ハッピーアイスクリーム!・3(※18禁)


「オレも、食ってみていいか?」
 そわそわと問いかけてくるカイジに、アカギはアイスカップを手許に引き寄せると、スプーンで掬って口許へ差し出してやった。
 へへ、と照れたように笑い、素直に口を開いて待つカイジを見ていると、アカギの心に悪戯心が芽生えた。
 わざと狙いを外し、掬ったアイスをカイジの口の端に、べちゃりと押し付ける。
「うわっ!」
「ごめん、手許が狂った」
 棒読みで謝るアカギに、カイジは顔を歪めながら指で口端を拭う。
「ったく……なにやってんだよ……」
 ぶつくさと文句を垂れながら、溶けたアイスのついた指を舌で舐め取る。
 その仕草に、アカギの中のなにかが、ぴくりと反応した。
「……アカギ?」
 急に無口になったアカギを、カイジは不思議そうな顔で覗き込む。
 まだ完全に拭いきれていないアイスが、その口許に白く残っていた。
 黙ったまま、アカギはゆっくりと立ち上がると、卓袱台を回りこんでカイジの側に座る。
「失敗してごめん。今度こそ、ちゃんと食べさせてあげるから」
「えっ? ああ……」
 真面目な顔つきで自分を見るアカギに気圧されつつもカイジは頷いたが、アカギが右手をアイスカップにずぶりと突っ込んだのを見て、あんぐりと口を開けた。
「お、おいっ……!! いったい、なにをっ……!?」
 焦るカイジを余所に、アカギはアイスをこんもりと掬った右手を、カイジの前に突き出した。
「ほら、食べなよ」
「……!」
 信じられない発言に、カイジは絶句する。
 いつの間にか、アカギの目の奥にはちらちらと欲望の火が揺れており、それを見て取ったカイジは、自分の意思に反し、ぞくりと背が粟立つのを感じた。

 そういえば、最近、していない。
 アカギに会うのも久しぶりだったし、最近バイトの疲労と暑さのせいで、自分で抜く元気すらなく、シャワーを浴びたら速攻で爆睡という日々が続いていた。

 一旦、自分の中の性衝動に気がついてしまうと、カイジの体はあっという間に火照りだし、アカギの欲にあてられたかのように下肢が疼き出す。
 それを知られたくなくて、唇を噛んで俯くと、アカギが再度促してきた。
「……ほら、早く。溶けちまうぜ?」
 静かな声の中に、押し殺された欲望が見え隠れしている。
 その声はカイジの鼓膜をぞくぞくと震わせ、吐息を熱くさせた。
 ーー逆らえない。
 ぽたり、と、溶けた白い雫が一滴、アカギの手から床に落ちたのを合図に、カイジは目を閉じてアカギの掌に顔を伏せた。
 アカギの体温でとろとろに溶けたアイスを、舌で掬う。途端に鼻に抜けていく、上等なウイスキーの香り。
 甘くて、冷たくて、熱くて、どうにかなってしまいそうだ。
 だけどアイスの味よりも、舌で感じるアカギの手の感触の方が、カイジを夢中にさせていた。
 無意識のうちに、カイジは両手でアカギの手を包み込み、無心で舌を這わせていた。
 掌の上のアイスをすべて舐め尽くしてしまったあとも、カイジはアカギの手を離そうとしなかった。
「クク……もう空だぜ? カイジさん」
 アカギに笑われ、カイジは目許を赤く染める。
 それでもアカギの手に舌を這わせ、目を伏せて指の一本一本を丁寧に舐めしゃぶるカイジの姿からは、アカギを誘惑しようとしている意図が明確に感じられた。

 アカギは笑いを収めると、唾液でべたべたになった右手でカイジの顎を掬い上げ、唇を重ねる。
「ん、ん……っ……」
 すぐに熱い舌が潜り込んできて、カイジはアカギの服をぎゅっと掴んだ。
 甘い口内を味わい尽くすような、貪欲な動きに頭がくらくらする。
 恥ずかしくなるほど濡れた音がふたりの口の中で響き、どうしようもないくらい興奮を煽られる。
「っ、は……」
 アカギが唇を離すと、カイジの舌が名残惜しげにそれを追った。透明な糸がふたりの間を繋いで切れ、アカギは静かにカイジの名を呼んだ。
「……カイジさん」
 体をそっと床に横たえられる。見上げるアカギの顔はぎらついていて、こみ上げる衝動を隠そうともしていない。
 ああ、アカギが自分に欲情している。そう思っただけで、カイジもまた、涙ぐむほど興奮するのだった。



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