レイトショー・4







 映画館の外に出ると当然、ショッピングモールの営業は終了しており、ふたりはエレベーターを使わず、入ってきた時はべつのドアから店の外へ出た。

「映画、どうだった?」
 駅までの道を歩く道すがら、そう尋ねてきたアカギに、カイジは渋面をつくる。
「お前が妙なことするから……映画の内容吹っ飛んじまうとこだった」
「妙なこと?」
 自分が気紛れにやったことなどもうすっかり忘れているように、アカギはしばらくカイジの顔を見つめていたが、やがて、「ああ、」と声を上げた。
「もしかして……感じちゃった?」
 クスクス笑いながら言われ、カイジの頬にカッと朱がさす。
「なっ……! バカかお前っ……!! オレが言いてえのはな、TPOを辨えろっつうことで……笑ってんじゃねーっ!!」
 火を噴きそうな顔で憤慨するカイジに一頻り笑ったあと、アカギはぽつりと呟いた。
「悪かねえな……たまには。映画デートってのも」
「お前、ほとんど観てなかったじゃねーか……! つうか、デートとか言うなってば……!!」
 すかさず、カイジからツッコミが入れられる。


「……で、これから、どうする?」
 アカギが問いかけると、カイジは怪訝そうな顔になった。
「どうって……フツーに帰るだろ。うちに」
「ふうん。……じゃあ、その後は?」
 重ねて問うと、質問の意図が掴めないのか、カイジの眉間の皺がさらに深くなる。
「その後……って……」
 鈍い反応に痺れを切らしたアカギが、だらんと垂らされたその左手の人差し指に触れると、カイジは言葉を切り、みるみるうちに耳まで真っ赤になった。
「……っ……」
 ごく、と喉を上下させ、カイジはせわしなく瞬きを繰り返していたが、
「し……知らねえっ……!」
 結局、短くそう吐き捨て、アカギの手を払い除けた。

 アカギは目を細める。
 悪くない反応だった。
 すくなくとも、拒否ではないことは明らかだ。映画館での出来事から体に燻っていた熱を、思い出したのだろう。


 たまには、映画も悪くない。
 払われた手を素直にポケットに収め、何事もなかったかのような素振りで、アカギはカイジの隣を歩く。
 なぜだか、泣き出しそうに歪んでいるカイジの横顔を眺め、果たしてうちに帰るまで理性が保つだろうか、と己を危ぶみながら。









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