蓼食う虫・2



 材料を買い込んで帰ると、アカギは暇そうにパチンコ雑誌を捲っていた。
「じゃ、今から作るから。ちょっと待ってろ」
 と声をかけると、アカギは雑誌から顔を上げずに頷く。
 本棚から前回使ったのと同じ料理本を抜き取って、台所へ移動する。


 材料を並べ、料理本を開いて、カイジは、よし、と気合いを入れた。
 玉葱を微塵に切って、飴色に炒める。
 挽き肉をボールに空け、卵とパン粉と炒めた玉葱を入れ、塩コショウして手で捏ねる。
 全く同じ工程を一度経験しているため、分量以外は本をほとんど見ずとも作っていくことができた。
 白っぽくまとまったタネを成形して、両手でキャッチボールをするようにして空気を抜いてから、真ん中を窪ませる。
 三十分もしないうちに、大きめのハンバーグのタネがふたつ、出来上がった。
 ここまでは問題ない。
 あとは焼くだけだが、ここが前回失敗した一番の要因なので、カイジは気を引き締める。
 フライパンを中火にかけ、油を引いてそっとハンバーグを並べる。
 食欲をそそるような音がたち、それを封じ込めるように蓋をして数分。
 ひっくり返すと、いい具合に焦げ目がついていた。
 さらに蓋をして焼いていく。この間は放置しすぎたので、ちょくちょく蓋を取って中を確認する。

 やがて、もう片方の面にもほどよく焼き色がついた。
 菜箸で刺すと、空いた穴から肉汁がじゅわっと溢れてくる。
 完全に火が通ったことを確認して、火を切り、カイジはほっと息をつく。
 前回と同じタネからできたとは思えないほど、きれいで美味しそうなハンバーグが完成した。
 焼き方さえ注意していれば、身構えていたのが杞憂だったと思えるほど簡単だった。
 焼けた肉の匂いと、コショウのスパイシーな香りがたまらなく食欲をそそる。
 ファミレスのハンバーグなんかより、ずっとずっとうまそうな出来栄えだった。
 うきうきと弾んだ気分で皿に盛りつけ、千切りのキャベツを山盛りにして添える。







「ほら、できたぞ」
 アカギの前にハンバーグの乗った皿を置いてやると、アカギはハンバーグを見て数回、瞬きをする。
「……なにこれ」
「なにって……ハンバーグだよ」
 まさかの発言にずっこけそうになりながら、自分の分の皿を置く。
「前回の出来とは雲泥の差だろ?」
 自画自賛するカイジを余所に、アカギは穴が空くほどじっとハンバーグを見つめている。
 それから、同じ目つきでカイジを見上げ、ぼそりと言った。

「……オレが食いたかったのと違う」
「はぁ?」

 思いがけない発言の連続に、カイジの声がひっくり返る。
「オレが食いたかったのは『こないだのハンバーグ』だって、さっきも言ったけど」
 まるで子どものようにまっすぐな瞳で、アカギはそうつけ加える。
「こないだの……って……」
 困惑しながらそこまで言って、カイジははたと気がつく。
「お前まさか、あの黒焦げの、カチカチのハンバーグが食いたかったってのか!?」
「うん」
 実に素直な様子でこくりと頷くアカギに、カイジは顎が落ちそうなほどあんぐりと口を開け、唖然とした。




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