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本日も晴天なり
寮監さんは笑い上戸

少し熱くなってしまった頬をからかわれつつも、千歳と亮哉は学生寮へ到着した。

校舎と隣接しているところを見ると、遅刻の心配はしなくても済みそうだ。

亮哉が言うには、寮からも校舎からも渡り廊下でつながった大きな食堂もあるらしい。


「なんか、いろんな建物がぎゅぎゅっとつまってるね?」
「そうじゃなきゃ不便だろ。セキュリティー上の問題もあって校門からはそれなりに距離をとってあるけど、他のものは案外コンパクトにまとまってるんだ」
「合理的!」


話しながらも寮のエントランスに入る。

外から見たときには「きれいな建物だなー。新しいのかなー」ぐらいにしか思わなかったのだが、内側には豪華絢爛な世界が広がっていた。


「き、きらびやか…」
「寮監の趣味で毎年派手に改装するんだよ。今年はロココ様式らしいな」
「おれ、シャンデリアって初めて見たよ…」
「俺らの家にはなかったもんな。あれ結構管理面倒らしいぜ。掃除とか」
「…なんかシャンデリアが一気に可愛く見えてきた」
「可愛いか?」


千歳がきょろきょろ周りを見回しているうちに、亮哉は寮監室をノックしていたらしい。

重厚そうな扉が開いて、20半ばほどの男性が出てきた。

少し伸ばした黒髪を一つにくくり、目を細めて楽しそうに笑っているこの人がどうやら寮監らしい。


「よお藤峰。仕事か?」
「いえ、どちらかというと私用です。今日入寮の外部生連れてきました」
「へえ、今期書記様がわざわざか」
「幼なじみなんで」


亮哉の後ろからこっそりやり取りをうかがっていると、寮監の視線が千歳を捕らえた。

なにやら興味深そうにしげしげと眺められて、首を傾げる。

なんだろう、庶民が珍しいとか?


「じゃあ、その子が噂の“千歳君”って訳か」
「あ、はい、荻原千歳です。よろしくお願いしますー」
「はいよろしく。俺は寮監の東武明」


あずまたけあきさん。よし覚えた。

でも噂ってなんだろう…?


しかしその疑問を口に出すよりも早く、亮哉とともに寮監室内へ促されてしまった。

部屋の鍵の受け渡しなどがあるらしい。

噂については、後で亮哉に聞いてみよう。


「千歳君の部屋は5階の5001。んでこれ、カードキーね。学生証とお財布も兼ねてるから絶対なくさないように」
「はーい。…お財布ですか?」
「クレジットカードみたいなものだよ。食堂とか購買とか、料金の精算をするときに使うんだ。カードで使った分は、口座から直接引き落とし。君は特待生だから、ここで買えるものはほとんどが二割くらい割引されるはずだよ」
「……便利だけどこわい…なんかこわい…パスケースに入れて首から提げておこうかな…」


思わずつぶやくと、目の前で東さんに爆笑されてしまった。

亮哉はなんだか微笑ましいものを見る目で頭を撫でてくる。

…絶対なくすなって言われると、かえってなくしそうにならない? おれだけ?

というか、クレジットカードって18歳以上にならないと持てないんじゃなかっただろうか。

学園内でしか使わないからいいのかな。

それとも皆さんお金持ちだから、払えない可能性なんてないからだろうか。


しかし東さん、笑いすぎじゃなかろうか。


「そんなに笑わなくてもー」
「ごめんごめん。千歳君面白くて可愛いね。なんか危なっかしいけど」
「ありがとうございますー?」
「……いやほんと危なっかしいな。心配になってきた。…守ってあげなよ?」
「もちろんです」


東は急に真剣な顔つきになって亮哉に視線をやっている。

それに答える亮哉も真面目な表情をして、左手を強くぎゅっと握りこまれた。

今の話の流れだと二人の懸念事項は自分のことらしいが、情報が少なすぎて千歳にはさっぱりわからない。


「りょー、おれ、なんか危ない?」
「その辺はあとでちゃんと説明する。志鶴と侑真にも会いたいだろ?」
「しーちゃんとゆーくん! 会いたい!」


どうやら真剣な話はいったん打ち切りらしい。

音がしそうなほど勢いよく手を上げると、亮哉も東も笑った。


「それじゃあ東さん、この辺で」
「はいよ。千歳君、何か困ったことがあったら遠慮なく来ていいからね」
「はーい」


残りの幼なじみとの再会も、どうやら間近なようである。


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