trick or treat 小ネタ




「カイジさん、トリック、オア、トリート」

 アカギが急にそんなことを言ったので、カイジは仰天して、口に入れた鶏の唐揚げをまるのまま飲み込んでしまった。
 熱々の唐揚げを喉に詰まらせて苦しんでいるカイジを静かに傍観しながら、アカギは淡々と続ける。
「……って、どういう意味? 最近やたら、街で見かけるんだけど」
「っん、ぐ! はー……はー……」
 喉をモロに火傷しながらなんとか熱い塊を飲み下し、涙目で息を整えながら、カイジは安堵の声を漏らす。
「びっくりした……お前、いきなりミーハーになったのかと……」
「ねえ、だからそれって、なに?」
 無表情に問いかけてくるアカギに、カイジは冷えたビールで喉を潤してから、口を開く。
「ハロウィンの合い言葉……みたいなやつだよ。元々は海外の風習で、子供がお化けの仮想して、家々を回って言うんだ。『お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ』……って。そういうニュアンスの言葉。たぶん」
「ああ……道理で……妙な格好してる連中が多いと思った」
 納得したようにアカギは呟き、ぐいとビールを呷った。

 そんなアカギを見ながら、カイジはぽつりと漏らす。
「お前は、仮装の必要なんてねえよな」
「……どういう意味?」
 どうもこうも、そのまんまの意味だとカイジはアカギをじっと見る。
 誰もが恐怖し、『悪魔じみている』と評する人間。
 モンスターの仮装をした連中が街を闊歩する今夜、たぶんこの世で最も化け物に近い人間と、自室で酒を呑んでいるという現実に、カイジは奇妙な気分になる。

 カイジの考えていることが大体読めたアカギは、面白くなさそうに目を眇めてカイジを見ていたが、やがて、意趣返しをするようにニヤリと笑って言う。
「カイジさん、トリック、オア、トリート」
「あ?」
 悪戯っぽく光る瞳に、カイジの眉が寄る。
「お前、甘いもん嫌いだろ?」
「クク……」
 アカギは愉快げに喉を鳴らし、声を低くして言う。
「そうだけど。……ひとつだけ、例外がある」
 向けられた妖しい笑みにとてつもなく嫌な予感がして、カイジは手で制した。
「待て。それ以上は言わなくていい」
「セックスしてるときの、カイジさんのーー」
「言うなっつってんだろーが……!!」
 肩を怒らせるカイジにすっと顔を近寄せ、アカギは声を潜めて言う。
「甘いものくれないと、悪戯するよ?」
「おい、待てっ……! お前のそれは、どっち選んでも結果は同じだろっ……!!」
 カイジのツッコミに可笑しそうに声を上げて笑い、悪魔は恋人を抱きしめると、やわらかく床に押し倒した。






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