下手の横好き(※18禁) 甘々 フェラチオするだけの話



 咥えろ、と命じなくても、頭を撫でてやれば、それを合図にして自ら唇を寄せてくる。
 最初の頃は、はっきりと口で要求しても、抵抗を隠しきれない様子でしばらく躊躇っていたコイツが、ずいぶんと変わったもんだと、赤木は床に投げ出した足の間に蹲る男の黒い頭を見下ろした。
「カイジ」
 名前を呼ぶと、真っ黒な瞳が赤木を見上げ、すぐに伏せられる。赤木がこうして名前を呼ぶのはいつものことで、それが単に自分の顔を見るためだということが、カイジにももうわかってしまっているのだろう。

 カイジの体がもぞもぞ動き、ジッパーを下げる密やかな音がする。
 下穿きの中から、まだやわらかい赤木自身がそっと取り出される。
 大きな瞳を瞬いて、カイジはそれをすこしの間眺めていた。目尻から頬にかけて、うっすらと桃色に染まっている。自身に吐息がかかるのがくすぐったくて、赤木は眉をぴくりと動かす。
 この段になって、戸惑ったように一瞬動きを止めてしまうのは、カイジのいつもの癖だった。ずいぶんと慣れたように思えても、最後のところでいつまで経っても恥じらいは捨てきれない。そんな初心さが赤木を愉しませているのだと、カイジにはきっと思いも寄らないことなのだろう。


 小鳥でも包み込むような手つきでやんわりと握られ、湿った掌の感触が赤木に伝わる。
 おっかなびっくり、先端に舌先を押し当てられた。ちろちろと遠慮がちに鈴口を往復してから、大きく舌を出して裏筋を根本まで舐め下ろす。それからまた先端まで舐め上げ、尖らせた舌先で濡れた線をつけていく。
 雁首と竿の境目を弄くられると、反射のように赤木自身がぴくぴくと動く。その反応を見逃さず、カイジはそこを重点的に責めた。
 赤木本人はいつだって余裕の態度を崩さないから、自分の手の中でこんなにも素直に反応してくれる赤木自身を、カイジは嬉しそうに愛撫する。

 芯を持ち、すこしずつ鎌首を擡げ始めると、カイジは口を大きく開けて雁首を口に含んだ。
 つるりと張り出した肉の弾力を舌で感じながら、唾液を絡めて口から抜き挿しする。
 括れの部分をぐるりと辿りながら、根本は手で握ってゆっくりと扱く。
 唾液を出来るだけ飲み込まず、口内に溜めているのは、赤木が以前、そうするように教えたからだ。
 その方が滑りが良くなって、きもちがいい。そう教えられてから、カイジは赤木の言いつけを忠実に守り続けている。
 男同士の性的なことに対する知識など、ほとんど持ち合わせていなかったカイジには、赤木のこうしろ、ああしろという手解きだけが唯一の情報源で、言われたことはなんでも、盲目的なまでに実践するのだった。その健気さがまた、赤木の頬を緩ませる。


「んん……っく、」
 頭を上下させ、徐々にカイジは男根を深くまで飲み込んでいく。
 口内に留めきれずに溢れ出した唾液が、幹を伝い落ちて赤木の睾丸を濡らし、フローリングの床に水溜まりを作る。
 唇と手を唾液でぐちゃぐちゃに濡らしながら、裏筋に舌を沿わせ、じゅるじゅると大きな音をたてて唾液を啜り上げつつピストンする。
 大きく育った赤木のモノに目をぎゅっと瞑り、濃い眉を苦しげに寄せながら頬を窄めて吸う。
 ときどき軽く歯が当たり、ピリピリとしたちいさな痛みが走るのが気になったが、一生懸命頑張る様子がいじらしく、水を差さぬよう赤木は敢えて指摘しなかった。

 唾に混じって先走りの苦い味が滲み始めると、カイジのきつく閉じた目許が赤く染まる。興奮しているのだろう、腰が微かに揺らめいている。
 ずっと口を開きっぱなしで顎が疲れてくると、カイジは赤木自身を口から抜き、横から唇で挟んで幹を扱いたり、睾丸をやわやわと揉みながら鈴口に舌先を割り入れたりする。
 薄い瞼がうっすらと開かれ、短くて濃い睫毛が、濡れた白目に陰影を作っている。
 落ちかかる長い髪を口の中に巻き込んでしまい、煩わしげになんども手で避けてはいるが、その甲斐もなく顔の周りの髪はベタベタに濡れ、頬に貼り付いてしまっている。
 ときおり漏れるくぐもったちいさな声といい、その様子はさながら、空腹の仔犬が餌の皿を舐め回しているようで、自然、赤木の口端がつり上がる。

「旨いか?」
 髪を梳いてやりながら問いかけると、カイジは実に素直に、眉を寄せ首を傾げてみせる。
「れも、ふきれふ……」
 口を離さぬまま返された呟きに、赤木は思わず笑った。でも、好きです。
 決して旨いとは思えない男のモノを、『好き』と言って口いっぱいに頬張り、喉奥を突かれて苦しくないはずがないのに、愛おしそうに愛撫を加える。
 相変わらず歯は当たるし、疲れてしまったのかあからさまに動きが粗雑になってきて、お世辞にもテクニックは達者とは言えないが、自分への溢れる想いを必死に行為で顕そうとするようなカイジの姿を眺め、赤木は十二分に満たされた気分になった。

 くしゃりと前髪を掴み、やさしく口淫を止めるよう促すと、カイジは眉を下げて残念そうな顔をする。
 それでも、素直に唇を離して体を起こすと、しょぼくれたように背中を丸めた。
「どうしたよ? 浮かねえ顔して」
 唾液でべとべとになった唇を掌で拭ってやりながら赤木が訊いても、カイジは答えない。
 フェラチオで、カイジが赤木をイかせられたことは今まで一度もない。今日もまた、最後までできなかったことを、不甲斐なく思っているのだろう。
 べつに叱られたわけでもないのに、しょんぼりと肩を落としているカイジに苦笑し、赤木はその太股を軽く叩いた。
「ほら、交代だ」
 言いながら、今度は赤木がカイジの前に体を伏せる。
「あ、赤木さんっ……」
 慌てたような声を無視して、開かせた足の間を掌で強めに撫でると、カイジが息を飲んだ。
 戸惑いと期待に揺れる瞳としっかり目を合わせたまま、赤木はジッパーの金具を歯で噛んで、ジジ……と音をたてて焦らすように下げる。
 ことさらゆっくりと、見せつけるように下着の中から取り出され、現れたカイジ自身はすでに天を仰いで反り返っていた。
 こみ上げる羞恥に泣きそうな顔をするカイジに、赤木はスッと目を細めて、意地の悪い笑みを見せる。
「……ほら、よく見ておけよ?」
 言いざま、硬い肉の先端に唇を落とし、いきなり亀頭をつるりと口に含むと、カイジは驚いたようにビクンと体を揺らした。
「赤木さ、んっ……あっ……」
 ひどく追い詰められたような声のあと、じわりと滲んだ先走りの苦味が赤木の舌を刺す。
 赤木に口淫を施していた時点で、すでにかなり気分が高まっていたのだろう。終わりはかなり早そうだと、赤木はカイジのモノを深く咥え直した。

 獣じみた忙しない息遣いを聞きながら、赤木はカイジ自身を根本から吸い上げ、手と唇でにちゅにちゅとピストンする。
 すこし痛いくらいの、キツめの刺激を与えてやると、カイジは呆気ないほど早くイってしまうのだ。
 マゾっぽいその気質を恥じているのか、カイジは赤木の前髪を掴み、激しい責めを止めさせようとする。
「あっだめ、だめです、あか、ぎさ、あっあっ……」
 上擦った喘ぎ声で、駄目だ駄目だと繰り返し訴える。
 責めの手を緩めぬままその顔を見上げれば、大きな目を快楽に赤く潤ませ、眉を顰めて愉悦に堪えるカイジの表情がそこにあった。
 与えられる快楽に押し流されつつも、その顔はまだ戸惑いを捨てきれず、どこか苦み走っている。
『神域の男』に口淫させていることに対して、罪悪感とか、申し訳なさを感じてしまうのだろう。
 誰かに強制されたわけではなく、赤木自ら行っていることなのに、そんな風に感じてしまうのがカイジらしいと言えなくもない。
 ……さっきフェラチオしていたときのように、欲望に身を委ね、奔放に楽しめばいいのに。
 カイジがそんなだから、赤木は邪気を掻き立てられてしまう。もっと苛めてやりたくなる。
 目を細め、赤木はカイジの腰を抱え込んでしまうと、喉の奥まで男根を咥え込んだ。
「あっ! 赤木、さ、だめ、それ、すご……っ」
 やわらかい粘膜でギュッと搾るように締め上げると、カイジの腰が震え、逃げようとする。
 だが腰はガッチリと抱き込まれて固定されているため、否応なく高められる射精欲にカイジは泣きベソをかいた。
「あぅ、う、赤木さ……も、やめ、でる……」
 燃える頬で限界を訴えるカイジに追い討ちをかけるように、赤木が口腔内をいっぱいに使って強く吸い上げると、カイジは切なげな声を上げながらイってしまった。
「っあっあ、あぁぁ……っ」
 泣きじゃくるように背中を大きく震わせながら、赤木の口内に勢いよく射精する。カチカチになった睾丸を揉んでやると、カイジの腰が浮き、もっととねだるようにいやらしく揺れた。

 戸惑いや罪悪感など、絶頂がもたらす凄まじい快楽の前では跡形もなく消し飛んでしまう。
 常日頃から、赤木と自分の間にある格差を感じ続け、睦言にすらその劣等感を無意識に持ち込んでしまうカイジが、余計な感情をすべて捨て去ってしまえるのは、唯一このときだけだった。

 ただひたすら快感に背を戦慄かせ、しどけなく乱れる姿は蜂蜜みたいにどこまでも甘く、目許を緩めてそれを愛でる赤木には、苦いはずの精液すらほの甘く感じられた。


 カイジのモノが完全に吐精を終えると、赤木は喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。
 深く息をついて体を起こし、ぐったりとしてしまったカイジを見る。
 放心状態で息を整えながら、潤んだ眼差しを赤木の方へ向けると、カイジはぽつりと呟いた。
「すみません……」
 赤木は目を丸くし、思わず苦笑する。
 イった瞬間はあんなに淫らに陶酔していたくせに、絶頂感が去ると、第一声がこれだ。
「なに謝ってんだ、ん? 俺の口に出しちまったことか?」
 わざとらしく羞恥を煽るように言ってやると、カイジはさっと顔を赤らめ、ぼそりと言った。
「それも、あるけど……オレ、下手で……」
 もごもごと口篭もるようにしてうつむいたカイジの視線の先には、未だ苦しげに勃起したままの赤木のモノがあった。
「なに言ってんだ」
 情けない顔をするカイジに、赤木は笑い、その頭をぐしゃぐしゃに撫でてやる。
「お前はちょっと、下手くそなくらいでいいんだよ」
 それから、頭を撫でた手を後ろへ回し、尻を撫でるとカイジはゾクリと背筋を震わせた。
「お前はコッチの方が達者だろ? 口でして貰うのも悪かねえが、このくらいで止めといた方が、俺としても愉しめるってもんだ……」
 そうだろ? と囁きかけ、色付いた耳に赤木が歯を立てると、カイジは身を捩ってため息を溢しつつ、赤木を睨むようにして見た。
「ぜったい、上手く、なってやる……!」
 赤木の慰めよりも、『下手くそ』とはっきり言われたことに矜持を傷つけられたらしい。
 悔しそうにむくれるカイジに、赤木はやっぱり苦笑を禁じ得ず、
「頑張れよ」
 と言って、固く結ばれた唇にキスしてやった。






 


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