solo【その2】(※18禁) アカギがオナニーする話



 バイト上がり、疲れきった体を引きずり引きずり、カイジはアパートに帰った。
 すぐさま風呂へ直行し、熱いシャワーを浴びてようやく人心地つく。
 寝巻きに着替え、歯を磨き、おざなりにドライヤーをかけて、まだ湿った髪のまま早々に布団に潜り込む。

 すると、スウェットの裾から冷たい手が忍び込んできて、ぺたりとカイジの腹にくっついた。
「……っ!」
 ぞくりと背筋を震わせてから、カイジは先に布団に入っていたアカギを睨んだ。
「おかえり」
 カイジの睥睨などお構いなしに、アカギはそう言って、掌でゆっくりとカイジの腹筋を撫で上げる。
「え……すんの?」
 放っておくと胸まで到達しそうなアカギの手を、掴んで制しながらカイジが訊くと、アカギは、もちろん、といった風に頷く。

 カイジはあからさまに嫌そうな顔になる。
「……オレ、疲れてんだけど」
「そう」
 非難がましいカイジの口調に短く返事して、だがアカギの手は一向に止まる気配がない。
「ま、関係ねぇな……そんなことは」
 自分の意志を無視して手前勝手な行動をするアカギに、カイジはとうとう声を荒げた。
「あー! もう! オレはやんねーっつってんだよ! そんなにやりたきゃ、ひとりでマスでもかきゃいいだろうがっ……!」
 お前の右手はなんのためについてんだ! と言われて、断じてマスかくためなんかじゃねえよという反論がアカギの頭に思い浮かんだが、あまりのバカバカしさに口に出す気すら起こらなかった。
 アカギが沈黙している間に、カイジはさっさとアカギに背を向け、目を閉じてしまった。
「……」
 まっすぐな背中のラインを、アカギは暫しじっと見る。
 それから、静かに口角を上げ、ぽつりと呟いた。
「なるほど……あんたの言うとおりだ……」
 こちらが折れるまで、鬱陶しく眠りの邪魔をしてくるだろうと予測していたが、意外にも素直に引き下がったアカギに、カイジは目を閉じたままほっと息をつく。
 いそいそと寝に入ろうとしたカイジだったが、突然、背中になにかが押し当てられて眉を寄せる。
 体温と感触で、アカギがそこに額をつけたのだとわかった。
 続いて、微かな衣擦れの音が、下の方から聞こえてくる。
 カイジの背中に顔をくっつけたまま、アカギは大きく息を吸い、くぐもった声で呟いた。
「カイジさん……」
 一体何をしてるんだと、さらに強く眉根を寄せるカイジの耳に、なにかを擦るちいさな音が聞こえ始める。
(えっ……?)
 カイジは思わず目を開けてしまう。
 この音は、まさか。
 アカギの体から規則的な振動が伝わり、馴染みのあるそのリズムにカイジの睡気が一瞬で吹き飛んだ。

 アカギが、自慰をしている。

 そう確信した瞬間、カイジの顔が耳まで真っ赤に染まった。
 心臓がバクバク早鐘を打ち始め、喉がカラカラに干上がる。



 硬直するカイジを余所に、アカギの動きは徐々に激しさを増してゆく。
 荒くなる呼吸音とともに上がり始める、微かに湿った音。
 カイジは息をのんだ。
 全身が耳になってしまったような気分で、ただ壁を見つめる。

 アカギが、自分をオカズにオナニーしている。
 いったい、どんな顔で。
 どんな風にしているのだろうか。

 すぐ背後にあるその姿を妄想するのを、カイジは止めることができなかった。



 いやらしい水音は、どんどん大きくなる。
 それにつれ、アカギの息も荒くなり、ときどき低い呻き声が混ざってくる。
 知らず知らずのうちに、カイジの呼吸も早まってきていた。
 くちゅくちゅという密やかな音が、ダイレクトに腰に響く。
 だけど、寝たふりをしているカイジは身じろぎひとつできず、体の疼きをやり過ごそうと必死になっていた。
「カイジさん……」
 陶酔しきっているようで、でも聞きようによっては、ひどく苦しげにも聞こえる声。
 そんな声で呼ぶな、とカイジは心中でアカギに懇願する。
 目がどんどん冴えていく。
 体に逃げ場のない熱がこもって、辛い。
 とうとう堪えきれず、カイジはほんの少しだけ身動きしてしまう。
 自分の起こしたごく小さな衣擦れの音が、やたら大きく響いた気がして、カイジは思わず息を詰めた。
 すると、それにあわせてアカギの動きも急にぴたりと止み、狸寝入りを気取られたのかと、カイジはヒヤリとする。
 どくん、どくんと脈打つ心音がアカギにまで聞こえそうで、カイジは思わずぎゅっと目を瞑った。

「なぁ……起きてるんだろう?」
 掠れた声に、飛び上がりそうになるカイジの肩に、アカギの手がかけられる。
 そして、そのまま力を込めて引き倒され、体をアカギの方へと向けられた。

「……あ……」
 寝たふりをするのも忘れ、まともにアカギの顔を見てしまい、カイジはごくりと唾を飲み込んだ。

 アカギの顔色は一見いつもと変わらないが、心なしか、頬がうっすら桜色に染まっているような気がする。
 鋭い双眸は、はっきりと性感に濡れていて、薄く開かれた唇の間から、獣じみた荒々しい吐息が漏れている。
 そしてその両手は、柔らかい寝巻きの生地の中に突っ込まれ、布越しでもわかるほど大きく育ったものを握り込んでいた。

 どうしようもなく腰が疼き、もぞもぞと身じろぐカイジに、アカギは息をつくようにして笑う。
 そして、カイジに見せつけるように手を動かしながら、すこし上擦った声で言う。
「起きてるなら……ちゃんとこっち、見てくれよ……、寂しいじゃねえか……」
 ねだるような言い方に、カイジの心臓が跳ねる。

 カイジの顔を間近で見ながら、でもその体には一指たりとも触れることなく、アカギはひたすら自慰に没頭する。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鼓膜を震わせ、カイジの息もどんどん熱を帯びていく。
 頬を赤く染め、ため息をつくカイジの様子を見て、アカギは一旦手を止めた。
 そして、先走りに濡れた手でカイジの両手を包み込むように握り、寝巻きの中へと誘導した。
「あ、アカギ……っ」
 どぎまぎするカイジの両手を、刀身を握る自分の手の上にそっと重ねさせ、カイジの顔を熱っぽい目つきでじっと見つめながら、アカギは手の動きを再開する。
 間接的に自慰を手伝っているような背徳感と、直接触れられないもどかしさで、カイジの手に思わず力がこもる。
「……ぁ、」
 途端、アカギは眉を寄せ、ちいさく声を漏らした。
 普通、男がひとりでするときなんて、こんな声出したりしない。
 絶対に、わざとだ。
 カイジを煽るために、わざとやっているのだ。
 それがわかっていながら、アカギの思うまま、まんまと気分を乗せられてしまうあさましさに、カイジは唇を強く噛む。
 今まで見たこともないアカギの乱れた様子に、体も心も否応なしに反応して、剥き出しになった神経を撫でられているみたいに、ひどく敏感になってしまう。
 ふたりの熱い吐息が、至近距離で重なる。

 アカギはぶるりと体を震わせ、目を細めてカイジに訴える。
「ん……ほら、もうイくよ……ね、出るよ、カイジさん……」
 甘えるように言って、自分を追い上げていくアカギに、無意識のうちにカイジの手により一層強く力がこもる。
 絶え間なく溢れ出る先走りが、アカギの指の間から漏れてカイジの手を汚す。
 揉み込むように一際激しく扱き上げたあと、アカギは瞼をきつく閉じ、低く呻いた。
 それから、ゆっくりと、押し上げるように緩やかさな手つきに切り替わり、カイジはアカギが達したことを知る。
 薄く開かれた唇から漏れる、荒い吐息。
 白い瞼と、震える短い睫毛。
 どきどきしながらカイジがアカギの顔を見ていると、その手が、やがてドロリと熱い液体で濡れた。

 手の動きを止め、アカギは軽く息をついて目を開く。
 目と目があって、びくりと硬直するカイジに、ニヤリと笑った。
「イっちまった……」
 そして、寝巻きの中からカイジの両手を掴んで引きずり出し、白濁に汚れたそれを自分の手もろとも掃除するように、舌を押しつけて猫みたいに舐め始める。
 その姿の卑猥さに、カイジ自身がずくんと疼痛を訴えた。
 自分のザーメンなんてよく平気で舐められるな、などと心中で罵りつつも、ちらりと誘うように流し目を送られると、どうにも堪らなくなってしまう。

 とうとう、カイジの理性は誘惑に流されてしまった。
 おずおずとアカギの舌が這い回る自分の手に顔を近づけ、舌を伸ばしてアカギの舌先をそっとつついてみた。

 だが。
 最高潮に高まったカイジの期待をあっさりと裏切り、アカギはすっと舌をひっこめてしまう。
「どうしたの? ……出すもん出したし、オレもう眠いから、寝るけど」
「……えっ?」
 思いがけない反応に困惑を隠せないカイジをよそに、アカギはさっさといつもの顔に戻り、乱れた寝巻きと布団を整える。
 そして、唖然とするカイジにとどめをさすように、傲然と、冷たい口調で言い放った。

「そんなにやりたきゃ、ひとりでマスでもかいてれば?」

 そして、ぱかりと口を開けて大欠伸をすると、カイジに背を向けてしまう。



 カイジはしばらくぽかんとしていたが、アカギの思惑を理解すると、顔を真っ赤に染めてギリギリと歯軋りした。
 つまりこれは、セックスに乗ってこなかったカイジへの、嫌がらせなのだ。

(っくしょ……! この、性悪男……っ!)

 ぶるぶる拳を震わせながら心の中で罵っても、アカギに届くはずもない。

 固く膨らみ、すっかり臨戦態勢の自身に目を落とし、カイジは煩悶した。
 こんな状態では、落ち着いて眠れるはずもない。
 かといって、今更アカギを誘うのはプライドが許さない。


 結局、カイジはトイレへ飛び込み、涙目になりながら、ひとり虚しく体にこもった熱を吐き出す羽目になるのだった。






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