嫉妬(※18禁)・4
店を出たのはまだ早い時間だったが、その後、ふたりは二次会へも行かず、飲み会はそこでお開きとなった。
店を出たところで、偶々そこにいた強面の男に、カイジがぶつかってしまうという事件があったからだ。
完全に、カイジの不注意だった。
スーツ姿の、いかにもスジモノ然とした男にギロリと睨まれたカイジと佐原は、サッと青ざめ、平謝りして逃げるようにその場を去ってなんとか事なきを得たのだが、
「大丈夫っすか? 疲れてるんですよ、きっと……。今日はもう、やめにしましょう?」
と佐原に珍しく真面目に諭され、カイジも承諾してそのまま帰路についたのだった。
確かに、今日は疲れたかもしれない。
原因はわかりきっている。バイトのせいでも、アルコールのせいでもない。
佐原と別れてひとりになると、頭に浮かんでくるのはアカギのことばかり。
さっき居酒屋で見た、アカギと女性の会話する様子、愉しそうな女性の微笑みなど、決して気持ちの良い光景ではないはずなのに、カイジは思い出すのをやめられない。
浮気……では、ないと思う。アカギがそういうことをする男ではないということは、カイジにはわかっていた。
それは決してアカギが恋人に対して義理堅いということではなく、アカギの性質がいかに『恋愛』に向いていないのかということを熟知しているからなのだ。
余計なものを背負いたがらないアカギが自分以外と恋仲になるはずがないと、カイジはちゃんとわかっていたし、事実それは、自惚れでもなんでもない、当を得た考えであった。
だが、浮気じゃないからといってカイジの心が晴れるかというと、当然、そういう訳じゃない。
自分の恋人が見知らぬ女性とサシで呑んでいる現場を目撃して、気にならない人間なんていないだろう。
女性とどういう関係なのか、アカギからひとことでも説明があれば、きっとこんなにモヤモヤすることはなかったのに……
アカギに対して恨むような気持ちまで湧いてきてしまい、カイジはブンブンと頭を振った。
気がつけば、自宅アパートはもう目の前である。考え事をしながら歩いていたせいか、帰りの道のりが異様なほど短く感じられた。
今日はもう疲れた。これ以上余計なこと考えなくて済むように、シャワーでも浴びてさっさと寝ちまおう。
そう思いながら、カイジは今日何度目かのため息をついた。
シャワーを浴び、下穿き一枚で濡れた髪をガシガシと拭きながら風呂場から出たところで、部屋の扉がノックされた。
間延びしたような、特徴のあるノック音にハッとする。
こんな風に自分の家の扉を叩く奴は、ひとりしかいない。
まさか、と思いつつ玄関に行き、ドアスコープを覗くと、円い窓の向こうにあるのは、やはりどこからどう見ても、アカギの姿だった。
なんでこいつがここにいるんだ? さっきまで、居酒屋にいたはずなのに。
時計を見る。アカギと女性が店に入ってきてから、そう時間も経ってない。
いったい、どうしたのだろう。なにか事情があって、早めにお開きになったのだろうか?
混乱しつつも、カイジはとりあえず鍵を外す。
細く開いた隙間から顔を覗かせると、そこに立っていた恋人と直接、目が合う。
途端に、さっきの居酒屋での出来事が脳裏に蘇ってきて、カイジはアカギを睨み、ぶっきらぼうに言った。
「……なんだよ。オレ、もう寝るつもり……、」
だがカイジはその台詞を、最後まで言い切ることができなかった。
急に大きく扉を開かれ、腕を引かれて訳もわからぬうちに口づけられていたからだ。
「ッ……!? ん、んんーーッ!!」
突然のことに目を白黒させながら、なんとか逃れようとカイジは頭を強く振る。
だが、食らいつくように重ねられた唇は離れるどころか、ますます深く強くカイジを絡め取ろうとしてくる。
押し返そうとする腕も容易く押さえつけられ、玄関の壁に縫い止められて獣の口付けを受ける。
いきなりやってきたかと思えばこんなことをされて、怒りも湧いたが、そんなことより開きっぱなしの扉が気になって仕方がない。
もし、アパートの住人が部屋の前を通りがかって、見られでもしたらーーと思うと気が気ではなく、カイジはアカギの舌に噛みついたり強く足を踏んづけたりして引き剥がそうと藻掻く。
しっかりと目を開いたまま、カイジがアカギを睨めつけると、間近にあるアカギの瞳もまた、まっすぐにカイジを見据えていた。
息継ぐ暇もなく、角度を変えては幾度となく重ね合わされ、重なりきらなかった唇の端から混ざり合った唾液が伝い落ちる。
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