出会い系
──3
「サンジ君、お疲れ様」
ヘッドセットを置くと後ろからナミがコーヒーを置いてくれた。
「ンナミすわん!君の為ならキモカマにでもなるよ〜♪」
「あら、才能があったのよ。私の目に狂いは無かったわ」
「そんな〜ないない」
「あるわよ〜!サンジきゅん、お料理得意だし、女子力高いわよ〜」
「黙れカマ。割り込んでくんな」
くわっ!と歯を剥くサンジに、ティバニーは「も〜う情れないんだからン」といいつつ帰り支度を始めた。

「慣れてきた所申し訳ないんだけど…聞いてくれるかな?」
大きな瞳の上目遣いに、サンジは胸に手をあてキリッとする。
「ナミさん、オレは君の恋の奴隷だ。何なりとどうぞ」
「嬉しいっ!あのね、サンジ君人気が高くて、また新しく二人追加してもいいかな…?」
「二人…」
計7人になってしまう。相手の頻度にも寄るが、学業もバイトもしている身には少々キツイかも…
「だめ…?」
小首を傾げたうるうる目線に、
「男サンジ!やらせて頂きます!」
お人好しな男は承諾してしまったのだった。

***

「ただいまー」
そう言っても、応えてくれる相手は居ない。
暗く冷えた部屋の明かりを付ける時が、一番虚しい気分になる。
キッチンで煙草を吸っていると、仕事用の携帯からメール音が鳴る。
早速新しい客からだ。
適当にテンプレ返しして、ベッドに倒れこむ。

「どうせ、あと三週間だけだしな」
三週間…経ったら、流石のあいつも帰ってくるだろう。
一週間も今までで最長だ。それもオレ様の餌付けのせいなんだけどな。

「腹が減ると条件反射でお前の顔が浮かぶ」

同居が同棲に変わってからしばらく、そう言われた事がある。
「それってパブロフの犬みてェだな。お手」
「わん。っていうかよ馬鹿」
ちょっと大型犬と思えば可愛げもあるかもしれねェ。そう思ったものだ。

一方サンジにも彼によって生まれた条件反射がある。
欲が溜まると、あの熱い手が肌を這い回る感触、内部を掻き回される快感を思い出してしまうのだ。
一週間、忙しくて自分でヌく事も出来なかった。
そろそろしないと、翌朝お漏らし決定だ。
「…あ〜…クソめんどくせェ」

そういいつつ、疲れマラなのかジュニアは芯を持ち始めている。
サンジは横に寝て前をさらけ出し、パンツ越しに手を添えた。
「…んっ」
溜まっていたせいで、ちょっとの刺激で完勃ちする。
我慢できずにパンツを下げ直に握り、上下に扱き始めた。
「あ…あっ…ふあっ…」
さっそくエロい声が漏れてしまう。
実はサンジは自慰の時の声が大きい。
セックスの時は押し殺している反動からか、遠慮なく喘いだ。

根元から扱き上げ、たまに鈴口を指の腹でクリクリするのが癖だ。
ぬるぬるとした感触。
気持ちいい。気持ちいいのに…
「あ、クソ…足りねェ…」
恥じらいもなく、アナルがひくひくいっている。

ここから与えられる圧倒的な快感をしってしまっては、一つじゃ物足りない。
潤んだ瞳が部屋をさ迷い…朝起きっぱなしにしたヘアスプレーを見て、その先の思考に我に帰る。
──ケツに欲しいなんて…雄として終了するわけにいかんだろう…!

「ふ…くっ…」
とにかくチンコだ。チンコでイキたい。チンコ、あいつのチンコぶっとくって凶器だけど、指で散々解かされたあとにぶち込まれると、前のイイトコ圧迫してすぐ出ちまいそうになるんだよな…
「チンコ…欲しい…」
目を閉じると涙が一筋落ちる。
ゾロとのセックスを思い出すと、信じられないくらい射精感が高まる。
情けない。最悪だ。

サンジは右足のズボンを蹴り脱ぎ、股を広げた。
無意識に肌蹴たシャツから乳首も弄り、扱く手を早める。
脳内ではゾロの手に翻弄されて、あの剛直に貫かれて──
「あっ…ああっ…も、でる…あ、ふあっ…!!」
腰を二度宙に突き上げると、鈴口から勢いよく白濁が乳首に飛び、小出しに腹、陰毛に付いた。

「っハァ…!ハァハァ…」
「お楽しみだったな」
「───!?」
ふわふわとした余韻を貫く低音に、カッと目を開き横を向く。
開いた引き戸に、緑髪の青年が立っていた。

「な、おま、なんで」
シーツで身体を隠そうとするが、べっとり粘液が垂れる感触にシーツ汚れちまうティッシュティッシュ…!と焦ると、
「ほらよ」
膝にポンとティッシュの箱が着陸し、素早く紙を取ってまずチンコを隠した。
サンジは気まずく俯きながら問う。

「…いつからそこに居た」
「チンコ欲しいあたりから」
「──!てめェ!悪趣味だぞ!!」
真っ赤になって睨むと、隣の部屋の明かりで逆光になった顔が冷たく嗤う。

「何を想像してた?俺だろ?俺のチンポ突っ込まれる想像してイったのか?この淫乱」
「黙れ…!」
テッシュの箱を投げたが、外れて引き戸にあたる。ゾロは避けもしない。
「これで俺無しじゃ駄目な身体になったって解ったかよ。女とヤってもてめェは物足りねェはずだ」
「うるせェ!いい加減にしろよゾロ!」
サンジはベッドに拳を打ちつける。
「てめェの独占欲にはうんざりなんだよ!オレにお前は必要ねェ!二度と帰ってくんな…!」
「…そのつもりだよ」
細まる両眼は恐ろしい程冷たい。
「忘れモン取りに来たら、お前のオナニーショー観賞する羽目になっただけだ。じゃあな」

キン、と親指で弾かれた光りをサンジはキャッチする。
リュックに教科書を入れ、ゾロは出て行った。
ドアの音は一週間前よりも悲痛な音に聞こえ、鼓膜から心臓を震わせる。

右手を開くとそこには銀色に光る合鍵。
「ちくしょう…」
胸から垂れる粘液が冷え、虚しさが増していく。
伏せた顔から雫が一つ、二つ落ちていった。

***

「おいサンジ」
「…何だよクソジジイ」
いつもはそう呼ぶと『オーナーと呼べキック』が炸裂するのに、今日は飛んで来ない。
「お前今日はもう上がれ」
「いやだ」
まだ夜10時。オーダーストップの11時まで忙しさはクライマックスだ。

他のコック達がチラチラ見てくる中、オーナーゼフは腕組をして、
「ボンヤリした奴が厨房にいたら邪魔だ。さっさと帰れ」
有無を言わさない命令を下した。


「クソジジイめ…」
サンジは帰途につき、道路の空き缶を踏んで潰した。
バイトしているレストランは、彼の育ての親の店だ。
サンジは孤児だった。
9歳の時、施設を逃げ出し腹が減って、店の裏口でしゃがみ込んでいたら、オーナーゼフに見つかった。
厳ついおっさんは、チャーハンを作って食べさせてくれた。
食べた瞬間、涙が出る程美味しかった。
どうしたらこんなものが作れるんだと詰め寄ったら、修行すればどうにかなるかもなと言われ、即座に雇ってくれと頭を下げた。

何故かゼフはサンジを施設から引き取ってくれ、今でも陰ながらサンジを支えている。

「心配なんか…かけたくねェのに」
ゾロが一旦帰ってきた最悪の日から、二週間経っていた。
出会い系のバイトもヤケクソで頑張り、レストランのバイトまでこなす彼は流石に疲労困憊だった。
目の隈どころか4kgも痩せた。

「これも全部、クソサボテンのせいだ…」
半分八つ当たりだが、毒づいてないとやってられない。
イライラと新しい煙草を取り出したら、メール音が鳴る。
「ああうるせェな!」
すれ違うカップルがビクっとする。
サンジが荒く携帯を取り出すと、差出人はサングラスの客──ギンだった。

『サンディさん今晩は。最近この辺は物騒みたいだから、夜道は気をつけて下さい』

──何故オレが夜道歩いてるって知ってるんだ?
一瞬疑問に思ったが、オカマなら水商売がほとんどだからそう思ったんだろう。
それにしてもこの控え目な優しさ、骨身に染みるぜ…。

相変わらず電話でも常に予約していて、スケベ野郎ばかりの相手をしていると、
ギンとの普通の会話は、悪酔いした時のミネラルウォーターのようだ。
ウソップといいこいつといい、優しくていい男はたくさんいるのにな…って野郎じゃねェよ!
ビビちゃんとかナミさんとか、可愛くて魅力的なレディだってたくさんいるのに…
「なんであの緑なんだよ…」

愛想無しで生活能力皆無で、嫉妬が酷い蠍座の男。
サボテンですら精神感応能力があるらしいのに、あの鈍感緑は人の気持ちなんてお構い無しだ。
マジ道を誤った。

とぼとぼとメール返信しながら歩いていたら、街の喧騒が静かになっている事に気付いた。
「…あれ?」
顔を上げると、薄暗い公園に居た。どうやら曲がる道を真っ直ぐ行ってしまったらしい。
「どっかの方向音痴じゃあるまいし…」
ほんと疲れてるな、オレ。
溜息をついて踵を返そうとした時、下衆な口笛の音がした。

「君、見ない顔だね」
「綺麗な金髪だな。地毛?」
「肌も白いなー。外人さんかな?言葉わかる?」
トイレの影から、いかにもチンピラといった男3人が出てきてサンジを取り囲んだ。




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