携帯(※18禁)・1 アカギが嫉妬する話 エロはぬるい



「カイジさん」
「んー……?」
「寝ないの?」
「んー……」

 自分の方を見もせずに曖昧な返事をするカイジに、アカギの眉間に皺が寄る。
 寝間着姿で床に座るカイジは俯いて、熱心に携帯を弄くっている。
 どうやら、メールかなにかをしているらしい。

「わり……佐原の奴が、バイトのシフト……代われってうるせぇからさ……」
 ぶつくさ言いながら、カイジはポチポチと携帯を操作し、軽く息をつく。
 ようやく終わったか、とアカギが思った瞬間、携帯が震え、カイジはすかさず届いた返信を確認する。
 白く光る画面に目を落としていたカイジは、思わず、といった風に、ぷっと吹き出した。
「ばっかじゃねぇの……」
 くっくっと肩を震わせてカイジを笑わせる、そのメールがいったいどんな内容なのか、アカギは知ることができない。

 今この場にいない人間が、カイジをあんなに自然に笑わせている。
 そのことがなんとなく面白くなくて、アカギは手を伸ばすと、カイジの携帯をぱっと取り上げてしまう。
「あっ……! アカギてめー……なにすんだよっ……!」
 明らかにむっとした様子のカイジに、ますます面白くない気分にさせられたアカギは、携帯を奪い返そうとするカイジの手を軽々と避け、せせら笑う。
「どんな面白いことが書いてあったの? オレにも見せてよ」
「はぁ? べつに……お前には関係ねぇだろっ……! いいから、返せっ……!」
 腕を伸ばして携帯を遠ざけると、カイジはアカギの体にぴたりとくっつき、同じ方向へ腕を延べる。
 体が密着している。距離が近い。
 だが、カイジはそれにすら気がついていないようで、きつく吊ったその目は携帯だけを追いかけている。
 目の前に無防備に晒された継ぎはぎのある耳許に、アカギは唇を寄せ、ふーっと息を吹き込んでやった。
「うわっ!!」
 驚いて反射的に飛び退いたカイジに、アカギはクククと喉を鳴らす。

 カイジはギロリとアカギを睨みつけ、ふたりは目線を合わせたまま、互いの動向を見計らうように、その場は膠着状態となった。
 隙を突いて飛びかかってやろうとタイミングを計るカイジと、いつそれが来るか読み切ろうとするアカギ。
 沈黙の中、ジリジリと緊迫した空気が流れる。

 と、その時。
 けたたましい着信音が静寂を引き裂き、アカギはつい、手中の携帯電話に目を向けてしまう。

 アカギの目線が逸れたのはほんの一瞬だったが、カイジはそれを見逃さず、鋭く目を光らせると、獲物を狙う猟犬のような素早さでアカギに飛びかかった。
 アカギもすぐにその動きを察知して避けようとするが、僅差でカイジの方が早かった。
 暫しの攻防の後、カイジはアカギの体にのしかかるようにして携帯を奪還する。
「へへっ……ざまぁみろ」
 カイジは立ち上がり、苦い顔で舌打ちするアカギを見下しながら、通話ボタンを押下する。
「もしもし? 佐原か?……」
 電話の向こうの相手と話しながら、カイジは部屋を出て行く。
 きっと、通話中にまた、気まぐれで携帯を奪われては敵わないと思い、場所を変えることにしたのだろう。

 隣の台所から聞こえる控えめに抑えられた話し声を聞きながら、アカギはこれ以上ないほど不機嫌そうに眉を寄せた。




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