???の嫁入り・1 しげるが神さまなパラレル ケモ耳しっぽ注意
ぐずついた天気の続いていたある日、カイジは日用品の買い付けに、傘をさして近所のドラッグストアまでぶらぶらと歩いていた。
連日の深夜バイトのせいで寝ても寝ても眠い目を擦り、大欠伸をする。
時刻は昼前。最近、あまり昼間出歩くことがなかったカイジは、着々と夏に向かっている街の様相に驚かされた。
むっと蒸し暑い雨空の下、色とりどりの傘を差して歩く人々の、半数以上が涼しげな半袖姿だ。
カイジの活動時間帯である夜はまだ涼しいから、夏なんて当分先のことだと思っていたカイジは、まるで自分だけが取り残されてしまったかのような気分になった。
夜歩いていたときはさして気にも止めなかった街路樹も、昼の光のもと改めて見ると、青々と葉を茂らせ、もうすっかり夏仕様である。
雨に濡れてなおいっそう瑞々しい緑を、見るともなしにぼんやりと眺めながら歩いていたカイジだったが、生い茂る葉っぱの中になにやら白い塊を見つけて思わず立ち止まった。
目を眇めて凝視すると、その塊は毛玉のようにふわふわとしていて、もぞりと動いた。
毛玉が動くと、頭の上にある大きな三角の耳と、地面に向かって垂れ下がる太いしっぽ、細い枝の上に器用に乗っかる細い四つ足が露わになる。
(猫? いや、犬……か?)
そのどちらにも近いようで、どちらにも当てはまらないような動物に見えた。
樹から下りられなくなったのかと思ったが、落ち着き払ったその様子から、そうではないとカイジは判断する。
真っ白な細面を凜と上げ、樹上の生きものはふたつの目で街行く人の群れを見下ろしていたが、やがて、真っ赤な口を開けて大欠伸をした。
それから、ようやくカイジの存在に気がついたのか、じっと見返してくる。
きりりと吊り上がった両の目。その中にある丸い瞳は、驚くほど鮮やかな緋色をしていた。
じっと見ているとなんだか釣り込まれそうになり、カイジははっとして目を逸らす。
すると、微かな葉擦れの音がして、カイジがふたたび樹上を見たときには、生きものは忽然と姿を消していた。
慌てて辺りを見渡すが、白い姿はどこにもない。
まるで狐につままれたような気分で、揺れる枝葉をカイジは眺めていた。
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