ハッピーアイスクリーム!・2(※18禁)
「はぁ〜……、今日も暑かった……」
数時間後。
アカギが先に帰って待っていた部屋に、バイトを終えたカイジも戻り、すぐに酒宴が始まった。
ビールを勢いよく喉に流し込み、ようやく人心地ついたのか、卓袱台にぐったりと突っ伏すカイジを見ながら、アカギもビールを口に含む。
「そんなに暑がってる割に、エアコン使わないんだ」
壁際で沈黙を保ち続けるエアコンを見上げ、アカギはぽつりと言う。
「ああ……電気代、バカにならねぇからな……」
机に顔を押しつけたまま、くぐもった声でカイジが答える。
エアコンの代わりに、ふたりの傍らでは古い扇風機が首を振っており、窓も全開に開け放たれているが、送られてくるのは生ぬるい風だけで、すこしも涼を得られない。
暑さと疲労でぐにゃぐにゃになっているカイジとは対照的に、アカギはこの熱帯夜にもすこしも表情を動かさず、淡々としている。
「……お前ってさ、暑さとか平気なわけ?」
キンキンに冷えたビールの缶に頬を押しつけながら、カイジはアカギに問う。
「そんなことないよ。オレだって暑いのは苦手さ」
涼しげな顔でそう言うアカギを、カイジは疑わしげに眺めていたが、ふいに「あっ!!」と大声を上げ、がばりと体を起こした。
「そういえば、アイス! アイスがあるんだった!!」
子供のようなはしゃぎっぷりで、カイジはバタバタと台所へ向かう。
卓袱台の上にはまだビールもつまみもたくさん残っているのにと、アカギは呆れながらその背を見送った。
数分後、カイジはようやく居間へと戻ってきた。
さっき買った二個のアイスとスプーンの他に、マグカップをひとつ、手に持っている。
卓袱台の上にあるものをどけてそれらを置くと、カイジはカップアイスを指さしてにこやかに言った。
「ほら、お前の分も持ってきたぞ」
アカギは顔を顰め、カイジが差しだしてくるアイスを見る。
「オレはいい……あんたが食いなよ」
「まあ、そう言わずに。本当にうまいって評判なんだから」
アカギの言うことには聞く耳も持たず、カイジは意気揚揚とカップの蓋を剥がす。
現れたアイスの表面は雪のように白い。バニラアイスだ。
カイジはそれをスプーンで掬い、アカギの前に突き出した。
「ほら、騙されたと思って。な?」
やけにしつこく勧めてくるカイジにアカギはため息をつくと、渋々小さく口を開いた。
唇の間からスプーンが滑り込まされ、舌の上に冷たい塊を乗せると、口内から出ていく。
「甘……」
あっという間に舌の上で溶け、口中に拡がっていく甘さに、アカギは深く眉を寄せた。
アカギの様子に、カイジはもっともらしい顔で頷く。
「やっぱり。お前はそう言うと思ったよ」
「……あんた、わかってて食わせやがったのか……?」
ゆらりと怒りを立ち上らせるアカギにも動じず、カイジはなぜか不敵に笑う。
「ふっふっふ……そこでだ」
と言って、カイジが手にしたのは、さっきアイスと一緒に持ってきたマグカップ。
カップアイスの上で、カイジは慎重にマグカップを傾ける。
すると、その中に入っている琥珀色の液体が、アイスの上にとろりと垂らされた。
スプーンで掬って空いた穴の中に、その液体を注ぎ込み、余ったものを表面全体にかけて、カイジはマグカップを卓袱台の上に置く。
そして、再度スプーンで琥珀色の液体ごとアイスを掬うと、アカギの前に差し出した。
「食ってみ。きっと、さっきとは違うと思うぜ」
自信満々なカイジの様子を怪しく思いながらも、アカギは仕方なく、ふたたび口を開く。
先ほどと同様、アイスの乗ったスプーンが口の中に入ってきたが、舌先が触れた瞬間、アカギは先ほどとの違いに気がついた。
熱い。いや、アイスは冷たいのだが、それにかけられた液体が熱いのだ。
液体の熱さと、アイスの冷たさが混ざり合って、不思議な感覚の口内いっぱいに広がる、ある香り。
「ウイスキー?」
アカギの呟きに、カイジは大きく頷いてみせた。
「お前がこの間、うちに置いてったやつだよ。
あっためたウイスキーをバニラアイスにかけると滅茶苦茶うまいって、こないだテレビでやってたからさ。試してみようと思って」
これならお前でも食えるだろ? と、カイジは胸を張る。
確かに、酒のおかげで甘味がだいぶ緩和され、熱さと冷たさの入り混じった不思議な食感も、いい具合に甘さを忘れさせてくれる。
熱いウイスキーのかかったバニラアイスはすでに半分溶けた状態で口の中に入ってきて、舌の上ですぐに消えてなくなってしまうので、口内にいつまでも不快な甘味が残っているということもない。
「確かに。これなら食えるかもしれない」
アカギの言葉に、カイジは嬉しそうに笑った。
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