでもお前の愚痴を聞きてぇって思ってるからよ。…だから、今はゆっくり休んでくれ…アルヴォンド」
アルヴォンド
「ぅ…ぅぐ……りがとう…フレイ君ッ…皆…ッ!―ぅッ…、うぁあああぁあああ…ッ!!」



アルヴォンドの泣き声が…キリクの部屋の中に切なく響き渡っていった。







アルヴォンドの告白から30分。


アルヴォンド
「嫌や」
フレイ
「駄目だ」
アルヴォンド
「嫌や!!」
りん
「駄目ですアルヴォンドさん!!」
アルヴォンド
「うわぁあああ嫌やぁあああ!!」
イルフォンス
「観念しろ…アル!」


アルヴォンドが目に涙をうっすらと浮かべながら泣いていた。
実は先ほど落ち着いたアルヴォンドに、キリクが調合した粉薬をフレイに渡した瞬間、その流れを見ていたアルヴォンドの顔が引きつる。
そしてその場から逃げようとするアルヴォンドを、心情を察したイルフォンスが羽交い絞めにして動きを封じた。
他の仲間もその事に気付き、薬を目にしたアルヴォンドが頑なに薬を飲もうとせず、拒否し続けるのを留めていたやり取りが先ほどの会話であった。


メル
「アルお兄ちゃん…すごく嫌がってる、どうしてなの…パパ?」
ガザフ
「どうしてだろうな…パパも分からない」
フィーネ
「フフフ…♪あらぁ〜アルちゃんったら…苦いのがダメなのね♪」
ウォード
「…ガキくさいな」
ネリア
「いいではないか…アルらしい」


必死にアルヴォンドに薬を飲ませようとする光景を遠くから見ていた他の仲間は次々にそう口にした。
―その時だった。




『きゃぁあああああああああ!!!』
「「!?!」」


外の方から女性の叫び声が聞こえる。
その声はまさしく、庭を手入れしていたキリク本人の者であった。
声を聴いた皆は急いで外へと飛び出す。


フレイ
「どうしたんだキリク!!」
ウォード
「キリク何が―…!?」


外に出ると、そこには驚いて尻もちを付いたキリクの姿と、キリクの首に向けて光で出来た剣を突きつけている青年の姿があった。


???
「…貴様が、此処で医者をしている…キリク・ラゥダートだな」
キリク
「それが…どうしたって言うの…ッ?」
フレイ
「…誰だお前…ッ!キリクから離れろォオッ!!!!」


青年に向かってフレイは叫んだあと、青年目掛けて魔神剣を発動した。
そして青年はフレイの攻撃に気付き、バックステップして回避する。
フレイを初めとする仲間はキリクを護るようにして前に出るとすぐに戦闘態勢に入った。


ネリア
「お主…何者だ」
???
「…僕は天空世界(スカイピア)都市シエル王国4大騎士の一人、キィリル・ロア・シエルだ」
ウォード
「な…!?4大騎士…だと…!?」
フレイ
「4大騎士って…なんだ…?」
キリク
「4大騎士…代々王家に仕える4人の騎士の事だよ」
ガザフ
「何…!?」
フレイ
「なんでそんな奴が此処に!!」


キィリルは手にもつ光の剣を鞘にもどすと、


キィリル
「まぁ…今は元って言った方がいいかもしれないけど…ね。僕は別に君たちを殺すつもりはない。地上人が此処に来ていると噂を嗅ぎ付けて来たんだ。」
ウォード
「噂…もう回っているのか?一体どうして…」
キィリル
「多分…ローリアンスだろうね。世界中にいる天空騎士にそう言ったんだろう。実はローリアンスの思想が気に食わなくて、ローリアンスの計画と世界の異常を探る為に一人で別行動をしているんだ。その道中…僕は天空騎士が話している内容を聞いてしまってね、此処の“餌食”になる前に…君たちを救いにきたんだ」
フレイ
「餌食…?!」
ネリア
「どういうことなの…だ…ッ?」







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