「キスしてくれたら起きる」

 そう、しげるが言ったので、カイジは眉を寄せた。
「お前、今日学校だろ? くだらねえこと言ってないで、早く起きろよ」
 自分の方を見もせずに軽くあしらわれて、口許が隠れるくらいまで布団を被ったまま、しげるはむっとした顔になる。
「くだらなくて悪かったね。でもしてくれるまで絶対、起きない。死んでも起きない」
「死んだら起きられねえだろ……」
 カイジの揚げ足取りを、しげるはあっさりシカトする。

「どうしよう。カイジさん、早くしないと遅刻しちゃう」
 学校なんてほとんど行ってないので、今さら遅刻がどうのというレベルではなかったし、今日も行くつもりなんて更々なかったが、しげるはしゃあしゃあとそんなことを言う。

 すると、カイジのしかめっ面が、ようやくしげるの方を見た。
 そのまま、早足でズンズンとベッドへ近づいてきたかと思うと、素早く屈み込み、仰向けに寝たままのしげるの鼻の頭に、ちゅっと軽い音をたててキスをする。
「……ほら、したぞ。布団から出ろよ」
 淡々とそう言ってベッドから離れていくカイジの後ろ姿を、しげるは呆気にとられたような顔でしばらく眺めていたが、やがて、その眉間にちいさく皺が寄る。

「……ちょっと、なに、今の?」
「なに、って、キス」
「誰が鼻でいいって言った……? カイジさん、もう一回だ。今度はちゃんと口に」

 カイジは面倒臭そうにしげるの方を見て、ため息混じりに言う。
「わかったわかった……布団から出たら、してやるから……」
「……本当?」
「マジ、マジ」

 明らかにおざなりなカイジの返事に疑わしげな顔をしつつ、
「嘘ついたら舌引っこ抜くからね、カイジさん」
 などと空恐ろしいことを言って、しげるはようやく、猫のようにするりと布団から抜け出した。





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