大人になる方法(※18禁) カイジ視点 エロはぬるい


「そんなにオレのことガキだって言うならさ、カイジさん。あんたがオレのこと、大人にしてよ」

 思い切り掴まれている腕の痛みよりもなによりも、その台詞に強い衝撃を受けてオレは絶句してしまった。
 壁際にオレの体を押し付けたまま、睨み上げてくる双眸はすこしも笑っていない。
 どうやら、本気で怒っている。
 底冷えするほど冷たい目線に晒されながら、オレは平静を装って問いかける。
「……は? どういう意味だよ」
 訊きながら、どうしてこんな状況になったのか、しげるがなぜこんなにも怒っているのか、考えてみる。
 考えてみるが、原因はさっぱり……いや、ひとつしか思い浮かばない。
 しげるのことを、しつこく「クソガキ」呼ばわりしたこと。
 暇つぶしでやっていたトランプでしげるに惨敗したのが存外悔しくて、大人気ないと思いながらも「クソガキ」なんて罵ってしまった。
 するとしげるが露骨に不愉快そうな顔をしたから、調子に乗ってしつこくガキ呼ばわりを続けてしまった。
 考えずとも、完全にしげるよりもオレの方が幼稚だった。だが、しげるが静かに耐えていたから、気がつかなかったのだ。
 しげるが本気で怒っていることに。
 どうやら、オレは知らぬうちに、しげるの地雷を踏み抜いてしまったらしい。

「どういう意味って……カイジさんは『大人』なんだから、それくらいわかるでしょ」
 今まで聞いたこともないような低い声で囁かれて、体を近くに寄せられる。
 なんだ、この不穏な空気は。至近距離にあるふたつの瞳から思わず目を背けながら、ぼそぼそ答えた。
「……わからねぇ……」
「嘘つき。あんたはいつもそうやって、知らないフリしてるだけ」
 しげるの声は恐ろしいほどにまっすぐに、オレに切り込んでくる。

 知らないフリ。
 しげるが言おうとしてることには、嫌というほど心当たりがあった。
 今回だけじゃない。オレはしげるを子供扱いすることで、ずっとしげるから向けられる好意から目を背けてきた。
 知らないフリを続けてきたのだ。

 しげるがこんなに怒っているのは、単にガキ扱いされるのを嫌がってるってわけじゃない。
 こいつはそんなことくらいで怒るようなタマじゃないことは、オレもよく知っている。
 つまり、『クソガキ』呼ばわりしたことは、単なる引き金に過ぎず、歳の差を理由にして、しげるの気持ちから逃げ続けてきたオレに対して、今まで蓄積させてきた鬱憤が今回とうとう爆発した、というのが、ことの真相だろう。

 自業自得、という四字熟語が脳裏を過ぎる。
 狙いすましたかのようにしげるの手が頬に触れ、ビクリと肩を揺らしてしまった。
 過剰な反応に、しげるが鼻で嘲う。
「ビビってるの?」
「っ、違ぇよっ……!!」
 挑発されて、思わず言い返してしまった。
 しげるは悪い顔で口端を吊り上げると、オレの頬を両手で包み込むようにして、指の腹でやさしく撫でる。
「いい加減、飽き飽きしてんだよ。ガキだからって理由で、あんたにずっとかわされ続けるのには」
 だからさ。
 そこで言葉を区切って、しげるは揺れない両の目でオレの顔を覗き込む。
「手っ取り早く大人になる方法。あんたで、試してみてもいい?」
 駄目だ、と言いたいのは山々だが、喉が干上がって口が回らなかった。
 爪先立ってオレの唇を塞ぐ直前、互いの吐息が混ざり合う距離で、しげるは音を消した声で囁いた。

「オレを大人にして……カイジさん」








 硬く反り返ったモノの先端を埋めた瞬間、しげるが掠れた声を漏らした。
「あぁ、」
 閉じた瞼を震わせたあと、鋭い目がうっすらと開かれてオレを見る。
「すごい……カイジさん」
「……ぁあ? ……にが、だよっ……」
 限界まで広げられて、裂けそうに痛む後ろに耐えながら訊くと、
「大人になるって、こんなにきもちいいことだったんだ」
 ため息混じりにそう呟いて、しげるはオレの頬を撫でた。
 まるで初めてみたいな、うっとりした顔してるけど、この状況に至るまでの流れを鑑みるとそれは怪しい気がする。
『大人にして』なんてAV紛いの台詞吐くからには、当然したことないもんだとばかり思い込んでたけど、抵抗する気力も体力も奪い尽くしてから、ゆっくり時間をかけて全身を愛撫する、そのやり方がやけに手慣れているように思えたからだ。

 しかし、今となってはもう、そんなことどうだって良かった。
 体がギシギシと痛い。一刻も早くこの状況から解放されたいと、力無く目を瞑っていると、ふいに胸をねっとりした感触で覆われて妙な声を上げてしまった。
 視線を下げると、真っ平らな男の胸に顔を伏せたしげると目が合って、意地悪そうに目を細められる。
「胸吸われて悦んじまうなんて、女の人みたい」
 生意気な口振りにカチンときたが、負けじとこちらも言い返してやる。
「胸吸って悦んじまうなんて、赤ん坊みてえだな、……ッ!!」
 がり、と乳首に歯を立てられて息を飲む。
 痛みに歪んだオレの顔を見て、しげるはぼそりと呟く。
「そうだね。こんな風に体を繋げても、オレはまだまだ、あんたにとっちゃ赤ん坊同然なのかもしれない」
「……しげる?」
「それなら、」
 ぐっ、と腰を進められ、生々しい感触に全身が冷たくなる。
「……もっとちゃんと、大人にして貰わないと。ね、カイジさん」
「っう、あぁ、あ」
 ゆっくりと抽送されて、呻き声が漏れる。
 クソ痛え。涙で霞む視界で見上げると、自分に覆い被さるしげるは頬をうっすら上気させながらも、どことなくむくれたような顔をしていた。
 それはオレが初めて見る表情だった。……いや、違うな。見て見ぬフリを続けてきただけで、本当はこいつが今までなんどもこんな顔してるのを、知ってたんだ、オレは。
 それにしてもこいつ、ガキ扱いしたこと相当根に持ってんな。しょうがねえか。そうすることで、オレはこいつの気持ちを踏みにじってきたんだから。
 オレはぐっと唇を噛み、上がる息の合間を縫ってなんとか言葉を紡ぐ。
「わかっ、た……、から、も、ガキ扱いしねぇ、から……だから、」
「だから……なに? こんなこと、もうやめろって?」
 やさぐれたように口角を上げるしげるに、オレは首を強く横に振る。
 そして、きれぎれでもちゃんとまっすぐ伝わるように、呼吸を整えながらゆっくりと、伝えたいことを言葉にした。
「言いたいこと、あんだろっ……! それ、ちゃんと、言えっ……!! もう、知らないフリなんて、しねぇからっ……!!」
 鋭くつり上がった瞳を見開き、音の出るような瞬きを繰り返して、しげるはオレの顔をじっと見つめてくる。
 そんな風に見られると、居心地が悪い。
 ガキ扱いに逃げるのを止めて、ちゃんとこいつのことを受け入れようと思ったら、なんだか無性に顔を合わせるのが恥ずかしくなってきた。
 でも、もう目を背けるのは止めようと思ったから、羞恥を堪えてしげるの目をひたと見つめ返していると、やがてしげるがオレの体の上に折り重なるようにして倒れ込んできた。
「好き。……好きだよ、カイジさん」
 腕を回して体をぎゅうと抱き寄せながら、しげるは同じ言葉をなんどもなんども耳許で囁く。
 縋るような必死さに、オレはわかったわかったと苦笑いして、白い頭をぽんぽんと撫でてやった。







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