[携帯モード] [URL送信]

物語
第5話 動き出す歯車








暗いくらい…薄暗いどこかの部屋…


その中に…かすかに息遣いが聞こえる。




???
「んぅ…?なんだ…この“匂い”は…ッ」



“それ”はそう言うと、重い体を動かす。
ズシーンっと…重くるしい音が周囲に鳴り響いた。


???
「この“匂い”…フフ…ハハハハハハアハハハハッ!!!!」


そう高笑いをし、それをやめると、暗闇の中で赤い目が光った。



???
「時は満ちた…歩み積み重なってきた…あ奴らの罪が…償う時が来たのだッ!!」




―ヒトは…何度も同じ過ちを繰り返し…そして…新しい罪を重ねていく…なんと醜いイキモノなのだ…ッ―









天空世界編
第5話 動き出す歯車











広い広い草原。
その中に、フレイ達はいた。



フレイ
「んぁ…どこだよ此処は…ッ」


フレイ達はあれから、地上に出て、ガーディアンの門近くにある魔方陣を発見しては、クッティルのある大陸へと移動した。
そして、気付いたらこの緑が続く光景だったのだ。


ウォード
「此処はクッティルのすぐ近くにあるヒューラ草原だ。ほら…あそこにうっすらと見えるだろう」


そうウォードが指差す西の方角を見てみると、うっすらと遠くに町のようなものが見えた。


メル
「うわぁ〜遠いね!」
ガザフ
「少しずつ休憩しながら進もう」
ネリア
「天空世界(スカイピア)にも魔物やキメラがいると聞いたが…」
ウォード
「天空世界(スカイピア)は地上世界(アスピア)より狂暴な魔物やキメラがいるんだ。ましてやこの世界は蝕死力(ブラジェーラ)で溢れている…いつもより厳しい戦闘になると思った方が良い」
りん
「じゃあ…どう戦えば…」


そう不安げに話すりんを見たネリアは、


ネリア
「方法なら一つだけだ。私がアリアの「リミッターソウル」を謳えば…皆の本来の力を取り戻すことが出来る。ただし…少しの時間だけだが…な」
フレイ
「俺も皆の生心力(ヴィオゼーラ)を支援しつつ闘うよ…そうすればネリアも安全だろ?」
フィーネ
「そうね…でも二人とも無理はしないでちょうだいね?」
イルフォンス
「支援よろしく二人とも」


そう話す皆を余所に、皆から少し離れた場所でアルヴォンドはその光景を見つめていた。
俯き、切なげな表情を見せる彼の周りに精霊たちの生心力(ヴィオゼーラ)が現れる。
その姿と声は、皆には見えず、アルヴォンドだけにしか見えない。


シャドウ
「どうした…アル」
ウンディーネ
「大丈夫…?」
ノーム
「ぅう…アルぅ…最近様子おかしいよ?」
アルヴォンド
「……いや、なんでもあらへん」
セルシウス
「嘘だ…最近のお前はおかしいぞ?何をそんなに思い悩んでいるのだ」
シルフ
「どうしたんだよ…言えよアル!」
アルヴォンド
「…ッ」
ルナ
「アルヴォンド…もしかして…“例のあれ”?」
ヴォルト
「またか…それ、皆に言わなくてもいいのか?」
アルヴォンド
「そんなの言ぅたら…あいつらの余計な負担になるだけや……」


精霊たちと小さな声で会話をする姿をフレイは見逃さなかった。


フレイ
「どうしたんだ、アルヴォンド。大丈夫か…?」


そうアルヴォンドを呼ぶフレイの声で我に返り、一度フレイの方を見ると、すぐに目をそむけた。
そのアルヴォンドの行動に少しイラッとするフレイ。


フレイ
「……その様子だと、まだ何か隠してるんじゃねーか?」
アルヴォンド
「……」
フレイ
「オレ…アルの気持ちや思いや過去を…全部受け止める覚悟があるし、それを知って嫌いになることもねぇぜ?もちろん、皆の事も…な」
ガザフ
(!…フレイ…ッ)

フレイ
「受け止めとめてやるから…よ。だから…」
アルヴォンド
「…ッ、なんや皆して!!自分は何も隠ししてることなんてあらへんで?」


そう笑顔を見せて話すアルヴォンドの姿は、どこか無理をしているようで…
フレイはじめ、皆は不安を隠しきれないでいた。


メル
「アルお兄ちゃん…無理しないで?無理したら…色々辛いよ…ッ」
フィーネ
「アルちゃん…ヒトはね、一人だと…いつか必ず壊れてしまうわ」
アルヴォンド
「ぁああ説教はもう沢山や!!」


そう苛々を含みつつアルヴォンドは叫ぶと、皆の横を通り過ぎては先に歩いて皆との距離を離していく。


フレイ
「アルヴォンド!お前―」
アルヴォンド
「俺は何も隠してあらへんし…自分らに言うつもり―」





―…ドクンッ





アルヴォンド
「も…ッ?!」



―ドクンッ…ドクンドクンッ




ウォード
「…?どうしたんだアルヴォンド」
ネリア
「アル…お前急に黙って何が―」




―ドックンッ…!!




アルヴォンド
「―カハッ!!ゴホッゲホッ、ゴフ…ッ!!」
フレイ
「!?あ…アル!!どうしたんだよ急に!?」


急にアルヴォンドは前かがみに酷く咳き込み、そしてそのまま膝をついてしまう。
そして尚も咳き込み続けるアルヴォンドの姿に、皆は動揺し駆け寄ろうとした…
―その時、


「ピギャァアアアアアア!!!」
「グルゥウウウウッ…!!」
フレイ
「な…!?ンな時に魔物かよ!!;」


フレイ達の周囲に魔物が3体ほど襲来してくる。
そして…他にもアルヴォンドに向かって襲いかかろうとするオオカミの姿をした魔物がいた。


イルフォンス
「!!アルッ!!」
メル
「魔物が邪魔して…アルお兄ちゃんを助けにいけない…よぉッ…!!;」
りん
「ぁ…ッ」


今も酷く咳き込むアルヴォンドの姿を見るりんの表情は、動揺っというよりも…恐怖や悲しみに近い表情を見せている。


りん
「いや…やぁ…ッ」
ネリア
「…?りん…どうしたのだ?!」




【ダメ…だめです!!】


【ごめん…な……ッ】


【いや…イヤァアッ!!】



りんの脳内には…何かがフラッシュバックしていた。
そしてそれと同時に…身体が勝手に動き出し始める。


イルフォンス
「!?りん!!」




アルヴォンド
「ぅッ…カハッ!!ゴホッ!!!」


アルヴォンドは心臓が締め付けられるような…激痛と戦っていた。
咳き込み過ぎて息が出来ない状態が続き、意識が朦朧してくる。


アルヴォンド
(俺…ここに来てから…色々とおかしくなってしもうた…な)


咳き込む口の端から、たらり…っと血が流れ落ちる。
緑の中に映える紅を目にしたアルヴォンドは、小さく笑った。


アルヴォンド
(…時間が欲しいんや…俺は…まだ…やることが…―)


「アルヴォンドさんッ!!!!」
アルヴォンド
「ぇ…」

自分の名前を呼ぶ、叫び声にも似た声が耳入る。
そして、前を向いた瞬間、視界が暗くなった。


アルヴォンド
(…?)



―ドサァッ…



フレイ
「―ッ!!?りんッ!!!クッソォッ!!」
ガザフ
「今は此処に集中しろ!」

周囲が戦いをしている音が響いている中、アルヴォンドはりんの下敷きになって倒れていた。
恐る恐る、りんの顔を見ると…りんはゆっくりと、アルヴォンドを見つめた。
その瞳は…光が映っていない…真っ黒の瞳で…。

アルヴォンド
「りん…ちゃん…ッ?」
りん
「アル…ヴォンド…さん、良かった…です…生きててくれ…て……ッ」


そう小さく呟くと、そのままりんは静かに意識を失って倒れる。


「グルァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
イルフォンス
「アル、りん!!無事か!!?」


イルフォンスは心術「ネガサザンクロス」を発動し、りんとアルヴォンドを襲ったオオカミの魔物を倒すと、距離の離れた場所にいる二人に急いで駆け寄っていく。


アルヴォンド
「りん…ちゃ…ッ?」
りん
「……」
アルヴォンド
「ぁ……血が…血が止まらな…!?ぁあ…や……やぁやッ…!!」


アルヴォンドはりんの背中から大量に流れる血を見ては、過呼吸気味にそう震えた声で言った。
そして、アルヴォンドの脳内にとある光景がフラッシュバックする。


アルヴォンド
「―ッ!?」



【アルちゃん…大丈夫…だいじょうぶ…よ…ッ】

【ぁ…ぁあ…母さん…ッ!!】


その記憶は…遠い昔の記憶で…
赤と黒に染まる光景の中に…一人の男の子とその母親の姿がポツリ。


【ごめん…ね…ッ】


【母さん…?!いやや…ぁ…ぁあッ…!!】



―ドクンッ…


アルヴォンド
「―ッ!?―…ゲホッゴフッカハッ…ぐぅッ…!!!」
イルフォンス
「アル!?しっかりしろ…アル!!僕の声が聞こえるか…―…ル…ッ!!」


再び襲ってきた心臓を締め付けるような激痛に苦しむ最中、イルフォンスの声が段々遠のいていく。
そして…次第に視界もぼやけてきた。


アルヴォンド
(りんちゃんは…俺のせいで…)

フレイ
「早くクッティルに急ぐぞ!親父はりんの応急処置をして、イルはりんを少しずつ回復しながら…―」

アルヴォンド
(俺のせいで…皆に…迷惑が掛かってん…ッ)

メル
「アルお兄ちゃん…りんお姉ちゃん…ッ!」
ガザフ
「よしッ…これで応急処置は済ませた。早くクッティルへ急ぐぞ!」

アルヴォンド
(俺…おれ…は…―)



そして…アルヴォンドの視界が黒に染まった。


イルフォンス
「アル…?」


意識を手放したアルの姿を見たイルフォンスは、目を見開いて、小さく弟の名を呼んだ。


イルフォンス
「アル…返事をしてくれよ…アル…アルッ!!!」


必死に叫びにも似た声で名前を呼びながら、体を揺すっていく。


イルフォンス
(いやだ…もう誰も…失いたくない…ッ。家族を…大切な者を…―)
イルフォンス
「いやだ…目を覚ましてくれ…アルッ!!!」

フィーネ
「イルちゃん!!!」
イルフォンス
「―…ッ!?」

フィーネの大きな声で、我に戻る。
そして、気付けば自分の隣にいたフィーネに肩を掴まれていた。


イルフォンス
「ぁ…フィーネ…さ…」
フィーネ
「安心して、アルちゃんは意識を失っただけよ…気をしっかり持って」
イルフォンス
「……ぼ、僕は…」
フィーネ
「イルちゃんが動揺する気持ちも分かるけど…今は何をすべきなのか…でしょ?」
イルフォンス
「……ッ、はい…」


そう話す皆の姿を、ネリアとウォードは見つめていた。


ネリア
「地上人は…この世界に慣れていないせいで生心力(ヴィオゼーラ)にかなり影響があるのだな…」
ウォード
「そうかもしれませんね…私たちは長年この世界に住んでいるので…蝕死力(ブラジェーラ)には適応しているのかもしれません」
ネリア
「だが、恵まれた世界…蝕死力(ブラジェーラ)が無い世界に住んできた地上人にとって…この世界は毒…のようなものか…ッ」
ウォード
「……この先、蝕死力(ブラジェーラ)の影響で悪化するのは確実でしょうね…」
ネリア
「ぁあ…そんな皆を支えるのも…天空人であり仲間である話私達たちの役目だ」
ウォード
「そうです…ね」


フレイ
「早くクッティルへ向かって、二人を休める場所を確保するぞ!」


そうフレイの言葉を合図に、皆はクッティルへと足早に向かっていった。











―キィ…ッ



ローリアンス
「フフ…4大騎士…みんな集まっているようだね」


そう目の前にいるヒトに向かって…ローリアンスは言った。
4大騎士…それは、シエル国王に仕える直属な騎士。
世界を見つめ、世界を護る為に動いてる。


ローリアンス
「おや…レイラ、相変わらず冷たい目で見て…何か言いたいのかい?」


冷たい視線を感じ、その方向を見てみると、それはいた。


レイラ
「いいえ。なんでも、きにしないで…」


彼女はレイラ・シュタリア・ハルツ。
いつも無表情で冷たく消極的で、感情が上手く表現できない、4大騎士の中では最年少である80歳(見た目は18歳ほど)の女性だ。
種族は蝶々で、背中に紫色で美しい羽を身に付けているのが特徴である。
武器は主に巨大な扇子を操って闘っている。

そんなレイラを、ローリアンスはあまり好ましく思っていない。
まぁ、感情表現が上手く出来ず何を考えているのか分からない彼女なので、当然の反応であるが。


ローリアンス
「ふぅん…まぁいいや。さぁて…キィリル…ってあれ?アイツいないのかい…シュタ爺」
シュタルク
「探したんですがね…キィリルはどこかお出かけしに行ったようですな…坊ちゃま」


ローリアンスが「シュタ爺」と呼ぶ、シュタルク・ルーゼ・ヴェイター。
彼はローリアンスが生まれてからずっとお世話をしていた使用人で、良きローリアンスの理解者である。
この4大騎士のなかで最年長である。
規律とマナーを重んじるので一見厳しそうな性格だが、本来は優しい心を持っている。
種族は龍タイプで、念じると背中から大きな翼が生えて飛ぶことが出来たり、また天候を操ることが出来る特殊能力を持っている。
武器は杖型の剣を使い、他にも様々な属性を駆使した心術を展開して闘っている。


ローリアンス
「……もう「坊ちゃま」っていうのやめてくれないかな…もうガキじゃないんだから」
シュタルク
「いやはや、いつまで経っても私の中で永遠の坊ちゃま…ですよ♪」
ローリアンス
「はぁ…ロヴェル、君は調子はどうだい?」

ロヴェル
「ぉう!!もちろんだぜ〜陛下!!!俺様はいつでも万全よ♪」


ロヴェル・ディアルド・フォルス。
彼は夢中になると周りが見えなくなるほど凄く熱血で、ローリアンスの想いにいつも共鳴している賛同者である。
とても地上人を憎んでおり、地上人という言葉を聞くだけで憎しみで暴走してしまう癖がある。
好き嫌いが激しく、嫌いなものは速攻排除するという狂気的な性格を持っている。
種族はこうもりタイプで、今のようにこうやって天井にぶら下がっているのが大好きで、暗い所をよく好んでいるようだ。
武器は拳と火と闇の心術を使って闘っている。


ローリアンス
「相変わらず天井にぶら下がって…皆がいるんだから降りて話してくれないか」
ロヴェル
「おう!了解っと…さぁて…あのクソガキはどこ行ったんだ…ホントによ」
ローリアンス
「いいよ、キィリルはいつもそうだから…放浪癖があるのは本当困るけど…ね」
シュタルク
「そう言えば坊ちゃま…お話とはなんでしょうか…?」
レイラ
「そうだ、呼び出しておいて…何もないとは…言わせないよ」
ローリアンス
「ぁあ…ごめん。君たちに話すのは他でもない…―」




――“例”の計画の事についてだ…









あれから1時間経ち、会議が終わったローリアンスは自室へと戻ろうと階段を上がり終わり、自分の部屋の扉が見えた…と思ったところだった。


ローリアンス
「ん…ぁあ、ミィリアか…どうしたんだ?」
ミィリア
「お兄様…今日は会議があったそうで…おからだの調子は…」
ローリアンス
「…ッ!…大丈夫だよ…お兄様は…いつも通り元気さ」

目の前にいるのは、ローリアンスと同じ金髪をした小さな女の子。
お兄様と呼ぶこの少女は、ミィリア・シエル。
そう、ローリアンスの実の妹である。
ローリアンスより10違う、130歳(外見は13)ほどだ。


ミィリア
「お兄様が元気で…なによりで―…ゲホッコホッ…!」
ローリアンス
「ほら、無理に動くから…ミィリアは身体が弱いんだから…ゆっくり休んで」
ミィリア
「嫌です…ッ、私は…何もせずじっとしているのは…耐えられません、私にも何かお手伝いすることがあればよいのですが…ッ。お役にたてなくて…いつもごめんなさい…」


そうしょんぼりっとして落ち込む妹の姿を見て、ローリアンスは自分と同じ視線くらいの高さまでしゃがんでミィリアを見ると、優しく頭を撫でで、


ローリアンス
「いつもミィリアが僕の事を想ってくれるだけで…役に立ってるさ。力になるよ…本当に、いつもありがとう…ミィリア」
ミィリア
「本当…ですか…?」
ローリアンス
「ぁあ…ミィリアは僕の心の支えだよ」
ミィリア
「…私も…お兄様は私の心の支えです!ありがとうございます、お兄様…」


そうミィリアはお辞儀すると、自室へと向かって走っていった。
その姿をミィリアが自室へと入ったのを確認すると、ローリアンスは自室へと入る。
そして重い体を自分の愛用のベッドへと身を投げると、ぼすっという音と共にやわらかいベッドへと埋もれていく。
そして小さなため息を漏らすと、仰向けになって天井を見つめた。



ローリアンス
「ふふ…ハハ…ハハハハハハハハ!!!」


自分の手で顔を覆いながら、大きく高笑いする。


ローリアンス
「…僕の…天空人の想いまで、あともう少しだ…ッ!」










イオナ
「うひゃはー!なんだ此処!!おっもしろぉおおい!!はひゃは!!」


薄暗い洞窟の中。
その中に、虫眼鏡を片手に洞窟の壁を見つめて興味津々にそう言うイオナの姿があった。


イオナ
「んふふ〜ひゃは!」


段々奥に進んでいくと、奥に何か光るものを見つけると、嬉しそうにそこに向かって飛び向かう。
その時…


――ブシュゥウウウウッ!!!

イオナ
「ウワワワァアア!!な、なんだボン!?」


急に霧のようなものが現れ、イオナに襲いかかった。


イオナ
「ふにゃ…段々…ねむきゅ…なってきたぁ…」


段々意識が遠のき、そのまま力なく倒れ、そのまま爆睡していった。


???
「寝たか…まさかこんな簡単に引っかかるとはな…;」
???
「そうだな…早く連れて行くぞ」
???
「了解…」


そう言うと、寝ているイオナを抱きかかえて何処かへと消えて行った。













NEXT…


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!