嫉妬(※18禁)・1 アカギがひどい カイジが乙女


「きーてくださいよぉカイジさぁん、オレの彼女、め〜ちゃくちゃヤキモチ焼きで、ホント、困ってるんすよねぇ〜!」

 そんな、果てしなくどうでもいい愚痴だかのろけだかを垂れ流す佐原の、だらしなくやに下がった表情を眺めながら、カイジはグラスを大きく煽った。

 金曜の夜。カイジと佐原がバイト上がりに暖簾を潜ると、居酒屋はほぼ満席だった。
 辛うじて数席空きのあった二階のカウンターに座り、注文した酒が届くか届かないかのうちに、いてもたってもいられないという風に、勢い込んで佐原は喋り始めたのだ。
 最近ヨリを戻したという彼女が、どれだけ自分にゾッコンで、それはそれはかわいいヤキモチ焼きなのかということ。

 その彼女とカイジは面識がないが、佐原とどういった経緯で知り合い、一旦別れることになったのかということだけは、なぜか詳細に把握している(聞いてもいないのに、佐原が勝手に喋ってくるせいで)。

 いったん別れることとなった原因は、佐原の方にある。佐原が彼女に、ネット販売のヘンな媚薬をこっそり使ったからだ。
 当然佐原は、すぐにフラれた。打ちひしがれる佐原を、自業自得だとカイジは冷笑していたが、そのふたりがなんと、一ヶ月も経たないうちに復縁したのだ。
 別れるまでの流れを聞いたとき、カイジは佐原のことを救いがたい馬鹿だと思ったが、こう易々とヨリを戻したとあっては、その女も相当頭がイカれているのではないかと思い直すに至った。
 割れ鍋に綴じ蓋、というやつだ。

 ここからは余談になるが、佐原が彼女に使ったクスリの残りを、よりにもよってカイジが半値で無理やり引き取らされた挙げ句、自分の恋人である男に使用して地獄を見るハメになった。
 最後のは完全に自業自得と言えなくもないが、そもそもの原因を作ったのは佐原である。

 というわけで先日、カイジは佐原を一発殴ったわけだが、それだけでは当然怒りのおさまらないカイジを、佐原が「詫びのつもりで奢るから」と宥めすかして飲みに誘い、今に至るのだ。




「……んで! オレはただ客もいなくてヒマだったから西尾ちゃんとダベってただけなんすけど、それを見てた彼女が怒っちゃって……バイトおわってからご機嫌取るの、マジ大変だったんすよねぇ〜……」
 ずっと誰かに話したくてたまらなかったのだろう、立て板に水の如く淀みなく喋りまくる佐原の声を、カイジは右から左へ聞き流す。

 この調子だと、「詫びに奢る」というのは口実で、佐原は単に、ノロケ話の聞き役が欲しかっただけなのだ。
 体のいいスケープゴートに選ばれたことにはこの際目を瞑るとして、コイツ奢るって約束忘れてねぇだろうなと、カイジは上機嫌な佐原を白眼視しつつ、飲み食いを続ける。

「まぁ〜そんなとこも可愛いんですけどね〜……って、ちょっとカイジさんっ……!! ちゃんときーてくれてます!?」
 急に大きな音をたてて佐原がカウンターテーブルを叩いたので、完全にうわの空だったカイジはビクッと肩を揺らしてしまう。
 頬を膨らませて自分を睨む佐原に、カイジは慌てて空になっていた佐原のコップにビール瓶を傾けてやる。
「ちゃんと聞いてるって……」
 そんなに怒ることかよ、と呆れながらも、カイジはそれを口に出さない。機嫌を損ねて佐原がごねだしたら、果てしなく面倒くさいからだ。



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