こわい(※18禁)



 体の奥まで入り込んで、激しく揺さぶられる。
 悲鳴のような音をたてて軋むベッドの上で、カイジはすさまじい恐怖に囚われていた。



 アカギとこういうことをするのは、まだ三度目。
 最初の一二度は、ただひたすら痛いだけだった。体を引き裂かれるような激痛に、なんでオレがこんな目に遭わなきゃいけねえんだと、泣きながらなんども思った。
 相手が惚れた男でなければ、とてもじゃないが我慢などできるはずもなかった。
 アカギが達したあと、痛みで萎えに萎えたカイジ自身を、アカギの手で射精に導いてもらうというのが、ふたりの行為のお決まりの終わり方だった。

 だから今日も、カイジは内心ため息をつきながらベッドに身を沈めたのだ。
 覆い被さってきたアカギの双眸に見下ろされ、またあの痛みに耐え続ける時間がやってくるのかと思うと、身が竦んだ。




 だが、カイジが今、恐怖しているのは、行為の痛みに因るものではない。
 正体不明の感覚のせいだ。

「ふあ、ぁ」
 中を無遠慮に犯す肉棒に、思わず声が漏れる。
 媚びるような甘ったるい声。本当に自分の声帯が発したのかと、耳を疑った。

 確かに痛みもある。だが、それを圧倒的に上回るべつの感覚が、カイジに妙な声を出させていた。

 突かれるたび、言い知れぬ甘さに背筋が痺れる。
 アカギと繋がっている部分が、燃えるように熱い。
 まるで腰の辺りだけが、べつの生きものになったみたいだ。
 羽根が生えて、ふわりとどこまでも高く浮かんでいきそうな感覚。

 今まで生きてきて一度も感じたことのないようなそれに、カイジは怯えた。
 怖かった。自分が自分でなくなっていくようで。
 自分さえも知らなかった自分自身の秘密を、アカギによって暴かれていくようで、とても怖かった。

 カイジはぎゅっと瞼を綴じあわせ、腕を背に回し脚を腰に絡めて、まるで動物の子供がそうするみたいに、きつくきつくアカギにしがみつく。
「……そんなにしがみつかれると、動けないんだけど」
「あ……わ、悪ぃ」
 苦笑混じりの呟きに、カイジは必死に力を緩めようとするが、どうしてもできない。

 揺さぶられるたび、カイジの体はどんどん高いところへふわふわと浮かんでいくのだ。
 背中はベッドについているはずなのに、腕を緩めると振り落とされそうな気がして、怖かった。
 アカギにしがみついていないと、このわけがわからない浮遊感のただ中でひとり取り残されそうで、不安だった。

 緩むどころか、さらに力を増してすがりつく力に、アカギはふっと笑う。
 そしてなにを思ったか、カイジの二の腕を掴むと、しがみつく腕を力尽くで外しにかかった。
「……!! あっ、嫌……! いやだアカギっ、やめ……っ!!」
 恐怖に叫び、カイジは死に物狂いで抵抗する。
 自分よりガタイのいい男が本気で暴れ、さすがのアカギも手こずったが、うまく力を逃がすように抵抗をかわすと、カイジの手首を掴んでベッドに縫い止めた。

「あ、あ……アカギっ……」
 真正面から見るカイジの顔は、明確な怯えの色を滲ませていた。
 体が小刻みに震えている。呼吸が浅い。逞しい腕に、びっしりと鳥肌がたっている。
 しかし、これらが痛みによるものじゃないということは、アカギの腹の下でそそり勃つ熱い塊がなによりも如実に物語っていた。
 カイジは明らかに、後ろからの快楽を感じ始めている。

 助けを乞うようなカイジの瞳に、アカギはニヤリと笑いかけてやる。
 そして、予告もなしにふたたびソコを責め始めると、カイジは目を見開いて体を仰け反らせた。
「あっ! あ、アカギっ、いや……嫌だぁっ……!!」
 首を激しく左右に振りたくり、カイジは押さえつけられた腕をなんとか動かそうとする。
「こ、怖い……っアカギ、なぁ、頼むからぁっ……!」
 しがみつかせてくれ、と泣きながら懇願するカイジに嗜虐心を刺激され、アカギはクククと喉を鳴らす。
「大丈夫……、怖いことなんて、ひとつもないよ……ほら、」
 アカギが指をカイジのそれに絡めると、ようやく縋るものを見つけたかのように、すぐさま強く握りしめられる。
 指を折られそうなほど込められたその力が、アカギを凶暴にさせた。

 ベッドを壊すような激しさで律動を繰り返しながら、アカギはカイジに顔を近づける。
「なぁ……イキそうなんだろ? ケツだけで。見たいな、あんたのだらしないイキ顔」
「あっあっ、い、いや……だ……っ!」
 頬を真っ赤に染め、嬌声の合間にカイジは拒否を示す。
 このままのぼりつめてしまったら、自分はもう、二度と戻れないような場所へいってしまうのではないかという、強い恐れがあったのだ。
 だがそんなカイジの心を、体は勝手に裏切り、暴走してどんどん高みにのぼっていこうとする。
 怯えて震え、自分でも気づかぬうちにカイジは泣きじゃくっていた。

 軽く息を弾ませてカイジを揺さぶりながら、アカギは唇の触れ合う距離でそっと囁く。
「オレも一緒にいくから……怖がらずに見せてみな?」
 その言葉に、カイジの強張りが僅かに解けた。

 ああ……こいつも一緒に来てくれるのか。
 意識が真っ白に飛びそうな、いちばん高いところへ。
 それなら、べつに怖がる必要なんてない。

 体が緩んだためにできた隙間を埋め尽くすように、動きが激しさを増す。中がアカギでいっぱいになる。
 それでも、カイジはもう怖がらずに、アカギの手をしっかりと握って未知の感覚を受け止めた。
 すると、素直になった心と体が、溶けるようにしてアカギに馴染み始める。
 本当の意味で、アカギとはじめてひとつになれるような、それは確かに快感だった。

「きもち、いい……」

 初めて、カイジはその言葉を口にした。
 それはほんとうにちいさな声だったが、アカギはやわらかく目を細める。
 その顔は、嬉しそうに笑っているみたいにカイジの目に映った。


 終わりが見え始めている。
 交合がどんどん激しくなるにつれ、ふたりの息も上がっていく。
「あ、っは、あか……あかぎっ、」
「……カイジ、さん……」
 そこにいることを確認するようになんども名前を呼ばれ、アカギはそれに応えるように深く口付ける。
 そして、ふたり一緒にその場所へいくために、カイジの体の奥深くを思いきり突き上げた。






 

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