ラブメディスン【その2】(※18禁)・1 アカギに媚薬を使う話 リバっぽい表現・失禁注意



「あっ……そういえば……」

 互いに持ち寄ったさまざまな酒も残り僅かになり、いい具合に酔いが回ってきた、酒宴の最中。
 急になにかを思い出したような声を上げたカイジを、アカギはグラスを口に運ぶ手を止めて見た。
「お前が前、置いてった酒が残ってんだよ……。あれ、うまかったよな! 飲もうぜっ……!」
 へらりと笑ってそう言うと、アカギの返事も待たずにカイジは立ち上がり、いそいそとその場をあとにする。

 じっとその背を目で追いながら、アカギはひとり、ぐいとグラスを傾けた。







 台所に立ったカイジは、気持ちを落ち着かせるように、ひとつ、大きく深呼吸する。

 それから、アカギの置き土産であるウイスキーの酒瓶をテーブルの上にどんと置き、その隣にグラスをふたつ置いた。
 それから冷蔵庫を開け、奥の方に隠すように横たえてある、小さなドリンクの瓶を取り出す。

 真っ黒な瓶。ラベルの色は、妖しい紫。イラストや写真はなく、角張ったフォントで成分表示のそっけない英字がつらつらと並んでいるだけ。だがそれが、却っていかがわしさを引き立てている。





『マジ、すげぇ効き目なんですって!』

 先日、バイトで一緒になった佐原が、興奮状態でしつこく勧めてきた、このクスリ。

 いわゆる『媚薬』と呼ばれる類いの代物で、佐原はそれを興味本位でネット注文し、恋人になりたてほやほやの彼女にコッソリ試したところ、それはもう、ものすごい乱れようで、朝まで離してもらえなかったのだという。

 クスリの効き目には大満足の佐原だったが、当然、クスリを使ったことは彼女にばれ、翌朝、速攻で横っ面ひっぱたかれてフラれたらしい。

 それなりに彼女のことが好きだった佐原は珍しく本気でヘコみ、風俗で性欲を発散するような元気すら失ってしまったらしく、手許に残された使い道のない媚薬を、なんとか売り捌いてやろうと躍起になっていた。

(そんなに好きだったのなら媚薬の実験台になどするなとカイジはツッこんだが、『好きだからこそ乱れさせたい、ってのが男の性でしょ!?』などと猛烈に反論された。)



『かなりの高級品なんすよ? そんじょそこらの、コンビニなんかで売ってる精力剤とは訳が違うんす。一本、千円ぽっきりでいいですから、ね?』
 当然、カイジは断った。すると、佐原は恨めしげな半眼になり、こんなことを言い出したのだ。

『オレの予想じゃ、あんた……、どうせ、好き勝手にされてるんでしょ? あの白髪の兄さんに……。いいんですか!? そんなんでっ……! たまには、男、見せてやらねえとっ……!!』

 店中に響き渡るほどの大声で言われたカイジは慌てふためき、佐原を黙らせるためについ、クスリを買うことを承諾してしまったのだ。

 毎度ありー! と、したり顔で笑う佐原から、給料日前の貴重な千円と引き換えに手に入れた、このドリンク。
 カイジは血の涙が出そうなほど後悔したが、今さらどうしようもない。




 ……と、いうわけで、カイジは今まさに、このクスリをアカギに使おうとしているのである。
 完全に、千円損した鬱憤を晴らすためだけの、自己中心的な行動だった。
 
 カイジは早速、小瓶の蓋をあける。無味無臭だと佐原が言っていた通り、無色透明で香りもない液体を、片方のグラスに注いだ。
 それから、ウイスキーをそれぞれのグラスに注ぎ、クスリを入れていない方のグラスにはミネラルウォーターを注いで、量を調節する。

 仕上げに氷を入れ、カラカラ音を立てながらマドラーでかき混ぜると、当然のことながら、どちらが媚薬入りなのか、まったく区別がつかなくなった。
 カイジは両のグラスとウイスキーの瓶をお盆に乗せると、なに食わぬ顔でアカギのいる部屋へと戻る。








「ほらよ。水割りにしてやったぞ」
 そう言ってずいとグラスを突き出せば、アカギは黙ったままそれを受け取る。
「なんで、水割り?」
 じっとグラスに目を落としたまま問いかけられ、カイジは一瞬、ギクリとした。
「なんでって……気分だよ、気分。悪いかよ……」
「……べつに……」
 そう言いながらも酒に口をつけないアカギにヒヤヒヤさせられながら、カイジは思う。

 この、クールすぎるほど冷静な男が、たとえクスリを使ったとしても、乱れた姿を晒すだろうか?

 今さらながらカイジが疑わしく思い始めていると、アカギはついに、グラスをぐっと傾けた。

(……飲んだ!!)

 思わず心中でガッツポーズを決めるカイジを、アカギは横目で見る。
 そしてなにを思ったか、カイジと目線を合わせたまま、グラスを大きく呷り、ごく、ごく、と喉を鳴らして中の液体を一気飲みし始めたのだ。
 予想外の行動に呆気にとられるカイジをよそに、アカギは喉を反らして最後の一滴まで飲み干すと、カツンと音をたてて氷だけが残ったグラスを卓袱台の上に置いた。

 ふー、と深くため息をつき、アカギはカイジの顔をじっと覗き込む。
「……で?」
 卓袱台に肘をつき、指を組んでアカギは緩く口角を持ち上げた。

「あんた、オレに一服盛って、いったいどんな悪さするつもり……?」
「!!」

 カイジは飛びあがるほど驚いたが、なんとか平静を装って誤魔化そうとする。
「は……? なんの話だよ……」
「とぼけたって無駄さ。あんたはわざわざ、水割りを作ってオレに持ってきた……今までそんな殊勝なこと、一度だってしたことがねえくせにな。しかも、オレから見えない場所でコソコソ作ってたとなりゃあ、どんな阿呆でもおかしいって気が付くさ……」
 クク……と邪悪な顔で笑うアカギに、カイジはぐうの音も出せぬまま、冷や汗を垂らす。

 やはり、下手な芝居でこの悪漢を欺くなど、到底無理な話だったのだ。
 しかしそうなると、アカギは自分の奸計を知ったうえで、敢えて媚薬入りのウイスキーを飲み干した、ということになる。
 
 なぜ? その思惑が計り知れず、ついじっとアカギの顔を凝視してしまうカイジに、悪漢は目を細めて囁いた。

「いいぜ……乗ってやる。クスリで体の自由を奪ってまで、あんたがオレをどうしたいのか……、じっくり見物させてもらうさ」






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