そのままで・1 攻めっ気をへし折られるカイジさんの話




 しげるが眠っている。

 シーツに埋もれるようにしてすやすやと寝息を立てる寝顔は、普段とは別人のように穏やかで、なんとなく、オレはホッと息をついた。

 
 初めて体を繋げてから、まだほんの数時間。
 正直、さっさと寝入ってくれて助かったと思う。
 いつもみたいにずっと起きてられたら、いたたまれなくて、碌に目も合わせられなかっただろう。

 ついさっきまで耽っていた行為のことを思い出して、条件反射のように体が火照ってくる。
 べつに思い出したくて思い出しているわけではない。脳みそが勝手に、反芻を繰り返すのだ。
 顔をしかめて舌打ちして、しげるを見下ろすと、目許にかかった短くて細い髪がひんやりと心地よさそうだったから、思わずそこに触れた。

 指に触れた感触はさらさらと冷たくて、思ったとおり、指に心地よかった。
 起こさぬよう、そっと前髪を持ち上げると、うすい瞼とそこから伸びる疎らな白い睫毛が露わになる。

 今は閉ざされている、その目。切れ長の淡い瞳が、痛いほどオレを見つめていたのを思い出す。

 コトの間中ずっと、しげるは熱に浮かされたみたいな顔してた。
 普段は斜に構えてるっていうか、どこかしら醒めたような面ばっか見せやがるのに、やけに余裕がなさそうだった。
 ……余裕のなさで言えば、オレの方が圧倒的だったような気もするけど。
 腰や喉や、その他いろいろなところが、未だにヒリヒリしてるし。

 でも、なんか可愛かったな、コイツ。
 頬を微かに染めて、声を上擦らせて……
 結ばれる前にちょっとした曲折があったせいか、してる間中、『好き』ってなんども言われた。
 キスや愛撫がやたら達者だったのには舌を巻いたけど、それがまた尚のこと、不釣り合いなほど熱っぽい表情を引き立たせてた。
 抱かれる側やったのはオレだったけど、抱かれながらしげるのことを抱いてるみたいな妙な気分にさせられて、八つも年下のガキに掘られながら、オレは途中から、不覚にも物凄く興奮してしまったのだ。

 我ながら手の施しようもなく倒錯してると思うけど、一応オレも男なわけだし。相手の可愛い顔を見て、盛り上がっちまうのはしょうがない。……そう、たとえ自分が、ネコだったとしても、だ。
 というよりも、あわよくば、自分もタチをやってみたいとか、邪な願望を抱いちまうほどには、しげるは可愛かったのである。
 
 快楽に歪んだしげるの顔。オレだけに晒す、思春期の少年らしい表情。
 思い出すと、頬が自然に緩んでいく。今オレ、相当だらしなくヤニ下がった顔してるんだろうなって、鏡見なくてもわかる。

 ずっとしげるをガキ扱いするついでみたいに、自分の気持ちまで誤魔化しながらあしらってきたけれど、腹括って一線越えちまったらそれが嘘みたいにベタ甘になっちまって、その変貌ぶりに、我ながら呆れる。
 返す返すも、しげるが眠っててくれて良かったと思った。
 相変わらず体は鈍く痛むけれど、それすらも、なんだか甘く感じられる。

 いくらでも、寝顔、見てられそうな気がしたけど、このままひとりでニヤついているのは人としてなんだかとてもダメな気がして、オレはそそくさとしげるの隣に潜り込んだ。

 狭いベッドだから、ふたりで寝ると互いの顔がキスする直前みたいに近くなる。
 そよ風みたいな寝息が顔にかかるのを感じながら、健やかな寝顔を見守っていると、幾ばくもしないうちに睡魔がやってきて、オレは欠伸をしつつ瞼を閉じた。




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