影・5


 あの男の眩しいほどの閃きが、アカギの世界に彩度を与えた。灼けつくような一瞬の閃光に照らされ、アカギの影は色を取り戻した。
 風に吹かれて夜の街を歩きながら、アカギは目を閉じる。あの男との出会いは、自分にとって必然だった。だからもう一度、出会わなければならない。
「会ってみたい」ではなく、「出会わなければならない」のだ。それはもはや願望ですらなく、言うなれば宿命に近かった。


 男に関する情報はなにもない。しかしアカギはひたすら歩く、あの光の見える方へ。引き寄せられるように。
 アカギには見えていた。自分を『生』へと繋ぎ止めた者の放つ、鮮烈な光。どこにいても、きっと探し出せる。奇妙な話だが、はっきりとした確信がアカギにはあった。




 繁華街の路地裏。数名の浮浪者が座り込んでいる。
 ごみ箱を漁っている者、段ボールの上に寝転がっている者、いつのものかもわからないボロボロの新聞を熱心に読む者。
 それらの人間の前を素通りし、俯いて座り込んでいるひとりの男の前に立つ。
 男の上にアカギの影が落ち、男は面を上げてサングラス越しにアカギを見上げる。
 前見たときにはなかった、新しい傷が左の頬にできていた。身なりはみすぼらしく、薄汚れ、他のホームレスと大した差異はないように見える。
 だが、アカギには見えていた。他の者とは違う光。サングラスの向こう、今はただ怪訝そうにしているその瞳が、どんな鮮烈な閃きを放つのかを知っていた。


 どう声をかけるのかなど、すこしも考えてはいなかった。
 だが、男を前にすると、言うべきことが決まっていたかのように、自然と口が開き、舌が回った。
 黒いレンズ越しに男の目を見据え、アカギはその言葉を口にした。

「オレと、ギャンブルをしましょう」

 ただ、男にもう一度、本当の意味で出会うために。





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